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第2話
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「おい、水木(みずき)。ほんとにこれでいいのか?」
「はい」
悠亜の提出した進路希望調査票を見ながら、担任で学年主任でもある大谷が太い眉をこれでもかと顔の真ん中に集めた。小さくてやや筋肉質なずんぐりむっくりの体型とその顔に、最近テレビで見たオークという生物とよく似ているなと、職員室の片隅で悠亜は思った。
「ん~…なんかご家庭に事情でもできたのか?お前なら国公立、余裕だろうに。もったいないというかな…」
オークが唸る。
4月に提出した希望と全く違うことが書いてあるせいだ。第一希望から第三希望まで国公立大学名を記入していたが、夏休み直前の今、第一志望には『国家一般職(高卒)』と書かれていた。
「いえ、色々自分で考えた結果です」
担任とは正反対に変わらない無表情で、冷静に答える。
しかし、その言葉に引っかかりを覚えた大谷が椅子の上に座ったまま体を乗り出して説教を始めた。
「もしかして、保護者とはちゃんと話してないのか?こういうのはお前一人で考えることじゃないんだから、きちんと…」
「はやく自立したいんです」
大谷の言葉を遮るように、少し強めに悠亜が言葉を放った。普段優等生の悠亜が見せたきつめの態度に、一瞬戸惑ったように大谷は身じろぐも小さく息を吐いてから悠亜の肩に手を置いた。
「…分かった。お前はお前でしっかり考えてるんだろう、決めたんならそれで頑張れ。けど、保護者には伝えときなさい。あと、相談したいことが出たら、先生も力になるからな。いつでも相談しに来なさい」
「分かりました」
やはり変わらぬ表情でぺこりと頭を下げ、悠亜はそのまま職員室を出て行った。ふぅ、と大谷が椅子の背もたれに身を預けると今年度赴任してきたばかりの女性の英語教諭が、「どうぞ。」とチョコを机の上に置いた。
「あの子って1年の水木亜南の兄ですよね?全然、顔も性格も似てないんですねぇ」
「そうなんですよ。けど、正真正銘、実の兄弟です。兄は対人関係、弟はもうちょっと勉強頑張ってもらいたいんですけどね」
「ふふ、そうなんですね。亜南くんはたしかに愛嬌があるけど、この前の期末で英語で赤点取ってました。そういえば、お兄ちゃんの方は模試で、全部の希望大学がA判定だったんでしたっけ?だから、気にされているんですか?国家公務員もいい夢かと思いますけど」
「ああ…、それもあるんですけどね。あいつん家は、ちょっと複雑でしてね。両親がいないんですよ。なんでも早くに両親が離婚して、その後、母親が自殺して、二人して親戚ん家で暮らしてるんですよね」
大谷の言葉に、英語教諭の顔がみるみる萎んでいく。
「だから、急に希望変えてきて……色々我慢してんじゃないかと思いましてね」
大谷もまた深い溜息をつきながら表情を曇らせ、悠亜の出て行った扉を見つめ心配そうに呟いた。
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