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第1話

「いらっしゃいませ。」 「こんばんは、いつもの珈琲を一つ。」 「分かりました。今準備しますので少々お待ちください。」 「こちらですよね。いつもお疲れ様です。」 「ああ、ありがとう。」 たった5文のやり取り、だけど僕には至福の一時だ。名前も知らない彼はいつも18時にカフェ✼Amaryllis✼にやって来て珈琲を一杯だけ頼む。 それを窓際の席で静かに飲んで「ご馳走様」と帰っていく。 結構な常連さんなのにカウンターでお喋りをしていくことも、おかわりをすることもなく。淡々と、でも一杯をきちんと味わって飲んで去っていく姿に一目惚れしてしまったんだ。 名前はなんて言うんだろう。歳は?仕事は何をしているんだろう。聞きたいことは沢山あるけれど、彼の静かな時間を邪魔してはいけない気がして聞けていない。友人の三木はさっさと聞いてしまえと言うけれど、いきなり声をかけて質問をぶつけたりなんかしたら変なやつだと思われないか不安だ。 今日も代金を置いて去っていく後ろ姿を見送った。 「かっこいいなぁ…。」 この時間はそんなに人が居ないから、カウンターの中で小さく呟く位ならバレないだろう。あの人のカップを洗ってしまうのが惜しいなんてちょっと変態ぽくて嫌だな。 「そろそろ片付けようかな。」 カフェ✼Amaryllis✼は夜になるとBAR・Queen of the moonに早替わりする。BARの方は叔父さんのお店だから僕は19時までにカフェの方の店じまいをすれば一日の仕事は終了だ。 カウンターの中を片付け、店内を軽く掃除する。もう暫くすれば叔父さんが来るだろうからバトンタッチ。 いつも通り、変わらない日常。 それくらいが僕には相応しいんだ。

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