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第1話

小学生の頃の夢は、『女の子と結婚して、子どもを作って、幸せな家族になること』。 ―――あんな奴と同じ過ちは、絶対犯さない。 そう、思っていた。 「悠亜(ゆうあ)」 不意に名前を呼ばれ、悠亜は目を覚ました。 急な覚醒に頭が追いついていかず、眉間に皺を寄せながらボンヤリと目の前の顔を睨む。 「変な顔」 フッとその顔が笑った。 猫のような目尻が柔らかく垂れる。 よく見知ったその表情に、今度こそ悠亜の頭は覚醒しガバッと起き上がるとゴツンと互いの額が当たった。 「っいっっってぇ … っ」 「~~~っっ」 相手は床にしゃがみ込んで、悠亜はベッドの上で、赤くなった額を各自の手で押さえる。 「バカ悠亜っ、急に起き上がるなよ!!」 「 … うるせぇ … っ、お前が勝手に部屋入ってんのがいけないんだろうが … っ」 「はぁ?夕飯出来たから、わざわざ起こしてやったのに。唐揚げ、悠亜の分も全部食っちゃうからな!」 「ぐ、…分かったよ、悪かった。亜南(あなん)」 大好きな唐揚げを人質に取られ、悠亜は仕方なく、2つ下の弟・亜南へ素直に謝った。すると、亜南はニヤリと笑い、「よろしい。」とわざとらしく声を太くしながら言って立ち上がった。弟の勝ち誇ったような行動にイラッとして亜南と違い垂れている目尻を上げるも溜息を吐いて怒りを吐き出し、ゴシゴシと目を擦ってから自らも立ち上がろうとした瞬間、悠亜の頬に亜南の指が触れた。 高校に入って以前よりも少し骨張って大きくなった感触に、一瞬、腰が震えるような感覚を覚えて悠亜は思わずその手を弾いた。 「っ、な … なんだよ … っ」 「 … え?いや、睫毛付いてたから … 」 キョトンとする弟の顔に、いたたまれない気持ちになり視線を逸らす。 「 … 自分で取る…。制服着替えてから行くから、先行ってろ」 「…はーい」 「変なの。」と言いながら部屋を出ていった亜南の背を見送り、胸元のワイシャツを片手でぎゅっと握る。 「……ちがう」 一人になった部屋で悠亜は呟いた。 怯えたような弱々しい声音で、ただ自らの身体に覚えた感覚を拒絶し続けた。

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