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第111話 いつかはぼくも。【終】
聖先輩が海外から帰ってきた次の日の放課後、ぼくは聖先輩と一緒に歩太先輩のところへ行った。
ぼくらが付き合うことになったと聞いた歩太先輩はにっこりと微笑んでくれた。
「おめでとう。二人だったら本当にお似合いだよ。似合いすぎて、ちょっと悔しいくらい。でも、末長くお幸せにね」
無理して笑っているようにも見えなかったし、気を遣ってそんな風に言っているとは思わなかったけど、やっぱりなんだか申し訳なくて、ぼくは複雑な気持ちでぺこっとお辞儀をした。
聖先輩は凛とした表情のまま、歩太先輩の前に立っていた。
「歩太の分まで、幸せになるから」
「うっ……やめてよ、そんな風に追い詰めるの……本当に聖は意地が悪いんだから」
「お前だったら、すぐにいい人見つかるよ」
「分かったよ、うるさいなぁ……ほら、俺はもう行かなくちゃ。二人で仲良く帰りな」
クスクスと笑う聖先輩と歩太先輩を見て、すごくいい関係だなと思った。
この二人には、ずっとこのままでいてほしい。お互いを大事で、信頼してて、心を許せるような大切な親友。
聖先輩と歩幅を合わせて、駅までの道のりをゆっくり進む。
もうすぐ夏休み。「どこか行きたいところはあるか」なんて訊いてくれたので、ちょっとベタすぎるけど「海に」と答えた。
何気なく二人の指先が触れ合ってしまい、ぼくは咄嗟に手を引いたが、聖先輩は逆に指を絡ませてきた。
「えっ……ちょ、なにしてるんですか」
「ダメ?」
眠そうな垂れ目でぼくをじっと見つめる聖先輩は、きっと周りの目とか、普通だったらこう、だなんて概念は無いのだろう。
この瞬間、ぼくと手を繋ぎたいと思ったから。ただそれだけなんだろう。
案の定、すれ違った女子高生が目をひん剥いてぼくらを見ていたけど、そんなのお構いなし。
「雫の家にも、今度行ってみたい」
最初は慣れなかったけど、名前を呼ばれても急激に心拍数が上がらなくなったし、変に動揺もしなくなってきた。
聖先輩は堂々として、余裕があって、それでいて……こんな平凡で冴えないぼくのことが大好き。
ぼくももちろん、聖先輩のことが大好きだ。
「ぼくもいつかは聖って呼びたいです」って言おうとしたけど、やっぱりヘタレなぼくは言い出せぬまま、代わりに聖先輩の手をギュッと握り返して顔をほころばせたのだった。
*Fin*
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