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第1話

「兄さん・・・っ。」 貴方の姿を見た時、泣きそうになった理由がわからない。 同じ家に住んでいて、顔を合わせている筈なのに。こんなにも胸を締め付けられる。 思わず俺は兄さんの胸に飛び込んだ 「好きだよ、兄さん。」 柄にもなく相手に対する気持ちを言葉にする。普段なら恥ずかしくて面と向かって言えないのに。何故かこの時だけ、自然と口から言葉が零れた。すると、兄さんが優しく俺の頭を撫でてくれる。 「俺も好きだよ、啓太(けいた)。・・・愛してる。」 そう告げた兄の声は優しく、慈しむような表情だった。そんな兄の、愛する人の言葉に、遂に俺の瞳から涙が零れた。嬉し涙は止めどなく流れ続けていく。 兄は、俺の涙を止めるように優しく口付けた 何度も唇を重ね、遂には深くなるほどに 「えっ兄さん、今日から1週間休みなんだ!」 「そうだよ。何とかもぎ取って来た。」 市村啓太(いちむらけいた)は嬉しそうに言葉を発した。あれから雪崩れ込むようにベッドで愛を語らい、散々啼かされていたのに。隣に寝転んでいる兄―市村渉(いちむらわたる)の言葉で途端に元気になった。渉は、道を歩く度に女性が振り向くくらいのイケメンだ。色素の薄い銀色の髪と切れ長な瞳が、面長な顔にバランス良く配置されている。身体つきも、程よく筋肉がついているためスタイルも良い。 ―本当に、カッコ良いよな・・・。 啓太は素肌を晒している渉に見惚れていた。 兄と弟であるが故に、叶うことのないと思っていた恋。それが成就し、こうして渉に抱かれた。夢でないことを確かめるために、啓太は何度か自分の身体をつねった。痛みが、現実であることを告げている。 「それに、今日は啓太の誕生日だしな。どうしてもこの日を休みにしたかったんだ。」 渉から思いがけずに嬉しい言葉が聞けて、啓太はますます笑顔になった。 啓太の誕生日である今日―0時を過ぎた時に帰って来た渉と身体を繋げてから、まだ1時間しか経ってない。 「ちょっと寝て、朝になってから啓太のしたいことを叶えてやるよ。・・・無理もさせたしな。」 「わかった、考えておくね。」 渉は啓太の頭を撫でると、優しくそう告げた。弟の誕生日のために、休みを取ってくれる兄の優しさ。それだけで既に啓太にとっては最高の誕生日プレゼントだ。 2人は目を閉じた。次に目を開けた時に訪れる、幸せな時間を想像して。

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