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第41話 また誘われちゃいました。
学校から駅まで向かう帰り道、先輩と他愛もない話をしながらもどこか上の空だった。
やっぱりさっきのカラコン野郎に小突かれたのが気に食わない。
ぼくが何かしちゃったんなら分かるけど、あいつとどこかで接触したような覚えはない。
「どうした、ボーッとして」
聖先輩はぼくを心配してくれているようだった。
そうだ。先輩に訊いてみればいいんだ。
ぼくは自分の目尻を横に引っ張ってツリ目っぽくする。
「先輩、この学園で、髪がツンツンした茶髪で背が高くて、目がこんな感じで、瑠璃色のカラコンした男ってご存知ですか? 先輩の一つ下か、ぼくと同い年の」
「カラコン? 知らない。そいつがどうかしたの」
(そっか、知らないか。まぁこれだけの情報じゃ分からないかもな)
「さっき聖先輩が職員室に行っている間、遠くに行っちゃったボールを拾ってくれたんです。その人、聖先輩の事知ってるみたいだったから」
「ふぅん。名前は聞かなかったの」
「はい、聞けなくて」
先輩はまるで興味が無さそうに歩いていた。
その話はそこで終わり、一緒に電車に乗り込み、ドア付近に立った。
ぼくの下車駅が近付いて来た時、先輩はなんだかソワソワし始めた。
「小峰」
「はい」
見つめたかと思ったら、すぐに視線を外される。それだけでもう、言いたいことはなんとなく分かった。
聖先輩は外の流れる景色を見つめながら言う。
「明日休みだし、家に帰るのちょっと遅くなってもいいか?」
やっぱり先輩、ぼくを家に誘おうとしてる。
「あ、え、えっと、そうですね~……」
ダメだ。流されちゃダメだ。
電車はスピードを緩める。もうすぐぼくの降車駅に着く。
言うんだ。理由は何でもいい。練習で疲れちゃってとか、門限があるのでとか。
だってまずいよーー! 先輩の目が怖いし! ぼくきっとなんかされちゃうに決まってるよ!
「どうなんだ」
先輩が眉をひそめながら背中を丸めて、ぼくの顔を覗き込んだ。
近い。近い近い!
そんな近くで見つめられたら……
「だい、じょぶ、です」
言っちゃったよ……。
先輩は安心したように、ふっと口の端を上げた。
ぼくはやっぱり、勝てなかった、弱い自分に。
だって先輩が悪いんだ、カッコよすぎるから。
歩太先輩、ごめんなさい。
何度か謝りながら、ぼくと聖先輩は緑ヶ丘駅で降りた。
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