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第34話 秘密のキス

「してもいい?」 「あ……」  こくんと頷くと、すぐに聖先輩の生暖かく濡れた舌が挿入してきて、ぼくの舌が絡め取られた。  一気に昨日の情事が蘇り、背中にブワッと汗が吹き出た。 「ん、ん……」  隅に追いやられた体は逃げ場を無くし、背中をずりずりと壁にこすりつけながらほんの少し抵抗を見せる。  もし次の階で、誰かがボタンを押して待っていたらどうするのーー!  考えながら、ぼくはその腕をいやいやと押す。けどそれは本気じゃなかった。ぼくはこのキスに酔いしれていた。  聖先輩がちゅく、とかじゅっ、とかいやらしい音をこの狭い空間いっぱいに響かせてぼくの耳を犯す度に、脚がくずおれそうになる。  ついに四階に辿り着いたけど、運良くそこも通り過ぎた。  二、三度顔の角度を変えながら、ぼくらは蕩けるようなキスをして、ピンポン、と電子音が鳴ったのをきっかけにようやく唇を離した。  先輩がぼくの濡れた唇を親指で拭ってからきちんと立たせてくれて、腕を引っ張ってくれたおかげでぼくは箱の外に出ることができた。 「やっぱ小峰って、エロい顔するね」  聖先輩はなんだか勝ち誇ったような顔をしてスタスタと歩いていってしまう。  ぼくはぼーっと頭にモヤがかかっていたけど、次第に冷静さを取り戻していった。  ──また、やってしまった!!  信じられない。しかも歩太先輩のマンションのエレベーターの中でなんて。  頭を抱えつつも、「早くしろ」とさっきの甘ったるい彼とは同一人物とは思えない冷たい目をした聖先輩に急かされて、足早に後を追う。  角部屋のインターフォンを鳴らすと、マスクをした歩太先輩が出てきた。 「ごめんね聖。わざわざ……あれっ、小峰も来てくれたの?」 「あ、はい……」 「そっか。ありがとうな。散らかってるけど、どうぞ上がって」  あぁ、パジャマ姿の歩太先輩、新鮮……  ボーッと見蕩れていたけど、今この隣の人と熱烈なキスをしてきちゃったことが嫌でも思い出されて、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。  聖先輩はまるで何も無かったかのようにふるまっている。

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