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第17話
さすがに無断早退なんてのはできない優等生な生徒会長様だから、とりあえず鞄を持って職員室行って、演劇部にスカウトされるんじゃないかなってくらいの演技で体調不良を訴える。
苦しさを隠すようにわざとらしく微笑む俺にまだ年若い担任教師はあっさりと「無理するなよ」と送りだしてくれた。
本当に俺って演技力あるんじゃないんだろうか。
一応校舎でるまでは弱ってますオーラを漂わせておいた。
裏門を出ると少し離れたところにバイクに跨っている夾がいた。
もしかして、と思っていたけど実際目にすると元から高かったテンションがさらに上がる。
黒光りするデカイ車体に駆け寄りまじまじと眺める。
「これ藤代の?」
「ああ」
頷きながら俺にメットを渡してくれる。
「すごいね、高いんだろ?」
「知り合いが買い替えるつーから安く譲ってもらった」
それでもそれなりに値段はするだろう。
多分、夾は自分の金で買った。そんな気がするし。
「へぇ。っていうか鍵、大丈夫だったの?」
金曜日に夾が落としていったバイクの鍵を返したのは昨日だ。
週末大丈夫たったのか、というか金曜バイクで来てたんじゃないのかな。
そんな俺の思考を読んだかのように、
「修理にだしてて金曜に取りにいくことになってたからな。一旦スペアキー家に取りに帰った」
と、教えてくれた。
「そうだったんだ。金曜はごめんね」
迷惑かけちゃったな、と、でも入ってきてよかったのに、って笑えば白い目で睨まれた。
「いいから乗れ。こんなとこでいつまでも喋っててどうすんだよ」
「はーい」
そりゃそうだ。
でもこんなに喋ったのって初めてだからついついもっと喋りたくなってしまう乙女心。乙女じゃないけど。
メットを被りバイクにまたがるとエンジン音が身体に響いてくる。
バイクに乗るのは初めてでワクワクしながら夾の腹に腕を回す。
「行くぞ」
そして夾の言葉を合図にバイクは走り出した。
夾の住むところは学校からバイクで20分ほどのところだった。
二階建ての築何年なんだろなアパート。
敷地内の砂利の上にバイクを停め、降りる。
メットを外し夾に渡しながら外観を眺めた。見事なまでにぼろい。
「行くぞ」
夾がすぐそばの階段をのぼりはじめて後に続く。
錆びた鉄の階段はあるたびにミシミシ音を立てて心配になる。
「藤代、気をつけて」
つい言ってしまうと鼻で笑われた。
夾の部屋は二階の角部屋だった。
鍵を開け部屋に入る夾。俺は「おじゃましまーす」と足を踏み入れた。
玄関からすぐにトイレとバスルームらしきドアがあって、あとはワンルーム。
見た目すっごくボロだったけどリフォームされてるのかそこまで中はぼろぼろじゃなかった。もとは白い壁が黄ばんではいるけど。
1Kらしくてキッチンと硝子戸を挟んで8畳一間。
シングルのパイプベッドがひとつにテレビとテーブルと、パソコンラックとチェストと。床には雑誌が少し積み重なってて、ごくごく普通の男子高校生の部屋って感じだ。
「藤代って一人暮らしだったんだ」
「ああ」
「いつから?」
「一年の終わりくらいだな」
「へぇ」
「自炊とかすんの?」
「適当に」
硝子戸のところに立ったまま部屋の中を眺めていた俺に夾が冷蔵庫からコーラを取って渡してくれた。
礼を言ってそれを飲みつつ、ジャケットを脱ぐ夾へと視線を向ける。
ちゃんとハンガーにかけてネクタイを緩め、俺に視線が向けられる。
「座んねぇのか?」
「座る」
どこにすわろうかな~と、やっぱベッドの上に腰かけた。
夾はチェストの引き出しを開けてなにやら物色して、なにかベッドへと放り投げた。
「そんなのしかねぇな」
見ればハンドクリームだ。
夾でもハンドクリームとか使うんだ。いやでも全然減ってなさそうだし使ってないのかな。
というよりも。
俺は床に置いていた鞄からごそごそと一見夾が寄こしたハンドクリームと見た目変わらないチューブを取り出した。
「これ持ってきたよ」
夾が傍に来て俺が差し出したそのチューブを手にすると呆れたようにため息をついた。
「お前って」
「準備いいだろ?」
チューブの中身はアナル用ローションだ。
夾が持ってるかわからなかったから念のため。
もちろんゴムだって持って来てある。
「まぁ、な」
口角を上げた夾が手を伸ばし俺のネクタイを掴みあげる。
同時に腰を折って近づいてくる顔。
吐息が触れ合うほどの距離は昨日と同じ。
だけど、違うのは。
一瞬視線を絡ませ、そして視界が暗くなり、距離がゼロになったことだ。
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