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第69話 地雷だったみたいです。

 先輩の喉仏あたりをぼーっと見ながら考えた。  いや、もしかしたら聖先輩は、そんな細かいことまで考えていないのかも。  この間の書庫室での危機一髪な状況の時には『見つかったら見つかったで、またその時に考えよう』だなんて呑気に言ってたし、今まで行き当たりばったりに生きてきたのかもしれない。   「おい」  そうだ、きっとそう。  聖先輩は、ぼくに知って欲しくないんだ。歩太先輩がぼくのことを好きだって。 「小峰」  聖先輩は嫉妬深い。自分の親友が恋人に向かって好きだなんて伝えるシーンを思い浮かべるだけで、はらわた煮えくり返るくらいになってしまうに違いない。だから先輩はいちいち、どうせ点なんて取れないってぼくに突っかかって…… 「いたっ!」 「変な顔でボーッとしてないで、早く食え」  聖先輩のデコピンにより、思考は一時停止された。  変な顔って! もうっ、先輩のせいですよ。  改めて丼の中身を完食し、お茶を飲み干してから店を出た。  家の近くまで送ると言ってくれたので、悪いとは思いつつもお言葉に甘えた。だってもうすぐ、先輩と話さえも出来なくなっちゃうかもしれないんだ。最後の思い出作りとして……。  ぼくはしつこく、聖先輩を質問攻めにした。 「ほんとは知ってますよね? 歩太先輩の好きな人」 「知らない」 「じゃあちゃんと目を見て言ってくださいよぉ」 「しつこいな。知らないったら本当に知らない」 「ふふ。先輩ってほんと、可愛いですね」 「……か・わ・い・い?」 「……へ?」  ピタッと歩みを止めた聖先輩がどこか禍々しく感じられたので、ぼくはここから走って逃げたくなった。  案の定先輩は急にぼくの手を引いて狭い路地に入り込み、壁に背をつけたぼくに向かって壁ドンした。 「一つ教えといてやる」 「はっはい!」  涙目でビシッと敬礼をするぼく。 「男に向かって言っちゃいけないといわれているNGワード一位は『可愛い』だ。俺もそう言われんのは好きじゃない。覚えとけよ」 「わっ分かりました! えぇでも、そうなんですね? ぼくは別に、可愛いって言われても嫌だとは思わないですけどね……」  えへ、とほっぺを人差し指でポリポリかいていたら、先輩はより一層眉を潜めてぼくをジトッと見つめてきた。  あぁ、余計な一言を言ってしまった! 「お前は男って自覚がないのかよ。いつもそうやって媚びるみたいな仕草して喋ってて。お前がそんなんだから俺……」  聖先輩はハッとした表情を見せたあと、続く言葉を飲み込むようにして地面に視線を落とした。  そして── 「放っておけなくなるんだよ、お前のことを」

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