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都会編 2
大和の方が断然足が速いことはわかっているが、逃げずにはいられない。
(だいたい、何であいつがここにいるんだ…!)
ハアハアとだんだん息が切れて明彦は普段の運動不足を嘆く。
「明彦、お前また逃げる気かよ!!」
「道の真ん中で人の名前呼ぶな!!」
お互い走りながら大声で叫ぶ。周りの人たちが何だ?撮影か?とざわついている。
(ヤバイ、こんな所知り合いに見られたら…)
明彦はもつれそうになる足で何とか、小さな公園まで辿り着き足をようやく止めた。
どれくらい走ったのか分からないがかなり息が切れている。ベンチに座り込み肩で息をする。
大和も公園で足を止めて、明彦がもう走りそうにないのを確認し、隣に座る。
流石の大和も、息を切らしていた。
「…横腹が痛え」
明彦がそう呟くと、お前のせいだろ!と大和が答えた。
「あー、二人とも早いね」
飄々と現れたのは松浦だ。二人が息を切らしていると言うのに涼しい顔で公園に入ってきた。
二人がキョトンとしていると、こう見えても陸上してたからさあ、と松浦が笑う。
「東條、仲直りした?その子、前話してたヤマトだろ?」
松浦がそう言うと、明彦がぎょっとした。
「…お前、どんな話したんだよ」
大和が明彦を睨む。大した話はしていないよ、と慌てる。
そこから二人はお互いに黙り込んでしまった。
大和は明彦に何か言いたそうだが、明彦はずっと下を向いたままだ。
埒があかないなあ、と松浦が助け舟を出す。
「大和くん、今日は何でこっちに?」
「アンテナショップの5周年祝いに、神楽を舞うんです。あの店じゃ狭いんで他の場所でやるんだけど。その打ち合わせに」
「えっ」
下を俯いていた明彦が声を出す。
「何の反応よ、東條」
「い、いや…」
顔を上げた明彦は大和と目が合い、顔が赤くなるのが分かり慌てて俯いた。
その時、覚えてたんだなと大和が口を緩めていう。
「こいつがまだあっちにいた時に企画したんです。その時は断られてたんですけどようやくOKが出て」
「へえ…。じゃ念願かなった感じなんだな」
松浦の言葉に、明彦は向こうで何とか企画を通そうと試行錯誤したことを思い出していた。
神楽団のメンバーと夜遅くまで話し合ったことも。
(ヤバ、泣きそう…)
「東條に連絡したら早かったんじゃねえの?」
「俺、こいつのケータイ番号知らないんで」
「…まじで?仲良かったんじゃねえの?」
「あっちだと家とか職場に行った方が早いからね」
明彦がそう呟くと松浦が信じられねー、と笑う。
それにしても松浦がいてくれて助かったと明彦はホッとする。
「そういえばもうこんな時間だけど大和くん、どこに泊まるの?ホテル取ってる?」
「…日帰りの予定で、さっきは帰る所だったんで」
「お前ばっかじゃねえの?日帰りなんて無理だろ!」
咄嗟に明彦の口から出た言葉に大和が応戦する。
「だいたいお前が逃げたりするから…!」
「東條ん家、近いじゃん。泊めてやれよ」
「へっ?」
松浦の何気ない一言に、明彦が硬直した。
「帰ろうとしたのを邪魔したの、お前じゃん。明日から連休だし、宿取れたとしても高いよ〜」
大和と松浦がじっと明彦を見る。
(松浦め、余計なこと言いやがって〜!)
「…分かったよ」
しぶしぶ明彦は承諾した。
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