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第1話 俺と彼氏 < Side鞍崎

 化粧品会社の販売促進マーケティング事業部、通称“販促マーケ”で働く俺、鞍崎 大希(くらさき たいき)には、彼氏がいる。  同じ化粧品会社で働く4つ下の後輩の営業マン、網野 育久(あみの いくひさ)だ。  入社2年で、次々と新規顧客を開拓した優秀な人材。  190センチ近い身長に、程よくついた筋肉がスタイルの良さを物語る。  少し長めのダークブラウンの髪や、垂れた目許、第一印象はチャラいの一言。  コミュニケーション力は化け物級で、必殺技はキラースマイル。  俺はといえば、コミュ障気味な性格がネックとなり、入社1年で営業から販促マーケへと異動させられた。  見た目も、真っ黒なツーブロックで遊び心のない髪に、なんの変哲もないありふれた銀縁メガネ。  出来る男というよりは、真面目で堅物な雰囲気だ。  真逆にいるような俺たちが、恋人同士という関係なのが、未だに不思議でならない。  好きだという感情があったって、それが普通じゃないことを知っていたから。  同性への恋愛感情など、受け入れてもらえないと思っていたから。  俺の気持ちは、ずっと胸の中で眠り続けるのだと思っていた。  たまたま、試供品の口紅を自分の唇で試し、落とし忘れた。  人の些細な変化にも目敏い網野は、俺の唇がいつもと違うコトに気付く。  そして、キス…された。  ま、最終的には酔っ払った網野がぶっちゃけたんだけど。  網野も俺を好きだった。  所謂、両片想いという関係だった。  …付き合っているはずの俺たち。  だけど、なんら進展はない。  この3ヶ月、デートらしきコトはしているが、キスから先には進んでいない……。  キスを除けば、なんともプラトニックな関係だ。  明日、会社に行けば会えるし、話も出来る。  わかっているけど、無性に声が聞きたくなり、スマートフォンを手に取った。

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