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プロローグ

『お前は支配する側の人間だろう?』  そう、俺に言う男がいる。  俺はそれを言われるたびに、思う。  俺を見下ろす位置から"支配する側"だとそそのかすアンタはなんなのだ、と。 *** 「智紀。生徒会長になったそうだね」 「みたいですね」 「一年で生徒会長なんてなかなかないことだろう?」  俺の通う学校は小中高大学と一貫している。とはいっても小学校は公立に通っていたから俺が今の学校に入学したのは中学からだ。   中学から高校に進級したのが今年の春。そして三か月たった7月、生徒会長になった。  夏休み明けから引き継ぎが始まり10月から生徒会長になる。 「そうですね。紘一さん以来では俺が初めてかな」  一年で生徒会長ということに前例がないわけじゃない。なかなかないことだろう、なんて飄々といっているこの人こそ一年で生徒会長になったんだし?  それに俺の通う学園の生徒会は中等部と高等部で連携して活動することもある。その流れでたまたま今回は一年生ではあるけど立候補することになったし、幸運にも当選することになった。 「おめでとう」 「どうも。アキは副会長ですよ」  アキ、というのは俺の親友で紘一さんの7歳下の弟。 「あいつは相変わらずだな。――智紀」  俺は自室ではなく、そのアキこと晄人の机で勉強をしていた。晄人はコンビニに行ってて、なぜかこのお兄様が偶然にも帰ってきた、というところだ。  とっくに家を出て一人暮らしをしているのに、なーんでこんなタイミングよく帰ってくるんだろ。 「ここ」  問題集を解いていた俺の背に重みが加わる。紘一さんが俺に覆いかぶさるようにし、俺が書いた答えのひとつを指さす。 「間違ってるぞ。ここの数式は――」  耳障りのいい低音が耳をくすぐる。妙にいい匂いがする。どこの香水なんだろう。  中学受験のとき短い期間だったけどこの人から勉強を教わったことがある。説明が上手で、発する言葉のリズムは自然と耳を傾ける響きを持っていて外面の良さを考えると教師も似合いそうだなと思ったっけ。でもやっぱりないな、とすぐ却下したけど。 「わかったか?」 「はい」  頷いても俺の背にある重みは変わらない。 「智紀」 「お前――」  シャーペンを動かし続けて問題を解いていっているとさっきよりも低くなった声が俺の名前を囁いて。  ドアが開く音が響いて同時にすぐそばにあった体温が離れていく。  「――来てたのか、兄貴」  コンビニから帰ってきた晄人がベッドに腰掛け俺がリクエストしてたミントガムを放り投げてくる。それをキャッチして早速食べる。 「少し時間が出来てね。お前の顔を見にきたら智紀がいたから、久しぶりに勉強を見てあげていたんだよ」  ガムを口の中に放り込みながらイスの背に体重を預け眺める兄弟の姿。  ベッドに寝転がる弟を見ている"兄"はいつもの完璧な笑顔。 「紘一さんの教え方はすごくわかりやすくて助かります」  笑みを返せば、柔らかな笑みで見下ろされた。 「じゃあ、俺は行くとするかな」  晄人がそれに対し気の無い返事をし、俺は俺で「また今度勉強見てくださいね」と"社交辞令"を言う。  もちろん、と頷き、紘一さんは部屋を出て行った。  あっという間に消えていく足音を聞きながら、ベッドへと視線を向ける。  コンビニで買ってきたらしい漫画をあおむけになって読んでいる。

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