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安心できる場所(4)
「そんなの、いいに決まってる」
彰史さんは即答した。
でも……。
「でも、僕。……ある人のところから逃げて来たんです。その人は僕が10歳の誕生日を迎えた日に、僕を買いました」
そう言った僕の唇に、彰史さんは人差し指を添えた。
「こんな場所でする話じゃないな。家に帰ろうか」
◆◇◆◇◆
彰史さんの家に戻り、僕は過去七年間のことを、白龍や紅龍の名前は出さず簡潔に話した。
「その人は僕に、綺麗な服や美味しい食事を与えてくれたけど、生きている人形くらいにしか思ってなかったんです。僕を人間として見てくれたのは彼の弟だけでした。耐えきれなくなって逃げ出したのが昨日です」
「そして、俺と出逢った……」
彰史さんの言葉に、僕は小さく頷く。
将希さんは、黙ったまま僕を見つめていた。
「この町にはあの人がいます。此処にいたら、いつかあの人に見つかってしまうかもしれません。だから、やっぱり僕、九條さんのお世話になる訳には……」
いきません、と言いかけて言葉に詰まる。
頭に優しい手の感触を感じたから。
ぽんぽんと、彰史さんが僕の頭に触れる。
「大丈夫。此処にいればいい」
「……優しく……しないで……ください……」
これ以上優しくされたら、僕はもう、何処にも行けなくなる。
「俺が、守ってやるから」
「……九條、さん……」
視界が滲んで、彰史さんの顔がぼやけて見える。
「今までの辛かったことが全て帳消しになるくらい俺が水月を幸せにしてやるから、此処にいろ」
そう言って抱き締めてくれた彰史さんの胸の中で、僕は大声で泣いた。
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