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第16話
翌日、鼻歌混じりで学校への通学路を歩いていると前方に晄人とその彼女の陽菜ちゃんの姿があった。
「おはよう」
追いついて満面の笑顔を向ければ晄人は「うざい」と意味がわからない返し。
俺、おはようと言ってんのになんなんだろうね、こいつは。
それに対して可愛い陽菜ちゃんは「智紀くん、おはよう」と爽やかな笑顔をくれた。
「今日も寒いね。陽菜ちゃん、そのマフラー可愛い。新しく買ったの?」
この前までは濃紺のマフラーだった今日はベージュ系のチェックのに変わってる。
暖色系の優しい色合いが陽菜ちゃんによく似合っていた。
「う、うん」
少し照れたように嬉しそうに微笑む陽菜ちゃんに晄人に買ってもらったんだなって察する。
「すごく似合ってる。可愛い」
「ありがとう」
ちょっと大人しい雰囲気の陽菜ちゃんがマフラーに触れながらはにかむ姿は本当に可愛い。
「……うざい」
それなのにその彼氏は本当に可愛くないなぁ。
「智紀くん、いまお昼ってどこで食べてるの? 最近全然一緒に食べないね」
陽菜ちゃんが俺を見上げて首を傾げる。
「さびしい?」
同じように首をかしげて笑いかけると、えっ、と驚いたあと、う、うん、って頷く陽菜ちゃん。
素直だなぁ、可愛い可愛い。
「……うざい」
お前はそれしか言えないのか、晄人。
「実はさーいまちょっと秘密のお昼休み事件が起こっててね」
俺的には事件だ。
屋上から始まって、休憩所へと移ったこの二ヶ月ほど。俺にとってはかなり楽しい秘密の出来事。
「……秘密の……事件?」
陽菜ちゃんはポカンとして小さな口をあける。
それを見てつい笑ってしまいながら、
「悪いことじゃないよ。楽しいことだから心配しないでね。でもたまには食べたいね、また陽菜ちゃんと」
笑いかけると陽菜ちゃんは嬉しそうに頷いた。
「陽菜、コイツといちいち喋らなくていいぞ」
本当になんなんだろうね、晄人は。
友達がいのないやつ、なのに、陽菜ちゃんは顔を赤らめて俺に向けてたのとはまた違うとても女の子らしい微笑みを浮かべていた。
本当―――恋愛って。
「せいしゅーん」
だなぁ、と思ってる間にあっという間に昼休み。
気分が浮ついていたからか気づけばって感じだ。
4時間目終了のチャイムがなって、朝コンビニで買ってきたパンやらコーヒー牛乳やら入ったビニール袋持って休憩所へ向かう。
やばいなー俺のほっぺた壊れてんじゃないのかなーってくらいおそらくきっとニヤニヤしてる。
期待しすぎ?
そりゃするだろーよ。
と、休憩所に到着した。もちろん夾の姿はなくていつも通りソファに座るとパンを食べ始める。
今日はクリームパンとカレーパン。足りるかなー微妙なとこだけど、まあいっかってもそもそ口を動かす。
合間にコーヒー牛乳飲みながら、まだかなーまだかなーってそわそわしてしまう。
それから少しして、耳が微かな足音を拾った。
そしてドアが開く音。
入ってきたのはもちろん目当ての相手。
じーっとドアを見てたから、入ってきた途端に目があった。
熱ーく視線を向けてた俺に夾は一瞬眉を顰め窓際へと歩いて行った。
残り半分だったパンを口の中に詰め込んで咀嚼する。
夾はいつものように煙草を吸いだしていた。
飲み込もうとして喉に詰まりかけてコーヒー牛乳で流し込んで、俺は短い距離なのに夾の傍に駆け寄った。
「藤代!」
自然テンション高くなっててそれが声にも出てて、自分が笑える。
夾が俺の方を見て、俺はグッと親指を立てて見せた。
「ばっちり清算したよ」
そう言えば深いため息を紫煙とともに吐かれた。
「お前は猿か」
「高校生の性欲なんて猿みたいなもんでしょ」
即座に切りかえせば「そりゃそうだな」とほんの微かに煙草をくわえる夾の口元が緩んだ。
あー、これはヤバいな。
思いながら手を伸ばしてきっちり締められてはいない夾のネクタイを掴んだ。
昨日俺がされたように、今日は俺がそれを引っ張る。
「ここではヤらねぇぞ」
馬鹿が、とでも言われてるような眼差しを受けてニヤニヤしてしまう俺って本当に馬鹿かも。
「じゃあ俺の家来る?」
当然祖母や佐江さんがいるけど。
ラブホ行くっつっても制服だしなー。
「俺の家でいい」
「いいの?」
「ああ」
「よし! じゃあ行こう」
くいくい、とネクタイを引くと夾ははっきり眉を寄せた。
「お前、サボる気かよ」
「え、まさか藤代って皆勤賞狙ってる?」
「馬鹿か」
呆れたように鼻で笑い、夾が身を引く。俺の手からするりとネクタイが離れていった。
夾は煙草を消すと窓を閉めてドアのほうへと歩き出す。
「裏門に来い」
それだけ言って出ていく夾に俺も部屋を出る。鍵を閉めて夾を追い越して教室に向かった。
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