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第98話 君へと続く場所①

康太は笛吹の邸宅の前に行くと、インターフォンのボタンを押した 『どなた様ですか?』 「飛鳥井康太と申します」 『どの様な要件で御座いますか?』 「オレの仲間がこの屋敷の中にいると位置情報が示している 調べさせて戴きたいのですか?」 康太は単刀直入に切り出した 門塀が開き……中から使用人が姿を現した 「ご主人様がお待ちです、此方へ」 そう言い案内されたのは…… 大きな応接間だった ソファーに座って待っていると… 「これはこれは…… 飛鳥井家真贋が直々のお出ましですか? 一廼穂の組の者……貴方達は招いてはおりませんが? 本当に……邪魔しかしない男ですね」 年の頃なら相賀位の身なりのいい男が姿を現した 「聡一郎を返して貰おう!」 康太は単刀直入に切り出した 「宜しいですよ…… 充分楽しまさせて戴きましたから…… 彼にはもう用はありません!」 笛吹は残酷に微笑み……言い捨てた 「聡一郎に何した!」 「ネズミはそれなりに扱われるのは世の常でしょう? あの男を連れて来なさい!」 と使用人に言い付けた 使用人は無言で立ち去ると……… 全裸で……精液まみれで…… 全身…鮮血で濡れた聡一郎を連れて来た ナイフで切り刻まれたのか……血塗れだった 薬を盛られたのか…… 視点は合っていなかった 「衛藤、お前は聡一郎を連れて出てくれねぇか?」 康太は衛藤に声をかけた 「………了解した! この者は病院に連れて逝き……手当てしおこう!」 「オレが逝くまで頼む 一生、連絡先を衛藤に教えてくれ!」 康太が言うと一生は名刺を衛藤に渡した 衛藤は背広の上着を脱ぐと、聡一郎に掛けて 抱き上げた そして手下の者と共に屋敷から出て行った 「楽しい事をしてくれたじゃねぇか?」 「私は楽しんでおりませんが…… 男が好きだという者は結構多いのです 貴方も嗜好家の間では高値がついております?」 「買い手は解ってるが…… オレは売る気はねぇ!」 「そうですか……残念です」 「お前は愛染明王の加護も消えた…… 解ってるんだろ?」 「さて……何の事か?」 「お前の運は尽きてると言う事だ!」 「それはどうでしょうか? 私はツイてます 飛鳥井の真贋を手に入れれるのですからね!」 「オレはお前のモノにはならねぇ!」 「この家に入ってきた時から貴方は私のモノも同然!」 「へぇ、それはどう言う事なんだよ?」 ジリジリと笛吹は康太に捻り寄った 康太は毅然として前を向いていた 笛吹が康太の頬に手を掛けようと… 更に近寄った 「お前なら……私も抱いてみたい……」 顎を上げさせようとした時…… 笛吹の足元に五芒星の円陣を出した 「……小賢しい事をしますね……」 「そうか?」 康太は唇の端を吊り上げて嗤った 「オレの伴侶は未来永劫唯一人! 他のモノになどなりはせぬ! 他のモノになるならオレは死を選ぶ!」 「ならば!死ぬがいい!」 笛吹は康太目がけて銃口を向けて引き金を引いた 銃弾がクニャッと歪み…… 反対側の壁に突き刺さった 「人ごときがオレに叶うと想ったか? オレはお前を守護している愛染明王の顔を立てて手を出さねぇでいてやっただけだ!」 康太が言うと笛吹の横から愛染明王が姿を現した 『炎帝……トドメは私が刺そう…… それが守護してきた相手に対しての礼儀だ』 「なら刺せよ! おめぇは守護して来た奴を地獄に堕とすんだ それを忘れるな! 道を誤るなら正してやるのが守護する側の務め! 何故軌道修正を図らなかった?」 『私はこの者の先祖に仕えて守護する契約を結んだ この者は私の言葉を聞こうとはしなかった』 「それは詭弁だ愛染明王! 仕えるのなら正す! それが叶わぬのなら……何故罪を重ねる前に逝かせてやらなかった? 仕える者の本質だ愛染明王!」 キッパリ言われて……愛染明王は何も言えなかった まさにそうなのだ 正さねばならなかった なのに……謂われるままに罪の隠蔽を重ねた 「愛染明王、お前は魔界に還れ! 釈迦が迎えに来た!」 『…………え?……釈迦が………?』 愛染明王が呟くと釈迦が姿を現した 釈迦は姿を現すと康太の前に跪いた 「炎帝……私に一任して下さるのですか?」 「愛染明王……の事……だけはな!」 「……愛染明王は……目を瞑って……悪行を重ねさせたのに?」 「罪は本人が償うのが定め この男の罪を消したのは愛染明王だ それがなくば……もっと早く仇は討てた筈だ!」 康太は悔しそうに唇を噛み切った 唇から鮮血が流れ落ちた 「亡くした命は二度と帰りはしねぇ… なれば……討つしかあるまい!」 まさに真髄をついた言葉だった 「何故……死ななきゃならなかった? 生きていれば……やりたい事は沢山あった筈だ 我が子を遺して逝かねばならなかった親の無念を……晴らす為だけにオレは夢見てきたんだからな!」 愛染明王は康太の前に土下座した 榊原が愛染明王を立ち上がらせた 「辞めなさい……謝られたとしても…… 康太の駒は生き返りはしません!」 優しく言うが言葉はキツかった 『………貴方は……青龍?』 「炎帝は我が妻ですので!」 榊原はにこやかにそう言った 『………魔界の秩序と言われる貴方が……』 愛染明王は人の世で契約して来たから、魔界の内情は詳しくはなかった 弥勒が榊原の横に立つと 「御託は魔界に行って知ればいい!」と言い捨てた 康太は皮肉にフンッ嗤うと呪文を唱えた そして両手を天高く翳すと 「我が兄、閻魔大魔王此処へ来られよ!」と叫んだ 時空を切り裂き……閻魔は白い馬に乗って…… 金糸をふんだんに使った紅蓮の服を着て姿を現した 『我を呼ぶのは我が弟、炎帝か?』 そう言い閻魔は優しく笑った 「兄者、この者の罪を……」 閻魔は閻魔帳を開くと嗤った 『この者は既に死んでおる筈……何故今も人の世に存在しておるのじゃ?』 「幾度も死んで……別人になって…… 悪事を重ねて……逝くんだよ!」 『なればこの者は罪を償わねばならぬな!』 「愛染明王が護って来たから免れた!」 康太が言うと閻魔は愛染明王を見た 冷たい……冷酷な……… 罪を言い渡す者の審判の眼をしていた 愛染明王は背中に冷や汗が流れて逝くのが…… 解った 『………閻魔……』 「愛染明王、お主の審判は後で……今はこの人を裁かねばならぬのからな……」 「……オレがこの手で……消し去りたいと想う… …だけど……それは出来ぬからな…… 兄者を呼んだ……それでオレは溜飲を下げる!」 「………炎帝……お主は今は人の子…… この者を消し去る権利はない」 「……解ってんよ……」 「よく堪えた……」 閻魔を弟を抱き締めて…… 離すと笛吹に向き直った 「お主の魂は…もう尽きておる なのに何故生に執着を燃やす? 他人の命を手に入れ、成り代わり生きて来た 人を殺めすぎた 悪行の数々は…償わねばならぬ! お主を無間地獄へ送る! 人は罪を犯せば、その命で償わねばならぬ 業火に焼き尽くされ…… 地を這い…… 虫螻みたいにもがき苦しみ……痛みを知るがよい 人が人の心を忘れれば…… 魑魅魍魎に成り下がるしかない 今のお前は魑魅魍魎でしかない 魑魅魍魎は人の世は生きられはせぬ 本来の人の寿命でならお主の生は尽きておる お主は人に非ず 直ちに無間地獄に逝くしかあるまい!」 閻魔が言い捨てると、笛吹は 「勝手なことを言うな!」 とわめき散らした 愛染明王は手に出した剣で……笛吹を貫こうとした 「勝手な事を申してるのはお前であろうて!」 愛染明王は自分を悔いて…… 自分の手でカタを付けるつもりだった…… それで神として生きる資格を失ったとしても…… 総ては自分の……失態なのだ…… 閻魔は愛染明王を呪縛した 「お前は手を出すでない!」 閻魔はそう言い笛吹の前に立った 「お前は元は妖魔だった お前は遥か昔から人の体を乗っ取り…… 命を繋いで来た 元々の寿命は尽きているのに…… 魂を食らい乗っ取る手法で生き長らえて来た 数々の悪行も……体躯を変えるたびに、体躯の持ち主に押し付け…逃れで来た 地獄の神々は馬鹿ではない お主の所業なぞ総て解っておる! 運の尽きるのを待っておったのじゃ!」 閻魔は手元の手帳を見ながら悪行を述べた 呪文を唱えると…… 笛吹の足元の五芒星が回り始めた 抗って……逃げようと笛吹は暴れた だが五芒星から逃げる事は叶わなかった 足元の五芒星が……歪み…… 穴が開くと…… 閻魔は「今、地獄の扉が開いた!」と指を指した 「逝くが良い!」 闇に吸い込まれる様に……笛吹の体躯は…… 闇に飲まれ…… 堕ちて逝った 総てなくなると……五芒星は消え…… 部屋は静まり返った 「無間地獄へと堕ちて逝った もう二度と……人の世には戻れはしまい お前の手で討ちたかったであろうが…… それは出来ぬ…… お前は人の子……人が人を下してはならぬ……」 「解ってんよ兄者! だから兄者を呼んだんだ…… 憎い気持ちなら……限りなくある だけど復讐に囚われてはならぬと兄者は何時も言ったじゃねぇか…… オレは来世は魔界に還る その資格すらなくす事はしねぇよ」 「分別……つくようになったのじゃな……」 「青龍がいればこそ……だ 悲しみも苦しみも……総て青龍が教えてくれた……オレへの愛だ……」 閻魔は何も言わず……康太を抱き締めた 「あの者の骸を戻す その前に御前はこの屋敷を出るが良い」 「ありがとう兄者……」 「愛染明王、釈迦……そちらは我と還るがよい!」 愛染明王は「はっ!」と閻魔に深々と頭を下げた 「ではな、炎帝」 閻魔はそう言うと……屋敷に結界を張った 屋敷に仕える者は……既に人に非ず…… 閻魔は屋敷ごと燃やすつもりだった 康太は榊原と共に……屋敷の外へと出て行った 一生と慎一がその後に続いた 屋敷の外に出ると車に乗り込み…… その場を離れた 康太は天を仰いだ 「弥勒……これで仕方ないか……」 『仕方あるまい…… お前が閻魔を呼んだんではないか……』 「……本当はオレが昇華したかった……」 『だが……視えたのであろう? あの者に乗っ取られた魂の持ち主を……』 「アイツは……聡一郎を好色ジジィ達に抱かせて……切り刻みやがった! それだけでも……生かしておくものかと想った……」 『………司命は……自らを餌にした…… そしてお前に居場所を教えて討たせるつもりだった……』 「…………高坂や八雲や水野の魂は浮かばれねぇ……八つ裂きにしても……足らねぇ……」 『罪は命で償われる 無間地獄に堕ちれば……その代償は己の命となる……解っておろう……』 「………何故……誰も止められなかった? たかが妖魔に……何故こんなにも多くの血が流れなきゃいけなかったんだ?」 『………持って生まれた運気を吸い取り、己に吸収して……成りすまし生きる…… その繰り返しをすればする程に……力を強くして……愛染明王の加護を手に入れた…… 総てが……彼奴の手にあったと言っても過言ではなかった……』 「弥勒……オレは悔しい…… あんな奴に……手を焼いて……駒を殺された…」 『………康太……』 「……オレは……護ってやれず……逝かせてしまった……」 『それはお主の所為ではない……』 「オレは……アイツを討つ日ばかり夢見て来た……なのに何だよ?…… この呆気なさ……もっと早くに討ちに逝けば良かった……後悔しか残らねぇよ……」 『………時期があったのじゃ…… 少し前に討ちに逝けば……お前は返り討ちじゃ それどころか……お前の魂を弾いて…… 飛鳥井康太として……成りすまして生きて逝かれる可能性も捨てられなかった……』 「たかが妖魔に……んとに悔しくてならねぇよ!」 『お主が暴走せぬかと我は‥‥冷や冷やしたが、よくぞ堪えたな』 「オレは青龍の愛で生かされるかんな」 康太はそう言い笑った 『お主が青龍殿の横で笑っていられるなら…… 我はこの命を賭してもよい……』 「弥勒、聡一郎はどうよ?」 『………司命は黄泉を渡った…… 今……龍騎が向かっている』 「何処の病院にいるよ?」 『衛藤が飛鳥井の病院に連れて行った…』 「弥勒…ありがとう…… 伊織、向かってくれ」 弥勒は気配を消した 康太は……ブツブツ呪文を唱えた 榊原は飛鳥井記念病院へと車を走らせた 「הכאב לנצח נצחי של טבעת מוביוס חושך נצחי」 康太が呪文を唱えると……… 目の前に……呪文の文字を象った文字が回り始めた 「………康太……?」 「永遠の苦痛 永遠の痛み 永遠の闇 メビウスの輪……」 「……何を言ってますか?」 「אין יציאה של חשיכה נצחית」 康太は天に向かって……印字を切った 「נשמות יישמרו」 康太は呪文を唱えて……親指を噛んだ 親指から……血が滴り落ちると……呪文の文字へと吸い込まれて逝った 「שחרר אותי!」 呪文の文字が……弾けて………消えた 「康太……何をしました?」 「永遠の苦痛 永遠の痛み 永遠の闇 永遠の出口のない闇 メビウスの輪に囚われし魂の解放…… 五十島に……嫌……あの妖魔に囚われていた魂を解放した……」 それで呪文のループが出来ていたのか……と榊原は納得した 「康太、物事には時期があります 闇雲に動いても先は見えませんよ 『今』が勝機だったのです」 「………伊織……それ青龍の時に…… オレに言った言葉じゃねぇか……」 榊原は「覚えてましたか?」と言い笑った 「お前はさ何時もオレに言った 『何かをやる前に冷静になりなさい』 『君は突っ走りすぎるのです、走る前に深呼吸しなさい』 『物事には時期があります闇雲に動いても先は見えませんよ』 お前が先走りすぎるオレに何時も言ってた言葉だ……」 榊原は笑って 「目の前で君は何時も美味しそうにいるので……ついつい気を落ち着かせる為に説教じみた事を言いました ……でなくば……ひん剥いて……君を犯してました……」 「………その説教は……青龍の執務室だったけど?」 「僕は……君がいると…箍が外れてしまう傾向が遥か昔からあったみたいですね!」 榊原は優しく康太に口吻けた 後ろに乗ってる方は……砂を噛む甘さに…… ケッ!やってられるか!と想うが…… 康太が傷付いてるのは……誰よりも解るから…… 目を瞑る事にした 信号が変わると榊原は車を走らせた 康太は榊原の膝の上に頭を置いて……目を瞑った 飛鳥井記念病院の駐車場に車を停めると車から下りた 榊原は助手席のドアを開けて、康太を抱き上げると 「逝きますよ!」と言い歩き出した 一生と慎一も車から下り、榊原の後を追った 病院の中へ入ると、総合受付に四宮聡一郎は何処だと尋ねた すると背後から「飛鳥井康太さん」と声が掛かった 振り返ると衛藤が待合室で康太を待っていた 康太は榊原の腕から下りると、衛藤の前に来た 「悪かったな衛藤 総てカタが着いた この世にはもういない存在になった」 それがどう言う事か……問い掛ける事なく衛藤は 「了解致しました! 組長にはそうお伝えしておきます 今後、我等は飛鳥井に何かあれば馳せ参じる約束を致します!」 「ならば……お前の組に何かあれば策を授けてやろう! それで……継ぎの代までは逝ける策を授けてやる約束をしよう!」 衛藤は康太に深々と頭を下げると…… 何も言わず……病院を去って逝った 「おい!坊主!おめぇらは何時も怪我ばかりすんじゃねぇよ!」 奥から久遠が康太を見付けて近寄ってきた 「久遠……聡一郎は?」 「……あれは……強姦の限りを尽くされたのか? 肛門に……腕でも突っ込まれたのか? 内臓が破裂する程の……暴行を加えられて…… 精液と血塗れだったからな…… 消毒液ぶっ掛けざるを得なかった……」 「………久遠……多分……見立て通り……強姦され…… いたぶるのが大好きな変態野郎に……フィットネスと言うのをやられて……腕を突っ込まれたんだと想う……針も刺さってなかったか?」 「刺さってた! だから全身CTを通して確かめた 体躯の傷も……縫わねぇとならねぇのもあったからな……」 「……久遠……聡一郎には恋人がいる」 「飛鳥井悠太だろ?」 「知ってるのか?」 「悠太の病室に聡一郎は付きっ切りで看病していた 寝ている悠太に聡一郎はキスしていた」 「……なら話は早ぇーな…… 今後…セックス……出来るのかよ?」 康太は先の不安を口にした 「………治れば……出来るだろ……と想う それ以前に悠太……は性欲があるのか? あの男は修行僧なみの性欲のなさに見えたが?」 「………それは……誰と比較した結果よ?」 「………榊原伊織……」 「………伊織と比べたら……ダメだかんな…… 一応……悠太にも性欲はあるだろ? ……いや……待てよ……暴行を受けてから……どうなんだろ?」 康太は一生を見た 「俺に聞いても知らんがな……」 一生はボヤいた 「おめぇは聡一郎の父じゃねぇかよ?」 「……父でも……アイツの下半身事情は知らねぇよ! それを言うなら、おめぇは悠太の親だろうが!」 「………オレも……悠太の下半身事情は知らねぇよ……」 一生と康太は顔を見合わせて……「はぁ……」とため息を零した 「………こんな聡一郎……合わせられねぇよな?」 康太はごちた 「でも逢わせねぇと……悠太は暴走すんだろ? 最近じゃ二人はベッタリ一緒にいるんだぞ!」 「………言うか?」 「しかねぇだろ? 隠せば悠太は勘繰る そして自分じゃ役不足なんだと別れようと算段するんだろ? ならば最初から言っとけよ…」 康太は久遠を……じーっと見上げた 「……うっ!……坊主……俺に意見を求めるな…」 「弟に……お前さ勃起する?なんて聞けねぇよ……オレは……」 「………俺に言われても……もっと困る…」 「久遠……恋人くらい作れよ…… いねぇのかよ?手頃なの?」 「………恋愛は懲りた…… 週刊誌にも叩かれからな……」 トラウマだと久遠は零した 「それよりも傷を見せろ!」 「………久遠……怒らね?」 「傷の具合による あ、そうだ、栗田と陣内はこの病院にやっと転院許可が出たから連れて来た 助と格の具合も順調だ!」 「悪かったな……全部久遠に任せっきりで……」 「俺は医者だからな、病人の手当てをするのは当たり前だ まぁ……何事よりも患者を優先した結果……結婚は破綻したからな…… 俺は医者であり続けようと決めたんだ!」 「………久遠……ありがとう……」 「ほれ、聡一郎を見て来い! その後にお前の傷を見てやる! 清四朗さんや助と格、栗田と陣内は最上階の並びの個室に入ってる 陣内の妻だが……腹に子が入ってるであろう 無理すれば……流れてしまうと言っておいてやろう」 「……え?……榮倉……身籠もってるのか?」 久遠は困った顔をして 「俺は産科の医者じゃねぇからな……診られねぇからな! 病室に行った時……悪阻と見られる症状を何度か見た あれが悪阻でないのなら……即入院を勧める! だからお前、連れて行って確かめてこい」 と訴えた 「解った」 「後、お前の兄の恵太……病人よりも……衰弱したからな同じ部屋に入院させといた」 「……手間をかけた……」 「聡一郎も並びの個室に入れたから……逢ってこい」 康太は久遠に深々と頭を下げると… 聡一郎達を見にエレベーターの方へ向かった エレベーターに乗り込み最上階へと向かう 最上階は個室の病室が幾つかあった 「………順番に行くか?」 康太は榊原を見上げた 目の前の病室が『榊原清四朗』だったから… 榊原は頷くと、 父親の病室のドアをノックした ドアを開けた真矢が榊原の姿を見て…… 「伊織……」と言い…… 康太に抱き着いた 「………母さん……抱き着くなら僕じゃないんですか?」 想わず榊原は呟いた 「康太……康太……清四朗はずっと貴方に逢いたがってました……」 真矢を抱き締めつつ、康太は病室に入った そして清四朗のベッドの傍まで行くと 「清四朗さん…」 と声をかけた 「………康太……還って来たのですか?」 「はい……ずっと来られなくて……すみませんでした」 清四朗は康太に手を伸ばした その手を握り締めて……清四朗は頬に当てた 「康太……お帰りなさい……」 「ただいま清四朗さん 具合はどうですか?」 「事故に遭って以来……足の感覚がなかったんですよ…… 医者から……半身不随も覚悟しておいて下さい……と言われました…… その時……私は……役者じゃない自分を想像しただけで……怖かった…… 役者じゃない自分は想像も出来ませんでした…… また真矢も……私が役者でなくなれば…… 傍にいようとするでしょう…… 彼女は女優です……なのに役者でない私の横にいる為に……女優を捨て去るでしょう…… そんな明日を想像した時…… 私は怖くて……泣きました…… そんな時……康太が来てくれました…… 本当に……君が救いの神に見えました……」 「清四朗さん、我が伴侶の描く映画に出ねばならぬ運命を忘れちゃぁダメだぜ? んなに簡単に楽な場所に逝かせるかよ!」 「………康太………康太……」 清四朗は泣いていた 榊原は額に怒りマークを引っ付け…… 「父さん……貴方の息子は僕の筈なのに……」 と拗ねた 息子の榊原を余所に……康太と熱く繰り広げられる再会の抱擁に…… カチンッと来ていた 清四朗は笑って 「伊織……拗ねないで下さい 君が可愛くて仕方がないじゃないですか……」 と手を伸ばした 榊原は父の手を取り……傍まで来た 「足は感覚はあるのですか?」 「あります リハビリで歩行練習を始めました」 「………良かった……」 「久遠先生に見て貰うまで…… 脊椎を骨折してるので……動くのも歩くのも無理だと……言われました……」 「………父さん……」 「伊織、康太、私は負けません 例え何年かかろうとも………絶対に表舞台に復活します!」 「あたりめぇだろ?清四郎さん 伊織が描く時代劇に主演として出る約束じゃねぇかよ?」 「………そうでしたね……」 「榊 清四郎 お前の役者の道は先へ繋がった お前は自分を信じて進むがいい!」 康太は果てを指さし……笑った 清四郎は康太の瞳に……役者 榊 清四郎が映っているのだと想った 真矢は安堵の表情で夫を見ていた 「真矢さん、気苦労が祟ってます 明日菜もこの病院にいるはずです 真矢さんは少し休むといい」 「………康太……知っているのですか?」 「善之介に飛鳥井の病院に転院するように頼んでおいたかんな」 「………そうでしたか………明日菜の父親は……?」 「………真矢さん、清四郎さん頼みがあります」 康太は背筋を正すと、二人に深々と頭を下げた 「………佐伯は……それ程長い時間は残ってはいない…… 無茶をし続けて来た体躯は……病魔に食い尽くされていた…… 明日菜を支えて……葬儀を出してやって欲しい… オレは明日菜を支えてはやれねぇ…… オレは人の生き死にには……関われねぇ……」 康太の言葉を…… 真矢は……目頭を押さえて聞いていた やっと親子になれたのに…… 「……康太……貴方に変わって…… 明日菜を支えてやります……」 「ありがとう真矢さん……」 康太はお辞儀をすると真矢を抱き締めた 「じゃ、オレは聡一郎が死にかけてるから行きます……」 真矢は驚愕の瞳をした 「………聡一郎……どうしたのですか?」 「……オレが聡一郎を危険な場所に行かせた… そして聡一郎は捕まって……暴行の限りを受けた…… 精神的 肉体的 性的暴行をです……」 真矢は「清四郎も大分良くなりました 私も聡一郎の診ますから大丈夫よ 聡一郎は潔癖性の処があるので…… 放っておいたら僕は汚れてるので触らないで下さい……位言いそうです!」と笑った 母の強さを……感じて……康太は 「ありがとう……」と礼を言った 清四郎も「早く、行ってあげなさい!」と言った 「清四郎さん、オレは格と助を見舞わねばならねぇし、栗田と陣内も見ねぇとならねぇんだ……榮倉は妊娠してるらしくてな…… 今後の介護の事も考えねぇとならねぇんだ」 「やっぱり真奈美ちゃん……妊娠してるのね」 「……え?……真矢さん……知ってるのですか?」 「廊下でね逢った時に悪阻かなと想ったのよ……随分無理してるわ…… 病室に仕事も持ち込んでやってるのよ…… 当然……会社にも出勤してるみたいなのよ 康太に逢ったら教えておかねばと想っていました 恵太ちゃんは……倒れちゃったしね…… 玲香姉さんや京香が皆の面倒を順番にしてる所なのよ」 「………そうでしたか…… 真矢さん……本当にありがとうございます」 「後で……明日菜も見てやって頂戴ね……」 「解ってます!」 「あ、そうそう……地龍ちゃんね退院決まったのよ? 来週には退院していいって…… 毘沙門天ちゃんは……まだ骨が引っ付かないからね……清四郎位は掛かると思うわ」 「真矢さん、本当に……」 何から何まで……とお礼言おうとしたのを真矢は止めた 「康太、貴方の仲間なら、私達にとっても大切な人たちなのよ さぁ、行ってらっしゃい! 私の手が要るなら呼びに来なさい」 真矢はそう言い康太達を送り出した 康太達は隣の『飛鳥井格』『飛鳥井助』の病室を尋ねた コンコンとノックすると…… 神野がドアを開けた 「……え?康太……」 神野は康太に抱き着いた 「……あんで神野が……?」 「笙が介護で倒れそうなので問い詰めたら…… 毘沙門天と地龍の介護と、栗田と陣内の介護に大変なんだ……と言ってたから……手分けして……」 「……悪かったな晟雅……」 康太は病室に入ると毘沙門天の傍へと行った 「毘沙門天……大丈夫か?」 「骨さえ引っ付けば…退院を許してくれるからな……あと少しだ炎帝……」 「……悪かったな…お前を傷つけるつもりじゃなかったのに……」 「大丈夫だ!炎帝… オレは死なねぇ! お前を遺して逝ってたまるかよ!」 「退院の許可までは大人しくしてろよ?」 「………あの鬼……許可なく退院したら……絶対に見ねぇと言いやがる…… それは困るからな……我慢する事に決めた」 毘沙門天の言い草に、康太は笑った 康太は地龍へと向いた 「地龍、今後一切、無茶はしねぇと約束しろ!」 「………それは出来ません…… 青龍兄さんに何かあれば……貴方は……後を追うじゃないですか!」 「………殴りてぇ程に……頑固者が!」 康太が怒ると一生が 「そう怒るな康太……我が弟には言い聞かせておくから!」 と執りなした 「毘沙門天、地龍が退院したら少し大きい個室に移れ 栗田や陣内達と同じ病室に入れ!」 「お!それはいいな! だから炎帝……俺の好物を持って見舞いに来てくれ……」 「解った!オレも銃創が……治りきってねぇかんな……当分はおとなしくしてるから見舞いに来てやんよ!」 康太が言うと榊原が 「毘沙門天の好物って何なのですか?」と尋ねた 「毘沙門天はケーキとか甘いのが大好物なんだよ!」 榊原は固まった 筋肉ムキムキで、黒髪を無造作に結わえてイケメンな顔立ちの毘沙門天は男臭い風貌だった それが……甘党…… 「僕もケーキとか差し入れに来ると約束します! だからいい子で治療に専念なさい」 「青龍殿!」 毘沙門天は榊原に抱き着いた 大型犬に懐かれた……みたいな感覚だった 榊原は笑って毘沙門天を撫でた 「伊織、栗田と陣内の所に行くぜ」 そう言うと神野が康太を抱き締めた 「康太……遊びに来て下さいよ」 「近いうちに時間を作る!」 「待ってます!」 神野は康太を離した 康太は病室を出て行った そして隣の病室へと向かった 『栗田一夫』『陣内博司』と書いた名前を確認してドアをノックした ドアを開けたのは榊原 笙だった 「康太!」 笙は康太に抱き着いた 榊原がピキッと怒りマークを額に貼り付けた 「兄さん…貴方の弟が目の前にいるのに…… 康太を抱き締めるのは何故ですかね?」 榊原の言い分に笙は爆笑した 「伊織……怪我はどうなりました? 君は無茶はかりしてるので……心配です」 と言い笙は弟を抱き締めた 康太は病室に入ると……榮倉真奈美の所へ向かった じっと康太は榮倉を視た 「病院には行ったのか榮倉?」 「………まだです……」 「なれば後で、母ちゃんに頼んでおく 飛鳥井玲香と共に病院に行け!」 康太はそう言うと 「伊織、携帯持ってる?」 「………持ってません……」と答えた 一生が携帯を康太へと渡した 携帯を貰って康太は飛鳥井玲香へと電話を掛けた 「母ちゃん、オレだけど」 何時も想うが……よくもまぁオレだけど……で、通用するなと……思う 下手したらオレオレ詐欺ですがな…… と一生は想った 『康太!何時還って参ったのじゃ!』 「今!それより母ちゃん、頼みがあんだけど」 『何でも申せ!』 「榮倉真奈美を産婦人科に連れて行って欲しいんだけど……」 『お子……が?』 「あぁ、かなり月数は行ってると想う 陣内が入院してるからな……かなり無理したと想う……流産は避けてぇかんな ここいらで静養させねぇとな」 『解った!お主は今陣内の所におるのか?』 「飛鳥井の病院の最上階にいる!」 『すぐに参る!』 康太は電話を切ると、一生に携帯を返した 康太は栗田のベッドの横へと行った 「一夫……」 寝ている栗田の髪を撫でると…… 栗田はパチッと目を開けた 「康太!……いつ来たのですか?」 栗田は痛む体躯を起こして……抱き着こうとした 「一夫、痛くねぇのかよ?」 朝、出勤中の車に左折する車が止まることなく突っ込んできたのだ 車は……ポキッと半分に潰れる程の……損傷だった 栗田は運転席に押し潰されて……瀕死の重傷となった 陣内は居眠り運転でフラフラした車が突っ込んで来て…… 正面衝突 となった ボンネットが潰れて……運転席が潰れて…… 救急隊員がバーナーで切り離して救出するほどだった 「……っ……痛いですが……俺は貴方に還る為に……弥勒と言う人に導かれて……踏みとどまったんだ…… 貴方の顔を見れば……確かめたくなるのは当たり前じゃないですか!」 「一夫……無茶だけはするな……」 「あの日……恵美を乗せてなくて本当に良かった……と胸をなで下ろしました…… 俺は本当にツイています」 「………一夫……」 「康太、歩みは止めるな! 俺は必ず着いて逝くから……歩みは止めなくて良い!」 「………一夫は本当に無茶な野郎だ……」 「貴方の駒だからな! 俺は貴方に拾われて生きている!」 康太の声に陣内も目を醒ました 「康太……?」 康太は陣内の方に向いて手を取ってやった 「陣内……大丈夫か?」 「………康太……逢いたかった…… 逢いに来るのが少し遅くないですか?」 「オレも撃たれたり負傷を負ったり、片付けねぇとならねぇ事があったかんな!」 「………怪我は?……大丈夫なのですか?」 「オレは大丈夫だ……それよりも陣内、具合はどうだ?」 「………早く治して貴方の想いの最前線で闘いたい……」 「陣内、榮倉は腹に子供がいるぞ…… お前の付き添いは負担が大きい…… 病院に行かせて診察を受けさせるぞ?」 「………俺の……子供が?」 「事故にあった時には……榮倉は妊娠に気付いていたが……腹の子よりお前を優先した オレは腹の子を産ませてやりてぇかんな 少し静養に入らせる、良いな?」 「はい!お願いします 看護は城田や愛染、中村が順番に来てくれてます 神野や笙さんも来てくれてるので、無理させないようにお願いします」 「一番無理したら駄目なのはお前だろ? 今は治す事だけ考えていろ!」 「康太が見張っててくれるなら……」 「オレもな少しペースを落としてお前達を見張っててやんよ!」 康太はそう言い笑った ドアがノックされ榊原がドアを開けに行くと、飛鳥井玲香が立っていた その後ろには…… 飛鳥井清隆と瑛太が立っていた 榊原は「義父さんと義兄さんも一緒でしたか……」と苦笑した 瑛太は榊原を抱き締めて 「兄にただいま…はないのですか?」と拗ねた 「義兄さん、ただいま!」 榊原が言うと瑛太は嬉しそうだった 玲香は康太の側に行くと 「………母ちゃん……聡一郎が瀕死の重傷だ…… オレは当分、病院にいるかんな……」と告げた 「………聡一郎が……何故じゃ……」 「………オレの命令である男を追わせていた 深く追いすぎて……聡一郎は捕まった…… そして身体的にも精神的にも……暴行を加えられた……勿論……性的暴行も食らった…」 玲香は顔を覆った…… 「オレは今さっき還って来たばかりだ…… 銃創も治っちゃいねぇかんな……少し静養する」 「………解った……で、我は何をすればよいのじゃ?」 「榮倉を村瀬の病院に連れて行ってくれ 個室に入院させてくれ! ずっと気を張って来たからな……休ませねぇと子は流れちまうかんな……」 「解った。 榮倉を病院に連れて行って入院させる 我と京香と変わりで見舞う事にする」 「………母ちゃん……あと一つ頼みがある…」 「何じゃ?」 「………佐伯……明日菜を支えてやってくれ… 父親が近いうちに黄泉へと渡る…… オレは……人の生き死にには立ち会えない… 蔵持の家から……使用人が出て……サポートに当たっちゃいるが……明日菜は精一杯気を張ってる…… その分亡くした時が怖い……」 「解った……明日菜も二人目を出産後…… 体調も戻ってはおらぬからな……」 「………え?母ちゃん……それ本当か?」 「明日菜は出産後、寝込む時が多くなったと真矢が言っておった 無理させぬようにヘルパーかお手伝いを入れようかと……思案しておった」 「………母ちゃん……明日菜を頼むな……」 「解っておる……お主は……無理せぬようにな……それだけが望みじゃ…… なれば、我は真奈美を連れて行く! 真奈美、行きますよ!」 「………玲香さん……入院の準備はしておりません……」 「大丈夫じゃ!我が総て揃えてやる!」 そう言い玲香は榮倉を引っ張って病室を後にした 康太は、う~ん う~んと思案して考えていた 「瀬里奈、満里奈、恵里奈、優里奈、美里奈……どれが良い?瑛兄」 「……え?何がですか?」 「飛鳥井から手伝いに来て貰おうと想ってな、どの娘が良いって聞いてんだよ」 「………私は……逢った事がありません」 瑛太は早々に逃げた 一生は「満里奈なんて連れて来るなよ! オレは逃げるからな!」と噛み付いた 「満里奈……虎彦の姉になる」 虎彦と聞いて清隆は「洋平の子か?」と問い掛けた 「そう!飛鳥井洋平、綺麗の弟だ」 「綺麗には最近逢ってませんね、そう言えば……」 「嫁に行ったかんな」 「そうでしたね……あの男前と結婚したのは天宮でしたね……」 「まぁ、偽装結婚だかんな! 綺麗の性格は関係ねぇだろ?」 それ……コメントに困る……と清隆は苦笑した 「慎一、満里奈に康太ちゃんがめちゃくそ困ってるから手伝ってぇ!っ伝えといてくれ!」 「………嫌です……あんなのに近寄りたくないです」 慎一もあっさりと断った 「………伊織……」 「嫌です……満里奈には近寄りたくない…」 榊原もあっさりと断った 「……じゃ……瀬里奈……」 康太は呟いた 清隆は「瀬里奈は光彦の子供でしたね」と呟いた 飛鳥井光彦は大手書店を一手に経営していた 康太が万引きをした書店の持ち主だった 慎一は「瀬里奈も冗談交じりじゃありません!」と断った 「………なら名前を挙げた中で?」 「全員嫌です! あんなのに看病されたら……治る前に地獄をみますよ? それどころか‥‥子種を寄越せと強姦されたらどうするんですか!」 凄い言われようである…… 「………なら……困ったなぁ……」 見かねた瑛太が「ヘルパーの手筈を整えます」と申し出た 「………瑛兄……」 うるうるとした瞳で康太は瑛太を見た 瑛太は苦笑した 「………康太は一族の者と親しいのですか?」 「親しいも何も……一族の者は……瀬里奈達を嫁に行かせてくれと……哀願してるんだ…… オレは相当な物好きじゃなきゃ無理だぞ……って言ったら……追っかけ回されて殴り飛ばされた……ひでぇ目にあったかんな…… 以来……慎一や一生は近寄らねぇんだよ」 やっとこさ……納得がいった 「嫁に行きてぇなら少しはお淑やかにしやがれ!ってんだよ!なぁ一生?」 一生はたらーんとなった 「………俺にふるな……お前の身内だろうが… 俺は子種を取られそうになったんだぜ? あんな恐怖はごめんだぜ……」 一生はそう言い身震いした 「一生……清四郎さんから聡一郎まで……面倒見てくれ……」 「解ってんよ!お前は傷を治せ…」 一生はそう言い康太を抱き締めた 「陣内、一夫、また来るかんな! 良い子にしてろよ!」 康太は瑛太と清隆と別れて、栗田達の病室を後にしようとした 栗田は「聡一郎の所へ?」と問い掛けた 「………あぁ……」 「俺達も早く治すから……そしたら聡一郎を支える!」 と栗田は言った 「一夫、無理だけはするな! 恵太を安心させてやってくれ!」 ソファーに寝る恵太に目をやって……康太は言った 「大人しくしてろよ!」と言い、康太は病室を後にした そして聡一郎の病室へと向かった 『四宮 聡一郎』と書いた病室の前に立つと一応ノックした そして病室に入ると、久遠が待ち構えていた 「久遠、聡一郎は?」 「彌勒と紫雲の気配を感じた 死にはしねぇだろ?」 何とも……な言い草だった 「今は薬で眠っている 問題は体躯じゃねぇ……精神的なモノだ 恋人がいるなら尚更……だろ? それよりも坊主、伴侶殿も、傷を見せろ!」 康太は久遠の前に行くと服を脱いだ 「……お前の皮膚は本当に弱いな……」 皮膚の粘膜の薄い康太の傷は中々治らない 「伴侶殿、塗り薬を出しておくので、全身塗ってやってくれ! 傷口の方はまた別の塗り薬を出しておく 飲み薬と塗り薬で、少し様子を見るしかねぇか…… 服着て良いぞ! 近いうちに内視鏡や他の検査やるからな!」 久遠が言うと榊原は「解りました」と了承した 榊原も服を脱ぐと……久遠の瞳がキランッと光った 「伴侶殿、康太を持ち上げるのは止めなさい! 肩の傷が力を入れるから中々治らねぇじゃねぇか!」 「………解りました……」 「伴侶殿も塗り薬と飲み薬で様子を見て治りが悪いなら入院だな その時は病室を分けるからな! 嫌ならさっさと治せ!」 榊原は……病室を分ける……と聞き…… 「死んでも治します!」と言い切った 一生は心得た釘の刺し方に、苦笑した 「聡一郎は出血多量でショック状態だった 心臓が止まってもおかしくない状態だったが、乗り切った…… 予断は許さねぇって事だ!」 「………意識が戻った時……どうしたら良いんだ?」 「こいつはお前さえいれば生きていけるんだろ? だったらお前が労ってやれば、それだけで報われるだろ?」 「………久遠……今回は本当に多くの命を救って貰った……… 本当によってありがとう……」 康太は深々と頭を下げた 久遠は康太を押し止め 「止めろ!俺をこの世に押し止めているのはお前だろ? 俺は与えられた仕事をする!それだけだ!」 と文句を言った 久遠は康太の肩をたたいて病室を出て行った 康太は果てを見て……何も言わなかった 「一生……部屋を取ってくれ…… 伊織……悠太をその部屋に連れて来てくれ…」 「解りました。 君はどうしますか?」 「俺は一生が部屋を取ったら慎一と移動する……」 「一生は?」 「聡一郎に付き添わせる…」 「解りました! 君は駐車場で待ってなさい!」 榊原は康太にキスを落として、病室を後にした 康太は一生を見た 「一生……お前は聡一郎に着いてろ……」 「………了解!」 「悠太に話をした後に……子供達を連れ帰る その時はお前も来い……」 「なら待ってんよ! お前は……何も悩まなくて良い 聡一郎は何時だって覚悟していた筈だ」 「………一生……」 「お前は何も考えるな!」 一生はそう言い康太を抱き締めた 慎一が一生を引き剥がすと 「行きますよ!」 と促した 康太は慎一と共に病室を後にした 廊下に出ると兵藤と出くわした 「康太!大丈夫だったかよ!」 兵藤が康太を抱き締めようとするのを押し止め 「貴史、聡一郎を見舞ってやってくれ!」 と言い慎一と共に歩き出した 「どこに行くんだよ?」 「お前は何で此処にいるんだよ?」 「俺は一生に聡一郎が入院したのを聞いた」 「………あの男は……んとに……」 と康太が呟くと……慎一が 「一生ですからね」と呆れた呟きを零した 「お前、何処へ行くのよ?」 「オレは軌道修正をしてくんだよ」 「終わったら連絡してくれ! 飯でも食おうぜ!」 康太は片手をあげて手をふると歩き出した 外に出ると榊原の車が待っていた 車に乗り込むと榊原は 「一生は東急インにホテルを取りました…」と伝えた 「あんで東急インよ?」 「……留守番だったからでしょ?」 「……小さい……」 康太は呟いた 榊原と慎一は……苦笑した 慎一は後部座席の悠太の隣に乗り込んだ 榊原は車を走らせた そして一生が取った東急インの駐車場に車を停めると車から下りた ホテルのフロントに慎一がゆくとキーを貰って来た 「行きますよ!」 慎一はそう言い悠太を気遣って歩いた 悠太はまだ松葉杖でなければ歩けなかった 瞳はまだ明るさを受け付けずサングラスを着けていた 部屋に入って悠太をソファーに座らせると…… 康太は悠太の横に座った 「………康兄……」 あまりにも近くて…悠太は躊躇した 康太は覚悟を決めて話し出した 「悠太……言いたくなかったら黙ってて良いから…」 と優しく語りかけた 「……はい!解りました」 「お前さ……暴行を受けた後……勃起した?」 「……康兄……」 「大切な事だからな……なるべく教えろ」 「………康兄……俺は……男として機能しない気がします……」 「勃起しねぇのか?」 悠太は康太の耳元で 「勃起はしますが……直ぐに萎えてしまうのです」 と小声で言った 「勃った時は硬いのか?」 「はい!でもいざとなると……グキッて痛みで萎えてしまうのです」 「そうか…腰椎やってたもんな…… それは追々、治療すれば勃つかんな! 心配するな」 「…康兄…」 「これからが、本題だ! 悠太……オレはおめぇに…… 『今の言葉を忘れるなよ? お前達の……想いを覆す日が来ても…… 今言った言葉は絶対に……違えるなよ』 って言ったよな?」 「はい!心に刻んでます」 「なら……これからが本題だ… 悠太……聡一郎の事で話がある……」 「はい!」 「………聡一郎はオレの命令で動いていた…… そして捕まって……精神的、肉体的、性的暴行を加えられた……… 聡一郎は瀕死の重傷だ………」 悠太は……目を見開き……驚愕の瞳を……康太に向けた 「………聡一郎は……どうしてる?」 「………意識はまだ戻っちゃいねぇ……」 「………俺は……聡一郎が生きていてくれれば…… それだけで良い……… 俺が聡一郎を支える番だね 康兄……俺を聡一郎の傍に連れて行って下さい」 「………肛門に腕を入れられ……腸が……破裂したらしい…… 体躯も……切り刻まれて…… 色んな男が聡一郎を好きにした…… それでも……その台詞が言えるか?」 「言えるよ康兄…… 俺は聡一郎が生きていてくれれば…… それだけで良いんだ……」 康太は悠太を抱き締めた 「オレが治してやるからな…… ちゃんと聡一郎と愛しあえるように…… 治してやるから……」 「康兄……聡一郎も当分は治療だろ? 俺も……ダメだからさ丁度良かったね」 「………悠太……」 康太は悠太を抱き締めて……泣いた 榊原も悠太を優しく抱き締めた 「………兄も……お前を治すと約束します 必ず……聡一郎と愛し合えるにしてあげます」 「義兄さん、俺を聡一郎の所へ連れて行って下さい」 「何があっても揺るぎませんか?」 「俺は何があっても揺るぎません! ボロ雑巾のようになった俺の看病をしてくれた聡一郎に俺は報いねばなりません」 榊原は悠太を強く……抱き締めた 「………悠太……成長しましたね 兄は………本当に嬉しく思います」 「義兄さん……」 「君も無理は出来ない体躯なので聡一郎の看病をしようとは想わないで下さい」 「駄目ですか?」 「駄目です! 久遠先生に無理は禁物と言われたばかりでしょ? 君の後遺症は成長過程でどうなるか予知も出来ない状態なのを忘れては行けませんよ 無理をすれば、通常の生活から遠退く事を忘れては行けません」 「解りました」 「ならば良いです」 「………はい。聡一郎に毎日逢いに行くのは……大丈夫ですか?」 「それは良いです でも一人で歩くのは辞めて下さいね! 途中で何かあったら……まだ心配でしょ?」 「………義兄さん……」 「聡一郎の病室までなら良いですが、ちゃんと言って出なさい」 「はい!解りました」 「では……聡一郎の所へ……行きますか?」 「はい!」 ホテルをチェックアウトして病院に向かう 病院に向かう車の中、悠太はじっと前を見ていた 慎一は悠太の手を強く握った こんな時悠太は何時も想う 康太の愛に支えられてると感じる 康太の意志を組んだ仲間が、悠太を支えて護ろうとしている それを肌で感じていた 飛鳥井の病院の駐車場に車を停めると聡一郎の病室へと向かった 病室をノックすると一生がドアを開けた 一生は悠太に目をやり 「話したのか?」と尋ねた 「………あぁ、覚悟を確かめた」 一生は「………そっか……」と言い悠太を病室に招き入れた 悠太は聡一郎の傍へと……近寄った 切り刻まれた傷には包帯が巻かれ……痛々しかった 顔は殴られたのか……痣が酷かった 悠太は聡一郎の唇に口吻けすると…… 手を握った 「康兄、俺は聡一郎の傍にいたい……」 と悠太は告げた 「なら着いててやってくれ! だけど、無理だけはすんな! 泊まり込みは駄目だかんな! それが約束出来るなら傍にいて良い」 「…………約束します……」 「なら迎えに来るまで傍にいてやれ! 迎えが来たら帰るんだぞ? おめぇは全治六ヶ月って言われてるんだ 六ヶ月は安静にしとかねぇと入院させるぞ?」と釘を刺した 「………解ってます康兄……」 「なら傍にいろ オレは少し出るかんな!」 康太はそう言い一生の手を掴んで歩き出した 「貴史、来るかよ?」 康太が聞くと「当たり前やん!恋人達の時間を邪魔する野暮にはなりたくねぇよ!」と言い康太の傍に行った 「ならな、悠太 後で来るからな、それまでは聡一郎といろ!」 と言い康太は病室を後にした 康太は歩き出して 「子ども達を迎えに行く どうするよ?お前達?」と問い掛けた 車には……みんな乗れないから…… 慎一が「バスをレンタルして来ます! 飛鳥井まで乗せて行って下さい」と申し出た 「お、それ良いな! 子ども達もオレらも皆乗れるのが良いな」 康太は嬉しそうに榊原を見た 榊原に肩を抱かれ、兵藤や一生達と病院の廊下を歩いて行く 途中、康太は明日菜と出くわした 明日菜は驚いた顔をして康太を見ていた 「明日菜、体躯は大丈夫なのか? 無理するんじゃねぇぞ」 康太が言うと明日菜は康太に飛び付いた 「………康太………父が……」 「知ってる……だから……少しでもお前の傍にいさせてやりたかったんだ……」 康太には総て視えていて…… 明日菜との仲を取り持ったのは……… 佐伯が既に……病に冒されていたというのか? 一人で逝かせない為に……… 一人で逝かせれば明日菜は後悔して自分を責めていただろう 佐伯は……孤高のまま……黄泉へと旅立つ事となる そうさせない為に……… 康太は親子の関係を修復したというのか…… 「………蔵持の家から……援助が凄い…… 私の父親は……それだけの仕事をして来たのだと……誇りに思う」 「明日菜、無理はするんじゃねぇぞ? 美智留や匠の母親はおめぇしかいねぇんだからな……」 「………解っている……解っている康太……」 「………これよりオレは……お前の傍には逝けねぇからな…… 笙や榊原の家の人には頼んでおいた……」 飛鳥井家真贋は人の生き死にには関われない…… 一番辛いのは……康太だと想う 「佐伯朗人を送ってやってくれ…… 主に仕えた人生だが……お前を…… 愛していなかった訳じゃない…… 誰よりも愛していたが……不器用な男は…… 動く事が出来なかっただけだ…… 紫雲龍騎に黄泉へと導かせる…… お前は佐伯朗人の娘として……父を送り出してやってくれ…… オレは……出席は出来ねぇ………」 明日菜は康太を抱き締めた 「解っております 貴方は飛鳥井家真贋……人の生き死にには関われない存在 総て……解っております」 「明日菜、体調が悪い時はちゃんと言え 辛い時やダメだと想う時…… ちゃんと言え……オレが軌道修正を図る」 「………康太……私は生涯……一人で死んで逝くと想ってました 誰も愛せない……誰といても心安まらない 結婚はおろか……我が子を抱く日が来ようとは想ってもおりませんでした そんな私に家族をくれた…… 父との時間を……作って下さいました 私はあのまま……父と離れずにいて良かったと想います…… 父を一人で逝かせなくて良かった……」 康太は明日菜の涙を拭った 「オレは子供を迎えに行く またな明日菜 オレは佐伯の病室は訪ねられねぇ…… 逢いたいなら電話しろ! 逢いに行ってやるからな」 明日菜は康太を離すと深々と頭を下げた 康太は歩き出した 明日菜は……康太を見送っていた 姿がなくなっても……動けなかった すると背中を抱き締められた 振り返ると夫の笙が明日菜を抱き締めていた 笙は優しい笑顔を明日菜に向け 「康太に明日菜が廊下にいるから抱き締めてやれと言われた」 と手の内を明かして笑った 明日菜は笙の胸に顔を埋めた この人のぬくもりは…… 康太がくれたぬくもりだった……

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