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第4話

「さっきは災難でしたね」  ロッカールームを出たところで同僚に声をかけられて目をしばたくと、彼はすこし困ったような顔でつづけた。 「おれが出てくとよけい厄介なことになったと思うんで」 「わたしの仕事の件ですから」  撥ねつけるような言い方をしたわたしにも、彼は表情をかえずにつづけた。 「それはそうなんですが。おれのいたとこじゃ、夢使いのひとにあんな言い方するなんて有り得ないんですよ。その……」  あんなふうに扱われる存在ではないと、そう言ってくれているのだと察した。彼の故郷では、闇を祓うものとして夢使いが未だに尊敬されているのだろう。 その一言にささくれた気分は払拭され、自分が独り勝手に被害者意識に押し潰されていたと察したが、そのことには触れず、わたしは気になったことだけ聞き返した。 「どちらにお住まいでしたか?」 「ずっと北の外れの小さな町です」 「北の夢使いは優秀な方が多いと聞いています」 「あなたは?」  自分が優秀かどうかは正直よくわからない。 「試してみますか?」  彼の切れ長の瞳が大きくなって、わたしは慌てた。その驚きによって、今の質問は出身地を尋ねられたのだと察したが、もう遅かった。自意識過剰だと思われたに違いない。じっさいその通りなのだろうが、今まで自分から「営業」したことがないというのにこれはどうしたことだろう。押し付けがましい奴だと思われるのは避けたいものだ。どうにかして今の言葉を撤回できないかと考えたとき、彼のことばが耳をうった。 「おれの家、来ますか?」  昔ながらの慣習によれば、それが正しい方法だ。けれど。 「すみませんが、今日は無理です」  夢秤の調整を怠ったまま、家を出てしまった。無理をすればできなくはないが、そんなことはしたくない。わたしがさらに説明をしようと口を開くと、彼が形のいい頭をふってこたえた。 「その、謝るようなことじゃなくて、いきなり誘ってこっちこそすみません。おれのほうは、いつでもいいんです。あ、お互い夜のシフトんときは駄目でしょうけど。まあ、その、ええと、おれはあなたのことが気になるってことで」  いつも冷静な彼らしくないしどろもどろの言葉に首をかしげると、彼がため息をついてから顔をあげて笑った。 「すみません。はっきり言わないと、あなたみたいなひとには通じないですね。たぶんあなたはおれが『夢使い』を嫌ってると思ってたでしょうけど、そうじゃなくて、おれはあなたが好きだから、たとえ何もなくとも、あなたが依頼人と一夜をすごすのがつらいんですよ。そんなのおかしいってわかってるんですが、でも、ダメなんです。それでわかったんですが、おれはあなたが好きなんだなあって」 

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