31 / 111
第31話 ぼくは忘れっぽいです。
「大丈夫だよー。誠意を持って謝ればすんなり許してくれるって」
「いや、無理だ。ぼくには分かる。ぼくが聖先輩にボコボコにやられている未来が見える」
「何か弱みでも握られたわけ?」
無言のぼくを見て、乙葉は何となく察したようだ。まさかヌいてもらった事までは予想出来ていないはずだけど。
乙葉は「うーん」と頭の後ろで手を組み、空を仰いだ。
「まぁそうだなぁ。もし俺だったら相手に嫌われるような事するかもな。付き合ってくのは無理だって思わせるように」
「それね、考えたんだけどダメだよ。聖先輩が周りにぼくの性格が悪いって話しちゃうかもしれないじゃん」
なんてったって聖先輩は歩太先輩の親友。
歩太先輩の耳にも入って、ぼくの行いに幻滅されたら元も子も無い。
「じゃあシンプルに、他に好きな人が出来たので、でいいんじゃない?」
「おかしいでしょう! そんな短期間で!」
「え、そう? 俺、半日で別れた事あるよ」
「半日?!」
それは付き合っていたと言えるのか。
突っ込んで訊いてみたら、乙葉は来るもの拒まずタイプで付き合ってきた人数も半端ないことが分かった。知らない人とでもまずはお付き合いから、らしい。
そんな人も世の中にはいるんだなぁと新しい世界を見たお昼休みだったが、解決方法が見いだせないまま予鈴がなり、あっという間に教室に戻る時間になってしまった。
仕方なしに重い腰を上げると、聖先輩も校舎に戻って来るのが見えた。腕まくりをしながら爽やかに汗をかいていた。
「偉いよなぁ、球技大会のためにわざわざ練習だなんて」
「雫も少しは練習しとかないとね」
乙葉にそう突っ込まれるけど、なんの事かさっぱり判らない。
「練習って、なんの?」
「えっ、だからバスケの。雫だって昨日、バスケに決まったでしょ」
「えぇっ?! 知らないよそんなの!」
「あぁやっぱり……五時間目の種目決めの時、雫ぼーっとしてたもんね。ドッジボールにするって言ってたのにバスケに手上げてたから、なんかおかしいなぁと思ってたんだけど」
昨日の五時間目って、聖先輩の誤解を解かなくちゃと必死で内容なんて全く頭に入って無かった時じゃん!!
スポーツがてんでダメなぼくは、ドッジボールにして外野に回って楽しようって作戦だったのに!!
「ヤダヤダ!! ドッジボールがいい!!」
「んな事言ったってもう遅いよ。諦めな。だいじょうぶ、俺もいるし」
「無理だよ! ぼく、まともにドリブル出来た事もないんだよ?」
「ていうかその調子だと、図書委員の仕事があるのも忘れてるでしょ」
「へっ?」
「やっぱり……今日と来週の火曜日の放課後、図書室で作業。三年から仕事の引き継ぎって言われてたでしょ」
ぼくと乙葉は同じ図書委員だ。
もし言ってくれなかったら速攻帰っていただろう。
どれもこれも全て、聖先輩のせいだ……ということにしておこう。
ともだちにシェアしよう!