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第3話
余計なお世話だ、と悠亜は思った。
担任からの呼び出しのため、少しだけ遅くなった帰路を足早に歩いて行く。
夏本番に向けた暑い日差しが夕方にもかかわらず肌を焼いて、更に気持ちを苛立たせた。
(別にもともと勉強したいことなんてないし、良い仕事に就くために大学行こうと思っただけだ。俺が大学へ行こうが、仕事をしようが関係ねぇだろっ)
(はやく家を出て、仕事して、結婚して … )
(それで …… )
亜南の顔が浮かぶ。
昨日触れられた頬が一瞬、チリッと疼いた。
(ちがう … っ)
パチンっと左手で強めに頬を打った。
小気味良い音がしたが、商店街で人が賑う時間帯のせいか誰も悠亜を気にせず通り過ぎていく。
(俺は『あいつ』とは違う。 だから、これも違うんだ)
小さな疼きが消えて、ジンジンと痛む頬を摩りながら悠亜は自分に言い聞かせる。
不意に尻ポケットに入れていたスマフォが鳴った。ビクッと悠亜の肩が震える。
SNS の通知を知らせる音だ。
確認すると、『亜南』の名前に悠亜の目が見開いた。
まるで見透かされているようなタイミングでごくりと喉を鳴らすが、内容は些細なことだった。
『夕飯いらない。友達と食べて帰るから』
(なんだ、びっくりした)
ホッと安堵の息を吐きつつ食事を二人分作らなくていいことに、悠亜はラッキーと思った。今日は悠亜が夕飯係だった。母が死んでから母の叔母に引き取られたが、独身貴族でキャリアウーマンであったため、家にいることはほとんどない。そのため、一軒家に兄弟で二人暮らしをしている状態だった。
ハンバーガーでも買って済ませようとファストフード店のある方向へ歩いて行くと、ふと目の先に見知った後ろ姿を見つけた。
陽が当たると僅かに茶色に見える短髪に、黒の通学リュックを背負い、少し細身でまだブレザーの制服に着られている感のある姿。
先程連絡がきた亜南だ。
同じファストフード店に行くのかと思い進路を変更しようとするも、亜南の隣にいる男が随分と年上の男だと気づいて立ち止まった。
少し白髪の交じった長めの髪を後ろで一本に縛り、ポロシャツにジーパンというラフな格好をした男。どう見ても自分たちとは 30 以上も年が離れているように見える。他には一緒にいる人物が見られないから、あの男が亜南の送ってきた『友達』なのか。しかし、そんなに年が離れた友達ができるとは考えがたく、眉間に皺が寄っていく。
(あいつ、なにやってんだ … ?)
亜南が易々と騙されるほどお人好しな性格ではないと思ってはいるが、自分と違い物事を深く考えない性格ではある。
さすがに心配になって、気づかれないように亜南と男の後をついていった。声をかけようか悩んでいると、目の前を自転車が割り込んできて進路を塞がれる。もう少しでぶつかりそうな危ない運転にチッと舌打ちをして自転車を睨み付けるもののハッとして前へ視線を戻すが、悠亜は二人の姿を見失っていた。
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