「わーん馬鹿馬鹿ぁ！　ぼくの馬鹿ぁぁ！」 　自宅に帰ってきたぼくは、自室のベッドで手足をバタバタとさせる。 　なぜぼくはあんな事を言ってしまったのか。ちゃんと断れるチャンスだったのに。 　聖先輩のビー玉みたいな澄んだ瞳を見つめていると、魔法にかかったみたいになる。言いづらかった。あんな事までさせておきながらやっぱ無理ですだなんて言ったら、先輩は傷付くんじゃないかと思って…… 　(でも結局いつかは分かることなんだから、言うなら早く言うに越した事は無いんじゃないか?!　そうだ、今からでも遅くない、電話で謝ろう) 　スマホを取り出し、高橋 聖の連絡先を表示する。嫌なことは先延ばしにすればするほど、問題が大きくなる。それは分かっているのに、勇気が出なくてなかなか発信ボタンを押せない。 　何分か逡巡したのち、意を決して発信ボタンをタップしようとした瞬間、逆に電話が掛かってきた。 　画面には『高橋 歩太先輩』の文字が。 「聖先輩、もしや裏切ったか?!」 　真っ先に口走ったのはそれだった。 　付き合ってることは誰にも言わないでって念を押したのに、ぼくと付き合える事に舞い上がった聖先輩は親友の歩太先輩に早速話しちゃったんじゃないか。 　もしそうだったら、歩太先輩に何て言えばいいのか……と頭を抱えながらぼくは電話に出た。 「もしもし」 『あぁ小峰。今日はありがとな。わざわざ保健室まで様子見に来てくれて』 　先輩の声はガラガラ声で、出すのが辛そうだった。 　そんな状態でぼくに電話をかけてくるだなんて。キュンと胸が痛くなる。 「そんなのいいですよ。先輩、そんな事よりもちゃんと寝てください。体辛いんじゃないですか？」 『病院行って診てもらって、ちゃんと薬も飲んだし平気だよ。いや、さっき電話で聖から聞いたからさ』 　ポト、とベッドの上にスマホを落とした後、すぐに拾い上げた。 　あの無愛想ヤロー!! 「先輩、それは本当に、誤解なんです」 『え、そうなの？　聖から、小峰はお昼過ぎにも保健室に来てくれたって聞いたんだけど違うの？　俺、母親が予定よりも早く迎えに来てくれたから帰っちゃったんだけど、もし小峰が来てくれてたら悪い事したなと思って』 「……聖先輩が言ってたのってそれだけですか？」 『ん？　そうだけど、他にも何かあった？』 　なんにもないです、と首をブンブンと横に振りながら、先輩と喋った。どうやら聖先輩はぼくとの事はちゃんと内緒にしてくれたらしい。 　さっき疑ってしまってごめんね聖先輩。 　電話を切って、ぼくはまた頭を抱えた。 　明日からぼくは学校でどう振舞ったらいいのだ。よりにもよって、大好きな人の親友と付き合う羽目になるなんて。 　ハッピーエンドがどうこう言っている場合ではない。とにかく歩太先輩に気付かれないうちに、聖先輩とのお付き合いを解消できるように何か案を出さなくては。