「結局、そんなに点を取ることに躍起になってるのは、俺じゃなくて歩太の為なんだろ」 「はいっ⁈」 　突拍子もなく言われて、ぼくは牛丼のお肉を噛む作業を止めて顔を上げた。 　普通の丼ぶり単品を頼んだぼくに対し、聖先輩は大盛りサイズの牛丼定食を頼んでさらにトッピングで半熟卵も追加し、それぞれ黙々と口に運んでいる最中だった。 　ぼくは咀嚼して喉につっかえないようにゴクンと飲み込む。 「せ、先輩、この前電車の中でしてたぼくと歩太先輩との会話、聞こえてたんですか」 「いや、今日歩太から聞いた。小峰が点を入れたら、自分の好きな奴を教えることになってるって」 　こっちを見ない聖先輩は、丼の中に米粒ひとつも残さずに綺麗に食べきっていた。 　歩太先輩、何喋ってるんですかー。 「そんなに気になんの？　あいつの好きな奴なんて」 「えっ⁈　い、いや、まぁ、興味無くは無いですけど」 　ぼくは誤魔化すように水をグイッと飲む。しかし興味津々だというのはバレバレだろう。 　店員さんが二人分の熱いお茶を持ってきてくれた後、先輩は「お前さ」とこちらを向いた。 「そもそもそんなこと聞いて、どうするわけ」 「えっ、どうするって……いや、単なる好奇心っていうか？　先輩だって気になりません？　親友の好きな人って誰なんだろうなーって思う時とか」 「別に気にならないけど」 　ずず、と熱いお茶を飲む先輩を尻目に、ぼくはむむ、と口を尖らせる。 「そうですか。じゃあ先輩も知らないんですね。歩太先輩の好きな人」 　何気なくそう言った瞬間、聖先輩の片眉がピクリと反応したのを、ぼくは見逃さなかった。 　え！　その反応。 　先輩はすぐさま「知らない」と答えて視線を横にずらしたけど、鈍くてトロいと言われるぼくでさえも分かる。 　聖先輩は知っているんだ。歩太先輩の好きな人を。 （え、ちょっと待てよ、そうしたら……） 　歩太先輩の好きな人がぼくだと知っていながら、聖先輩はぼくの告白を受け入れたのだろうか。 　もしそうだったら、それこそ歩太先輩にはぼくたちが付き合いだしたという事実は隠しておきたくなるようなものだと思うが。 『バレたらバレたで俺は別にいいと思ってるけど』 　聖先輩は確かに、ぼくとお付き合いを始めた次の日にそう言っていた。 　親友と好きな人が被るっていうシチュエーションは漫画で何回か見てきたが、誰しもがその気持ちを隠したくなるものだ。 　ぼくだって、もし乙葉と好きな人が被っていて、ぼくの方に交際を申し込まれてしまったらどうするか判らない。嬉しいけれど、その子よりも乙葉との友情を壊したくないから断ってしまうかもしれない。 　何だろう。ボタンを掛け違えてしまったかのような違和感がまとわりつく。 　もしかして、歩太先輩の好きな人ってぼくじゃないの──？