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第11話
確実に距離は近づいてる。
別に喋る頻度が増えたわけでもないけど、休憩所に俺を招き入れたってこと自体がすごいことだろ?
俺ってばもしかして夾くんに気にいられちゃってたりしてー。
なんていう夾に知られたら冷たく一瞥されそうなことを思いながら、俺は鼻歌交じりに今日もまた弁当持って"休憩所"へと足取り軽く向かうのだった。
***
実際、冗談なんかでも自意識過剰でもなく、夾との距離は近くなっていた。
屋上から秘密の休憩所へと連れてってくれてから早1週間と少し。
最初のころ何度か「寒い」を連呼したことでいまは少しだけ開いた窓から紫煙を外へと吐き出している。
そして屋上では一本だけだったのにいまは二本は吸って行く。
窓際のデスクに寄りかかってただ吸ってるだけで、相変わらず俺が話かけても返事はないけど。
「藤代、から揚げいる?」
弁当食う? あーん、と進めてもまったく無反応だけど。
それでもどう考えても屋上より近い。
ソファに座る俺と、デスクのところにいる夾と、離れてはいるけど狭い室内にふたりきりとかきっといつかあんなことやこんなことになってしまう予感がびしびしと―――。
と、飯食いながら考えながらしてる間にも無言のまま夾は去っていってしまうけど。
それでも俺はそんな毎日の、この昼休みが楽しみでたまらなかった。
***
『今度いつ会えますか?』
俺的には疎遠になりつつあったっていうかぶちゃけ忘れかけてた奏くんからのメールを今日もまたやってきた休憩所で眺めた。
夾はまだ来ていなくて、おにぎりを咀嚼しながら返事を打つ。
『もうすぐ定期テストだからそれが終わったらね』
送信して、海老フライを口に放り込んで数秒。
『待ってます!』
って、すっげー早い返信に苦笑が漏れた。
いやーどうするかな。奏くん俺にハマっちゃってるなぁ。
俺テクニシャンなのかなぁ。
なんにせよ奏くんとはもうちょい距離あけなきゃな。
ペットボトルのお茶を取って喉を潤す。
と、ドアが開いて夾が入ってきた。
俺を一瞥するでもなくまっすぐ窓際へと向かい、少しだけ窓を開ける。
煙草を取り出すと咥えて火をつける。
慣れた動作はスムーズでまだ高校生のくせにサマになりすぎてるよな。
奏くんとのことを思い出したせいか、なんとなーくもうちょい距離を近づけたい。
物理的でもいいから、と弁当を食い終わると俺はソファから立ち上がり夾のそばに近づいた。
夾の隣にならびデスクに寄りかかる。
紫煙をくゆらせる夾は胡乱な眼差しを向けてくる。
「俺も吸いたい」
笑顔で言えば夾は無表情で俺から視線を逸らした。
「いま吸ってるやつでもいーよ」
関節キッスになっちゃうけど、と続けると視線が戻ってくる。
変わらず無表情で目は胡乱気で。
その眼差しがバカにしてる感じなのがたまんない。
「―――お前なんで生徒会長やってるんだ」
きっと拒否の言葉がくるだろうと予測してればまさかの質問。
おお会話だよ、とゆるゆると口角がさらに上がっていく。
「やりがいがある仕事って楽しいからね」
たいした理由じゃない返事をすれば相槌を打つでもなく夾は窓の方へと顔を向けて紫煙を吐く。
これはくれそうにないな。
まぁ別に煙草もらえなくても構いはしない。
こうして傍で男前な顔を眺めるだけでも満足だし。
不意打ちにキスしたらどんな顔するのかなーって、そういやしばらくヤってないし欲求不満気味なのかなってことに気づいた。
「藤代」
口寂しくてポケット探って出てきた飴を食べながら、呼びかければやっぱり返事はなくて。
「飴いる?」
ぐいぐい、と左袖をひっぱると面倒臭そうな顔をした夾がこっちを向く。
「いちごみるく」
口の中で転がしていた飴を舌にのせて、口から出す。
どうぞ、って感じでしばしそのままでいると、
「シネ」
と低い声で一言返された。
「美味しいのに」
飴を口の中へと戻し舐めながら呟く俺はまた夾の視界からは外れている。
でも―――。
夾が休憩所を出ていったのはそれからさらにもう一本吸い終えてから。
その間俺は会話はないけどその隣にいた。
これはなかなかいい傾向だろ?
と、調子にのってもしょうがない、よな?
***
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