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第22話 キスで負かせろ!
なんということでしょう。
ぼくが大事に大事に取っておいたファーストキス。歩太先輩に捧げると誓ったファーストキスを、好きでもない男の先輩にあっさりと奪われてしまいました。
あまりにも唐突で、目を閉じる間もなく。
ショックを受けていたら、聖先輩に笑われた。
「はじめてだった?」
「は、はい、はじめて……」
「なんだ、その顔。俺じゃ不満なのか」
「い、いえっ、めっそうもない!」
一気に不機嫌になった先輩を安心させようと、ぼくは作り笑いをして首を横に振った。
先輩はホッとした様子でぼくを見つめたまま、後頭部に回した手を解こうとはしない。
いくら実体験がないぼくだって、これから先に何が待っているのかくらいは分かる。
先輩はたぶん、もう一度キスがしたいのだ。
これ以上してしまっては、歩太先輩に顔向けが出来ない。ここできちんと終わらせなくては。
「あの……先輩。恥ずかしいのでこれ以上は……」
お得意の演技で上目遣いにお願いをすると、先輩はキョトンとして一瞬動きを止め、急にぼくの頬をつねった。
「いひゃい!」
「一点、お前の欠点を上げるとするならば」
「はいっ?」
「そうやって媚びる演技するところだな。わざとやってんのバレバレなんだよ。俺、そういうのすぐ見抜くし通用しないから。覚えておけ」
じゃあぼくが間違えて先輩に告白しちゃったっていうのもはやく見抜いて下さいー!
その叫びは声に出せぬまま、ようやく指を離されたほっぺを押さえる。そしてまた、先輩の顔が近づいてきた。
「先輩っ、まだ、お話の最中……」
「ん。もう一回試させて」
試させて、というのは、男もイケるかどうか試させてという意味だろうか。
それって、もしキスが気持ちよくなかった場合、お付き合い解消って事も有り得る?
ぼくは望みをかけてみた。先輩にめっちゃくちゃに濃厚過ぎるキスを仕掛けて嫌悪させ、相性が悪いと思ってもらえたらいいんだ。
そう考えるとやる気が出てきた。
歩太先輩の為だったらそれくらいお易い御用だ!
「い、いいですよ」
ぼくは意を決して身構える。
先輩はさっきよりもぼくの頭を強く押さえて、体を包み込むように左手を回りこませた。
きゅっと瞳を閉じると、またぷにゅ、と柔らかいものが押し当てられる。二回目だからか、そこまではビックリしない。
けどその後だった。
ぼくの閉じた唇の真ん中を先輩の舌先が割って、生暖かいものが中に入ってきた。
舌と舌が絡み合う。
先輩が歯列をなぞって左右にゆっくり動かすと、ぼくの喉が自然と鳴った。
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