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第59話* 学校でいけないことしちゃダメです5
声には出さず、唇だけで「ダメダメッ」と訴えて首を横に振る。
先輩は静止虚しく、ぼくとおでこを合わせながら手を動かして、ぼくのを上下に擦り上げた。
体が反応して勝手に跳ね上がり、被っている布が少し揺れてしまった。
シー、と先輩は唇に人差し指を当てながら、不敵な笑みを浮かべる。
ぼくは喉が鳴らないように、自分の手の甲を思い切り噛んだ。
(やだ……そこに乙葉がいるのに)
涙もその先走りの卑猥な液体も、溢れ出して止まらない。
先輩の指の動きに合わせて、ひくんひくんと腰が浮き上がって脚が痙攣する。
先輩の熱い吐息が耳を掠める度、鳥肌もたつ。
「――ぁっ」
我慢が出来ずに漏れ出た声に、自分でびっくりした。
ハッとして目を開けたと同時に、乙葉の足音がピタリとやんだ。
「……あれ?」
乙葉が上げた怪訝そうな声に、頭が真っ白になった。
きっとバレたんだ。
こんなところ見られたらもう、いくら乙葉だとしても恥ずかし過ぎて死んじゃうよー……
ぼくは観念し、震える両手で顔を覆いながら布を捲られるその瞬間を待った。
心構えをして、意識を耳に集中させた。
すると、何かを手で軽く叩き払っているような音が聞こえてきた。
「あぁ、折れ曲がっちゃってるじゃん……よっと」
ゴツ、と木と何かがぶつかるような音も聞こえる。
そうか、さっきぼくが落としてしまった本を拾って、元に戻してくれたんだ。
コツ、コツ、とまたこちらに近く音がして、布の隙間から乙葉の靴の爪先が見えた瞬間、本気で心臓が止まりそうになった。
息を潜めて目で追っていたが、ドアが横に引かれて乙葉の体が廊下に出たのが見えた。
扉を閉められ、再び鍵の閉まる音を確認してから数秒後、ぼくは勢いよくシーチングを外して空気を吸い込んだ。
安堵してまた涙が出てきてしまう。
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