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第1部 第1話

 基本的に特定は作らないようにしていた。  高二の時点で過去にいた彼女は二人。  中学と高一のときにひとりづつ。  まあ彼女“以外”を含めればその限りではないけど。  やっぱり若いとほら、欲求不満になりがちだし? たまには発散しないと。  でも、身近には手を出さない。他校か――だいたいは年上。  自意識過剰という訳でもなく、わりとモテるほうだった。  その中にごくまれに勇気ある“男”も含まれていて、俺が初めて“男”とシたのは高校二年の夏だった。 *** 「智紀先輩」  頬を染め俺を見上げるのは他校の一年生の篠原奏くん。  身長は俺より10cmほど引く、華奢な体つき。  まつげが長く、顔立ちは少し女の子っぽい。 『一目惚れしたんです。付き合ってくれませんか』  恥ずかしそうに、だが率直にされた告白。  大人しそうな雰囲気に――ほんの少し感じたのは“自信”のようなものだった。  同性相手への告白を怯むことなくしてくるんだからそれはすごいと思う。  それに自分の外見を理解し上手く活用しているのも感じた。  したたかさと、そして多分この子は“初めて”じゃないんだろうな、という直感。 『ごめんね。今は……』  誰とも付き合う気はない、と断った。  でも、それでも、と“泣きそうな表情を作る”奏くんに付き合いはしないが友達としてならと頷いたのは気まぐれだった。 「先輩。アイスコーヒーでよかったですか?」  そうして奏くんと出会って二週間後、俺はいま奏くんの部屋にいる。 「うん。いいよ、ありがとう」  笑顔を向ければ恥ずかしそうにはにかむ姿。  両親が旅行で不在だという奏くんの家に招かれたのは真夏に出歩くより冷房が効いた室内のほうがいいだろうという理由だった。 「美味しい」  俺はなにもいれていないアイスコーヒー。  奏くんはミルクたっぷり。  よかった、と頬を染めて奏くんはちらちらと俺の様子を伺う。  ――俺、食べられちゃいそう。  そんな視線をひしひし感じながら借りてきたDVDを見る。  恋愛ものの映画は女の子が好きそうなロマンティックなシンデレラストーリー。  キスシーンでは奏くんからの視線を強く感じて、内心苦笑してたら袖を引っ張られた。  本当女の子みたいな男の子だな。 「……先輩」 「なに?」 「……この映画みたいに僕と先輩が結ばれるってことあります?」  なかなかの直球。  この前返事したけど、結局はまたそう来る――のは仕方ないか。 「ごめんね。俺、いま付き合う気がないんだ」  好きじゃないし、ね。  だから直球で返せば、奏くんは俯いて黙った。  だけどほんの数秒で顔を上げじっと俺を見つめてくる。 「でも、好きなんです」  本当に?  笑いそうになるのを堪えて、「そっか」とうそぶく。  先輩、と"思い詰めた様子で"奏くんが俺にしがみついてきた。  とりあえずそのまま押し倒されてみた。 「男同士なんて気持ち悪いですか?」 「そんなことは思わないよ」 「……だったら」  カラダだけでも、と小さい声が落ちてくる。  高一だよなぁ。最近ってこんなもん?  自分のことは置いといてそんなこと思いながら、この据え膳をどうしようかと奏くんを眺めた。  潤んだ目と緊張しているかのように薄く開いた唇がエロくさい。  顔立ちは幼い可愛いのに、男同士の経験はすでにあるんだろうし、  対して俺は"男"との経験はないと思われてるんだろうし。  まぁ実際そうだけど。  緊張している風を装いながらも積極的に行為に持ち込もうとするあたりやっぱ自信あるのかな?  女の子なら晄人だったら「一回だけだからな」なーんてあっさり食うんだろうな。  予測と言うより確信しながら、いまは新しい彼女とラブラブな親友を思い出して――奏くんの頬に触れた。  そういや最近ヤってないし、それに新しいドアオープンしてみるのもいいのか。  なんて適当に結論だして、その身体を引き寄せて唇を重ねた。

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