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第37話 聖先輩って優しいの?
長居しても歩太先輩の負担になるだろうから、そろそろ帰ることにした。
部屋を出て、エレベーターの矢印ボタンを押した後すぐに聖先輩に言った。
「あ、あのっ、帰りは、キスは無しでっ!」
キス、の部分はかなり小さめに言う。
先輩は案外あっさり「分かった」と了承し、実際にエレベーターに乗り込んでもぼくに触れてこようとせず、普通にマンションから出た。ぼくがお願いしても、てっきりキスを仕掛けてくると思っていたのに。
「キス、しなかったんですね」
「は? お前が無しでって言ったんだろ。本当はして欲しかったのか?」
「いや、そういう訳じゃないんですけど!」
「お前の嫌がることして、嫌われたら嫌だから」
聖先輩って、ぼくに嫌われる事を恐れてる。
そういえば昨日もそうだった。ベロチューをする前も、ぼくの股間に手を触れる前も、ちゃんとぼくの意見を聞いてくれた。
ぼくが「嫌です」って一言言えば、きっと従順してくれる。
……あぁ、だからもっと、聖先輩が嫌味ったらしくてカッコ悪くてぜんぜん尊敬できない人だったら良かったのに。
実はこの関係は偽造なんですって、言いづらいにも程があるよ。聖先輩。
こんなぼくの複雑な気持ちに気付くことはない先輩の横顔は、夕焼けのオレンジ色に染まっていた。
「明後日の放課後から練習するから。覚悟しておけよ」
聖先輩って、言い方とか顔とかキツい時もあるけど、本当は歩太先輩と同じくらい優しい心の持ち主なんじゃないかな。
モテる男はやっぱり違う。
ぼくはなんか可笑しくなって「はい」と笑いを堪えながら返事をした。
聖先輩はこんなぼくを見て、また鼻で笑っていた。
* * *
「小峰」
「はい」
「今の、本気?」
「もうっ! 本気ですよ! そんな引かないで下さいよーーっ!」
二日後、ぼくは聖先輩との約束通り、バスケを教えてもらうことになった。
まずは手始めに、バスケットゴールに向かってドリブルからのシュートをしてみろと無理難題言われ、ぼくなりに必死にやって見せた。
自分でも恥ずかしくなる程の散々な出来である。
シュートどころか、ドリブルすら出来ない。
ボールに気を取られて前に進めないし、進もうと思うとラグビーみたいに脇に抱えて歩いている。
「と、とりあえずシュートをしてみようか」と言われ、ゴール下でボールを投げるも、距離が足りずにボードにかすりもしない。
遠くにコロコロと転げていったボールをやっと取って戻ってきたら、先輩の憐れむような眼差しが突き刺さる。
泣きたいのはこっちだよーー!
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