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第86話 訳がわかりません。

 その人の行いをじっと見つめたままだったが、第三ボタンまで開けられた白シャツの隙間から素肌が見えた時、ハッとした。  なんでこの人インナー着てないの?  いやいや、それは横に置いといて。最後のボタンを開けられる寸前で、ぼくはその人の手を止めた。 「あ、あの、何やってるんですか?」 「小峰くんに、許してもらいたいから」  その人はぼくの制止を振り切り、シャツを脱ぎ捨ててしまう。  上半身裸になった後、今度は自らのベルトを外し始めたので、僕はますます力を振り絞って止めようとする。  何この人ー! なんで自分で脱いじゃってんのーー⁈ 「あのっ! ほんとーーに、今回の事は事故でしょうがなかったって思ってるので! 逆にそこまで追い詰めてしまってすみません! 1ミリも気にしてませんので、どうか服を着てくださいーー!」  左手がジンジン痛むが、ぼくは必死に止めた。  だがその人は体を捩りながらぼくの手をすり抜け、ベルトを外して制服のズボンを足首まで下ろしてしまった。  赤のボクサーパンツが目に入って、ますます頭が混乱した。  何なの⁈ もしかして、裸を見せるのが趣味な人なの⁈ 「触っていいよ。小峰くん、こういうの好きでしょ?」 「えっ⁈ な、なに言ってるんですか⁈」  急な展開についていけないんですけど‼︎  するとその人は、ぼくの右手首を掴んで自らの中心に引き寄せた。  手の甲から布越しに伝わってくる、その雄の存在。嫌悪感からぞわーっと鳥肌が立つ。    やっぱりこの人、すごく変な人だ……! と思った時──  カシャ。  それは、静寂な空間にはあまりにも不釣り合いな音で際立った。  ぼくはドアの方を見る。  少しだけ開けられた隙間から覗いていた、スマホを持った手。  ぼくは何だか嫌な予感がして、慌てて手を引っ込めた。  すると、ついさっきまで困った顔をさせていた目の前の人は、「ふふっ」と口角を上げて、足首に下がっていたズボンを上げてチャックを閉めた。    あれ……なに、これ……と放心状態になる。  その人はベルトをきっちりと閉め、さっき自ら脱ぎ捨てたシャツも拾いに行って、袖を通しながら言った。 「いいよー」  するとドアが全開になった。  見ると、四、五人の生徒がいて、全員がニヤニヤと笑っている。  その中心にいるのは……カラコン野郎こと、カクライ先輩だった。

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