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愛妻家のつくる朝食 1

今週に入ってからずっと、舌の先が痛い。 食べる時、しゃべる時、地味にキリリと痛みが走る。 栄養が足りていないのかも、なんて思いビタミン剤を摂っているけれど、 こんな状態が続くなんて、23歳という年齢に反して体は若くないということ? 免疫力とか、自然治癒力が落ちているのかな。 週末の夜は決まって、あの子がこの部屋にやってくる。 それなのに、俺の舌にはまだ痛みが残っている。 約束の時間は20時。 8分ほど過ぎたところでドアフォンが鳴った。 あの子は紅茶。 俺はコーヒー。 2人とも砂糖はいらない。 「隣に座っても、いい?」 と聞くあの子に「もちろん。おいで」とソファの隣に座らせる。 「外は寒かったよ。夜中から、雪が降るみたい」 「そうなんだ」と返しながら、頭の中ではまったく違うことを考えていた。 この子の締まった体を、両腕でぎゅっと抱きしめたい……。 そんな衝動に駆られるけれど、今は、それはしない。 その代わりに、というわけじゃないけれど、隣に座ったあの子の前髪に右手で触れる。 その指の動きに合わせて、あの子が目を伏せる。 そのしぐさがあまりにも自然で愛おしいのと、これから起こることが待ち遠しくて、ふふんと意味ありげな笑いを抑えることができなかった。 「どうしたの?」 「いや、きみが『会えて嬉しい』って顔をしてるから」 「それは……。けど、その通りだよ。会いたかったから」 さっきまでの表情とは違い、あの子が恥ずかしそうな顔をして両手に持ったカップの中の紅茶を見つめる。 「今日は、部活はあったの?」 「もちろん。だから、まだ汗が残ってるかもしれない」 この子の、裸の上半身に汗がつたう姿を脳裏に描きながら、 「構わないよ」 と、手を取った。 いつもだったら身長差の分だけ上を向くことになるあの子が、 今はソファに腰かけた俺の膝にまたがり、俺を見下ろしている。 その姿勢のまま、両手で俺の頬をやさしくはさみ、 「『舌が痛くてキスできない』って書いてあったけど、本当?」 と聞く。あぁ、昨夜そんなメールを送ったんだ、そういえば。 「うん。まだ少し痛いんだ」 「じゃあ、治してあげる。舌を出して」 そう、あの子が言い、俺は舌を差しのばした。 可愛いあの子は俺の首に両腕を回し、痛む舌の先に自分の舌でやさしく触れてくれた。 そうして、愛おしいものに頬ずりでもするように、自分の舌で俺の舌を撫でさすり、包みこむようにして何度も舐めてくれた。 こういうことをする俺たちは、愛し合っているんだなぁと思うんだけど。 どうかな? 額と額をコツンとぶつけ、あの子が小さく笑いながら、 「魔法をかけたから、すぐに痛くなくなるよ…」 と言う。そうして、今度は甘えるような表情で唇を近づけてきたあの子が、目を閉じて俺の唇を自分の唇で割って舌を伸ばし入れてくる。 顔と首をしなやかに動かし、時々向きを変えながら、舌を動かし続けるあの子の頬が、徐々に色に染まり、艶を帯びていくのに俺は見とれていた。 口を開けて、あの子の甘い舌を受け入れたまま。 唇の端からつややかな蜜のような唾液が零れ落ちても、それでも俺の唇をひとかけらも残すことなく、すべて口の中に入れてしまおうとするみたいに、あの子は唇を動かし続ける。 「……ん、」と、ぞくっとするようなイイ声があの子の唇の端から漏れ聞こえてくる。 長い長いキスが終わり、生々しい色っぽさのようなものを目じりににじませたあの子が、俺を見下ろす。そして、首を少し傾けながら甘い声で、 「……まだ、だめ?」 と聞く。だめじゃない。どころか、その瞬間が訪れるのをずっと待っていた。 俺はyesを伝えるために首を横に振った。 俺はもうとっくにこの子を抱く準備はできている。 シーツに沈み込んだあの子の柔らかい肌に触れながら、鎖骨のあたりに小さな傷痕のような赤い色が残っているのに目がとまった。 <誰……?> と、喉まで声が出かかったけれど、やめた。 けど、それもあの子にはわかっていた。 「なに?」 と、尋ねる声が少しかすれている。 「……あ、ここの赤い痕は、……俺?」 「そうだよ。だって俺、先輩以外とは……しないから」 あぁ。そうだ。 前にも、こんなやりとりをした憶えがある。 その時にも確か、この子は言ったんだ。 『俺には、あなたしかいないから』と。 「……じゃあ、もっと痕をつけてもいい?」 「いいよ、つけて。見えないところだったらいいから……」 そうして、あの子の胸に強く唇を押し当て、吸いつき、 いくつも赤い痕をつけている時に、ふと気づいた。 「そういえばもう舌、治ったみたい。痛くないよ」 「魔法がきいたんだね。じゃあ、もっと………」 あの子の体に、どれだけ舌を這わせても、 俺の舌はもうキリリと痛むことはなかった。 魔法をかけてくれたお礼に、 明日の朝起きたら、この子が大好きな朝食を作ってあげよう。 End

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