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第36話 圧がすごい。
「あー、俺やっぱりバスケにされてるー」
歩太先輩の声に釣られて、プリントの文字を覗き込む。
確かに歩太先輩の名前がバスケの参加者一覧に載っていた。
「当たり前だろ。優勝狙うんだから」
「まぁ聖もいれば狙えない事もないけどさぁ、もう随分と長いことボール触ってないし、大丈夫かなあ」
「大丈夫だろ。今日、宮本と福田にバスケ教えてたんだけど、大変だった。まずルールをちゃんと分かってなかったから、そこからしっかり教えないと」
「えぇ、福田、ちゃんと練習するって言ったの? あいつ体育の授業真面目に受けたこともないじゃん」
ぼくの知らない人の話で笑っている先輩たちを見て、ちょっと置いてけぼり感。二人は親友なんだから、ぼくの知らない世界があるのは当たり前なんだけど、話に入れなくて疎外感。
できれば歩太先輩たちと同じ学年に産まれたかったなぁ。たった二つの年の差が、宇宙の隅と隅くらいに離れているように感じてもどかしい。
二人はその福田と宮本って人の話で盛り上がっているみたいだから、ぼくは部屋の中にある小物や食器棚を見て時間を潰す。
ぼくが話の輪に入っていないことに気付いたのは歩太先輩が先だった。
「ごめん、小峰。こっちで勝手に盛り上がっちゃって」
歩太先輩の気遣いについ頬が綻ぶ。
その素敵な笑顔に免じて許しますよっ。
「いえいえ、お構いなく」
「で、小峰は何の競技に参加するの?」
「あ、実はぼくもバスケに」
「へぇ。小峰もバスケ得意なんだ?」
「いえっ、全く得意じゃないんです」
ぼーっとしているうちに決まっていたらしいと伝えると、聖先輩には鼻で笑われ、歩太先輩にはへぇーと驚かれた。
「小峰、そんな小さな手でボール持てんの?」と聖先輩がバカにするように言うので、「持てますよ、ボールくらい」と見栄を張るが、たぶん片手じゃ持てないだろう。
「じゃあさ、俺、小峰に教えてあげようか? バスケ」
「えっ?」
歩太先輩の急な申し出に、心が踊った。
「マンツーマンで、じっくり丁寧に厳しく教えてあげるよ」
歩太先輩とマンツーマン? 愛のバスケ教室?
手を添えられながらバスケットゴールに向かってシュートを打つぼくを想像すると、幸せで鼻血が吹き出そうだ。
「あ、じゃあ……」
「俺が教える」
お願いしまーす、と嬉々として応えようとした矢先、聖先輩の硬い声にかき消された。
歩太先輩はキョトンとして聖先輩を見つめる。
「え? でも聖、福田たちにも教えてるんだったら大変なんじゃ……」
「一人増えようが変わらない。それにお前は生徒会の仕事もあるし、塾も通ってるだろ」
「まぁそれはそうだけど、どっちも毎日って訳じゃないし……」
「小峰。いいよな、俺で」
わー! 怖い怖い。
お前に拒否権はないぞオーラが凄まじい。
ぼくがこくこくと頷き即答したのは言うまでも無い。
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