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第4話
モヤモヤとした心持ちで帰った時には、肝心のハンバーガーを買うのを忘れていた。
作る気にもなれずカップラーメンで適当に夕飯を終え、自室の机で受験勉強をしている内に悠亜は居眠りをしてしまった。
『悠亜』
頬を優しく撫でられながら、柔らかな声音で名前を呼ばれる。フワフワと心地よい感覚に自然と口元が緩む。
猫のような目尻が、自分を見ていとおしそうに笑っていた。
堪らない気持ちになって、悠亜は触れてきている手に擦り寄り、小さく相手の名前を甘い声で呼んだ。
「…なん」
「悠亜?」
クリアな声に、ハッと悠亜は目を覚ました。
「あ、起きた」
「っ、…っ」
目の前に亜南がいた。
しかし、それで言葉を失ったのではない。
( 俺…、今…なんて夢、見て・・・ )
自分の見た夢が信じられなかった。
そして、自分の言った言葉が。
「大丈夫?」
「っ・・・だ、いじょう・・・」
夢と同じ顔が心配そうに自分を見てくる。
どうにか答えようにも、喉が乾いて仕方ない。
「悠亜って・・・俺のこと好きなの?」
「っ!?」
「さっき、俺の名前言ってたよね?」
サァっと頭から血が下がる音がした。
思いがけない言葉に、更に混乱する頭で相手を見ると視線が自分の股間に向いているのが分かった。悠亜も視線を下にすると、ズボンの前が僅かに膨らんでいるのに気づいた。
慌てて手を前にして隠すが、もう既に遅い。
そして、羞恥心よりも、自分が『何で』そうなってしまったのかに思い至って、絶望的な気持ちの方が強かった。
言葉が紡げずにワナワナと唇を震わせていると、不意に亜南の手が悠亜の手を握った。
「昨日も言ってた」
「っ!…っ…っ」
「ねぇ、俺も悠亜のこと、好きだよ」
「………、……は?」
悠亜の瞳が戸惑いに揺れる。
これはなんだ、夢の続きなのかとさえ、悠亜は思った。
しかし、手を握るそれはしっかりと熱を帯びていた。
「俺も好き。もし、悠亜がしたいならキスとか、エッチなこともできるよ?」
「な、なに言って…っ」
「俺、調べたんだ。そしたら、男同士でもできるんだって。だから、悠亜…、俺…」
「っっ!!離せっっ!!」
力任せに亜南の手を振り払う。
「なに言ってんだ、お前!!男同士とかきもちわりぃんだよ!」
「悠…っ」
「俺はお前のこと、好きじゃないっっ!!」
腹の底から沸き上がる怒りに呑み込まれ、激情のまま、悠亜は怒鳴った。
普段、飄々としている亜南の顔が歪んでいく。
「俺は…っ、ちがう…。ちがう」
歪んだのは、自分の涙のせいだった。
ポタリと溢れる。
怒りの底にある、どうしようもない不安が涙を溢れさせた。
「…悠亜、っ」
亜南の指が、心配そうに伸びてくる。けれど、悠亜はその手を再度振り払った。
そのまま力任せに部屋から押し出す。
「出てけっっ!!二度と俺の部屋に入るなっっ!!」
鍵をかけると部屋に入れない亜南が、悠亜の名を連呼しながらドアを叩く。
その音を聞いていたくなくて、悠亜はベッドに潜り込んだ。
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