2 / 25
2
「アキ」
「あ?」
「お前、タイミング悪いよ。それとも俺のことが心配で急いで帰ってきた?」
せーっかくお前のお兄様が、なにか面白いこと仕掛けてきそうだったのに。
「……あ?」
半目に馬鹿を見るような眼差しを送ってくる晄人にすっかり勉強をする気が失せてベッドに近づいていく。
「なー、アキくん」
「……」
「若さゆえか何故か俺いま勃っちゃってんだけど、慰めて?」
「シネ」
「言葉遣い悪いぞ、アキ」
晄人は漫画を読み続けていて俺の遊びに付き合ってくれる気はないらしい。でも気にせず晄人の上に跨ってみた。じろり、と睨まれて満面の笑みを送る。
「俺、攻め?」
「シネ」
「ツンデレだなぁ、アキは~」
そう言いながら晄人のズボンに手をかけ――たところで、再び部屋のドアが開く。
俺と晄人は視線を向け、
「「よぉ」」
と声をかけた。
唖然とした顔をして立ち尽くしてるのはもう一人の親友・浩輔。
「……お、お、お前ら、なにやってんだよ!!?」
「え、何ってナニ?」
「お前ら男同士だぞ!?」
「コウくんってばナニ想像してんの、ヤラシーなぁ」
「はっ!? トモ、てめぇ!」
「うっせぇ」
純粋素直で弄りがいのあるコウが顔を真っ赤にして俺と晄人を引き剥がすように割り込んでくるから、ニヤニヤしながらわざとコウに抱きついてやる。
「ぎゃー!」
「コウくんでも、イイよ?」
「はあ? アキ、助けろっ」
「うぜぇ」
ぎゃーぎゃーと叫んで笑って半ばプロレス技の掛け合いになりながら遊んで――そうしている俺の耳に、窓の外からあの男が乗るエンジン音が届いて、消えていくのを聞いていた。
晄人のおにーちゃん。俺より7歳年上の男。高校一年のガキの俺にはめっちゃ大人のひと。
いまは新社会人で松原グループの本社に在籍している。
ホテルやレストランを手広く経営する松原グループ。晄人と紘一さんはその松原グループの社長の孫だ。
そしてその社長と俺の祖父は旧知の中で、祖父もまた松原グループの重役。松原家と俺は家は昔から仲がよかった。
晄人は兄弟のようなものだし。
だから、その兄もまた――昔は兄のようにさえ思ってたっけ。昔、といったって小学生のころだから大した昔じゃないんだけど。
そのころの俺には紘一さんは"完璧"だった。
穏やかな物腰、誰に対しても絶やさない笑顔。
知識に長け、品のある雰囲気。
優しすぎるとも言われる7歳上の親友の兄。
でも俺は成長するにつれ、気づいた。
あの人は――最悪だ、と。
***
ともだちにシェアしよう!