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不思議な夢(1)

時折稲光が轟音と共に辺りを照らす。 その度に反射する光が、洞穴に逃げ込んだ千早(ちはや)の小さな影を岩肌に貼り付ける。 膝を抱えて座り込むと、ほっと息を吐いた。 雨に濡れた身体を震わせながら、千早は自らの肩を抱きしめ、息を殺して気配を消そうとしていた。 飛び出して来たはいいものの、今の千早には何処にも行くあてもない。 ただ、逃げ出したかった。 こんな思いをするくらいなら、この命が果ててもいいとさえ思っていた。 誰にも看取られず、この場で朽ちても構わないと。 ドォーーーンッ!!バリバリバリッ!! 燻る赤茶けた炎とぶすぶすと木々が焦げる臭いと…そして求めて止まない甘い匂いが千早に迫ってくる。 「千早。」 ため息と共に安堵したような低い声がして、ゆっくりと大きな影が近付いてくる。 「…ここにいたのか。探したぞ。 もう、拗ねるな。私が悪かった。謝るから機嫌を直して戻ってきてくれ。頼む。」 その声掛けにも千早は顔を伏せたままぴくりとも動かない。 「千早…」 肩に手を置いたその人の腕をピシャリと跳ね除け、千早は涙声で怒鳴った。 「もう構わないで!放っておいて! 私は、私は…」 あとはもう涙で言葉にならない。 大きな腕から逃れようともがく千早をその人はそれ以上の力で封じ込める。 じたばたと暴れ、拒絶する千早をすっぽりと抱きしめたその人は 「お前しかおらぬと言うでおろうが。 何を勘違いしておるのか知らぬが、私にはちっともそんな気はない。 こんなに濡れてしもうて…風邪を引くと大事(だいじ)。 早く帰ろう。」 嫌々と首を横に振る千早に 「お前が何を言おうと連れて帰る。 お前はれっきとした我が妻。 離れるなんぞ許さぬ。」 そう告げると、千早の顎を掴み口付けた。

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