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安心と焦り

幸せってなんなんだろう。 真綿に包まれるような柔らかな声。 フカフカの羽毛に囲まれたような温もり。 天使のような微笑み。 僕が味わうことがない、きっとこれから縁もない高貴なもの。 大金持ちだったあの家でさえ、与えてくれなかったのだから。 ‘‘抑えきれない’’ ‘‘溢れ出しちゃうよ’’ ‘‘だってこの愛は’’ 幻想だとわかっていながら何度も見た夢をまた見る僕。 ‘‘お願いだから、覚めないで’’ いつものようにお願いしたけど、覚めていくのがわかって諦めかけた。 でも、いつもとは違うことが瞬時にわかった。 背中に感じたのはヒヤリとする冷たい壁ではなく、ムチムチした暖かくて柔らかい何かだったから。 ‘‘僕は本当に楽園に来たの?’’ 望んでいた温もりを感じて心からも温かい気持ちが湧き上がってきて思わず微笑んだ。 しかし、その安心も束の間だった。 次に感じたのは首の左側から圧力、お腹からは舌触り。 そして、近くからゴキュゴキュ、下からはペチャペチャと生々しい音が耳に飛び込んでくる。 記憶の最後に見たピンクの彼とは飲み方が違うし、しかも2人同時に吸血されるなんてと理解したら、パニックになった。 ‘‘しっ、死んじゃう……’’ そう思った途端に血の気が下り、クラクラしてきた僕。 首もお腹も動脈だから、ドクドクと拍動が大きく聞こえてきて、ますます焦る僕。 ‘‘早くどうにかしないと’’ 止むことのない痛みには諦めていたはずなのに、今回は行動を起こす気に何故かなった。 声を出そうとゆっくりと口を開き、空気を軽く吸ってすぐに勢いよく吐き出した。

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