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楽園さ
「トリックオアトリート……お菓子をくれなきゃ、いたずらしちゃうぞ♪」
上ずった声が聞こえてきたから、なんとか目を開けて声の先を見る。
ピンク色のショートボブで鼻筋が通った男性が口角を上げていた。
「なにを言ってるんですか?」
言葉の意味も微笑みの意味もわからない僕は戸惑うことしか出来ない。
彼は僕を見つめながらボサボサの黒髪を右手で撫でる。
その右手が後頭部から首へ降りてきた時に彼がフッと笑い、僕の視界から消えた。
「あっ、は……アアッ」
チュプチュプという音が聞こえた瞬間、感じたことのないものが身体を痺れさせ、頭へと上がってくる。
温かいし、頭が真っ白になる。
これが……快楽か。
「気持ちいい?」
チュッと共に低くて甘い声が顔の下から聞こえてくる。
「もう、死んでもいい……」
ふわふわした意識を紡いで言った僕を、ふふふと笑う彼。
吸血鬼だっていい、僕をこの世から消してください。
その願いが届いたのか、彼は僕をお姫様だっこをして胸に抱え、強く首筋に噛みついた。
「天国よりも良いところに連れてってあげるからね」
長い舌で血を絡め取り、妖しく微笑む彼。
「どこ……?」
僕は掠れた声で言う。
「楽園さ、すぐ着くから寝といて」
目を細めた彼の瞳が赤く光ったのが見えた途端、弾けるように意識を失った。
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