77 / 111

第77話 試合終了

 ふと顔をあげたら、二階にいるカラコン先輩と思い切り目が合ったのですぐ逸らした。  うわぁー今すっごく睨まれてました。  けどしょうがないよ、聖先輩が心配だったんだから。  今度は斜め背後からも視線を感じる。  振り向けば、歩太先輩がぼくの目を真っ直ぐに見つめていた。  どこか神妙な面持ちで、ぼくの方へ一歩ずつゆっくりと近づいてくる。  ぼくは、近づかれる度に後ろへ一歩下がりたくなった。なぜそう思ったのかはわからない。けど先輩から発せられるオーラが近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。 「小峰さ」 「あ……すいません、勝手にコートに入っちゃって」 「いや、そうじゃなくて……小峰って」 「……」 「小峰って……聖と」 「歩太。試合再開するって」  チームメイトの声に遮られた先輩は、とっさに口の端を上げて「わかった」と言ってぼくに背を向けて行ってしまった。ぼくも邪魔にならないようにコートから出て、小走りで乙葉の元へ戻った。 「大丈夫そうだって? 聖先輩」 「あっ、あぁ、うん。何とも……ないみたい」 「どうした? 先輩が急に倒されたから、びっくりしちゃった?」 「……うん、ちょっとね」  乙葉の言葉に空返事をする。  確かに聖先輩が急に倒されてびっくりしたのは事実なんだけど、さっきの歩太先輩の言葉が胸に引っかかって心臓がバクバク鳴っていた。  聖と……って言ったよね、歩太先輩。  何だろう、もしかして感づいた? ぼくと聖先輩が付き合ってるってこと。  ぼくは体操服の上から、キスマークが付いている鎖骨の下をギュッと握る。しゃがんだ時に見えてしまったのだろうか。いや、そんなはずはない。体操着の首は詰まっているし、不意に見られてしまうってことはない。  聖先輩は倒されたことにより怯むどころか余計に火がついたようで、さらに俊敏に動きながらどんどん点を重ねて相手チームを引き剥がして行く。  さらに十点以上の差が開いた後、試合終了の笛が館内に鳴り響いた。

ともだちにシェアしよう!