76 / 111
第76話 激しい戦い
ピピピッ、と審判役の先生が笛を鳴らして、相手チームに注意喚起をした。
なんの反則をしたのかは分からなかったが、わざと体をぶつけているように見えたので、さすがに止めるよなぁと思っていたところだ。
「相手チーム、いくらなんでもさっきから荒々しすぎだよ」
隣にいる乙葉が苦々しく呟く。
ここにいる人たちは皆ダブル高橋に釘付けで、点が入る度に歓喜の声を上げている。先輩たちの圧倒的勝利を確信している雰囲気が出来上がっているこんな状況じゃ、相手チームも面白くないのは仕方ないにしても、ちょっとやりすぎだ。
特に不快感を露わにしていたのは、試合開始時に聖先輩とジャンプボールをしていたあのメガネの人。
「あっ、また」
今そいつが、ボールを持っている歩太先輩の体にわざとぶつかったように見えた。素人のぼくでも分かるくらいあからさまに。
「何あのメガネの人! 今の絶対わざとだよね?!」
「うん。ちょっと心配だな。怪我とかしないといいんだけど」
ぼくは興奮状態で文句を言うけど、乙葉は冷静に試合を見守っている。
歩太先輩は少しよろめいたが、顔色一つ変えずにボールを取り返しにいこうとまた走り出した。
歩太先輩はさっきみたいに聖先輩にパスを出す。
受け取った聖先輩が素早くゴールに向かってボールを離そうとした瞬間、そのメガネはジャンプをして聖先輩に体当たりをした。
聖先輩の体は傾いて、体育館の硬い床に仰向けに沈み込んだ。
「聖せんぱいっ!」
ぼくはすぐに駆け出し、聖先輩の元へ向かった。先輩の周りを囲うようにチームメイトが集まってきている。その輪の中を潜り抜け、先輩の傍に寄った。
先輩は仰向けで瞳を閉じたままピクリとも動かない。
えっ、まさか、死……⁈
ぼくは先輩の体を思い切り揺すった。
「先輩っ、大丈夫ですか⁈ 死なないで!」
「……死ぬかよ、これくらいで」
半分目蓋を持ち上げてむくっと上半身を起き上がらせた聖先輩は、いつもの調子でぼくにそう返してくれたからホッとした。
「よ、良かったぁ……てっきり打ちどころが悪かったのかと思って」
「まぁちょっと、尻は痛いけどな」
聖先輩は首を左右に振って骨を鳴らした後、メガネの人を思い切り睨みつけた。メガネはというと、先輩に謝りに来ようともせず、こっちに背中を向けてチームメイトと談笑している。たまにチラッとこっちを伺うけど、その目はどこか勝ち誇ったような色をしていたから、ぼくもそれを見てムカムカとした。
「ちょっとちょっと! 何なんですかあの人。わざとぶつかってきたくせに、謝りもしないだなんて」
「ほっとけ。これくらいしとかないと、あいつのプライドが許さないんだろ」
聖先輩はチームメイトに手を引っ張られて立ち上がり審判の先生の元へ行き、特に怪我はないことを伝えた。
先生は笑っていたメガネの人もその場に呼び寄せて、どこか諭すような真剣な表情でその人に話をしている。直接注意してくれているみたいだ。
ともだちにシェアしよう!