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第7話

幻夢は啓太の死体の前に立っていた 手には、啓太の魂―蒼く大きな火の玉、が乗っている 「良い夢視たか・・・?」 幻夢が問いかけても返事は無い。けれど、啓太の死に顔は幸せに満ちたような笑顔だった。死んでいるとは思えない程の、穏やかな表情で横たわっていた。 啓太と兄・渉は、血のつながった兄弟ではない 片親の結婚を機に、父の連れ子である啓太と、母の連れ子である渉が義理の兄弟になった。けれど、彼らの両親は事故で亡くなる。残された兄弟は、両親の遺した遺産と渉の稼ぎで寄り添いながら生きていた。 だが今から半年前、渉は事故で帰らぬ人となった その事実が、啓太に生きる気力を完全に失わせた。 義理の兄でありながら、密かな恋心を抱いていた渉を喪った。その現実が、まだ20歳に満たなかった彼に重くのしかかっていたのだ。 「・・・これでお前は、俺と一緒に逝けるな。」 幻夢は、手にしている啓太の魂を慈しむように撫でた。そしてそれを大事そうに懐に仕舞うと、啓太の亡骸に近付いた。冷たくなった唇に、幻夢のそれを重ねる。 幻夢は冥界へと戻る。最後に届くことのない言葉を彼に残して。 「俺もお前のことが好きだったよ、啓太・・・。」 死神・幻夢。前世の名は、市村渉―

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