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後日談(4)
いつの間にか五気が千早の側に寄ってきていた。
「千早様、母様 になられるのですね。」
「お子は、私がおぶって差し上げます!」
「いや、私が!」
「私は抱っこして差し上げます!」
「私はお風呂に!」
何とも賑やかな奪い合いに、千早は吹き出して笑い出した。
「…待ってよ…まだ生まれてもないのに…
とにかく、仕事に復帰したら子守は頼んだよ。」
頼もしいベビーシッター達に慈愛の目を向けると、彼らの身体が光に満ちていく。
暁様の命を繋ぎ五気に守られるこの子は、一体どんな子に育つのやら…と、千早は懐妊したことへの驚きや不安よりも、ワクワクする気持ちで一杯だった。
…何だか急にスラックスがキツくなってきた気がする。
「千早。」
甘い声音に振り向くと、すっかり崩れた暁の顔が近付き、唇を重ねてきた。
みんなの前で、と咎める言葉も発せられないまま、千早は甘い口付けに溺れていく。
「…暁様…」
口付けの合間に愛おしい伴侶の名をそっと小さな声で呼ぶと、スラックスの前を寛げられ、もう既に膨らみ始めたお腹を優しく撫でられた。
「…どうやらこの子はせっかちらしい。明日まで待ってはおれぬな。
壱流に使いを出さねば。」
暁が暫し目を瞑り何かを唱えると、金色の閃光が彼の掌から飛び出して行った。
恐らく…壱流の采配で千早は建前上、長期の出張に行くことが決まっているのだろう。
これから始まる賑やかな日々を思い浮かべて、千早もお腹を撫でながら、話し掛ける。
この幸せはいつまで続くか分からない。
けれども、必ず、必ず、守ってみせる。
「どんなことがあっても、主様とみんなで守り抜くから。
だから安心して生まれておいで。」
千早の身体がキラキラと輝き、みんなを幸せな心地にしていく。
そう。
この先どんなことが起ころうとも、全ての命を守ることができると信じて。
この子が逞しく育ち活躍するのは、まだ遥か先の話……
知らぬ間に芽生えた母性に包まれた千早は、この世のものとは思えない程にとても美しくて、暁達はずっと、ずっと、時が経つのも忘れて見惚れていたのだった。
(完)
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