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第5話
「だ……め、だめ……あ、そ……こ……っ」
「ここが、いいのか?」
グエンダルがにやりと笑う顔が、見えるようだ。実際は彼の顔を見るどころではなく、ただ身を反らせて、全身を走る奇妙な感覚から逃げようと試みることしかできない。
「ふふっ……いいのだな。このように、私の手に擦りつけてきて」
「そ、んな……こと。して、ない、っ」
啓介は声を張りあげたけれど、それは掠れた喘ぎにしかならなかった。グエンダルはなおも指を器用にうごめかせ、啓介の欲に直接刺激を与えてくる。彼の指はリズミカルに動き、それは意図してのことなのか、そうではないのか。その動きはよけいに啓介を煽り、体の芯が再びすっかり熱くなるまでに、大して時間はかからなかった。
「あ、あ……あ、あっ……!」
「ほら……ふふふ……すっかり、硬くなっている」
喜ばしいことを口にするように、グエンダルは言う。そのような淫らな言葉、普段に聞かされれば啓介は耐えられずに逃げているだろう。それなのに今の啓介は、逃げるどころか身動きもできず、翻弄されるままにただただ体を暴かれている。
「こちらも……こちらも、だな」
「ん、あ……あ、んっ……」
グエンダルの指は、欲望がはちきれそうになっている竿のみならず、蜜嚢にまで触れてきた。そこを指先で突かれるだけで、つま先が痛いほどに大きくしなる。
「や、あ……あ、ああっ!」
「なんだ……このようなところまで硬くして」
侮るようにそう言いながら、グエンダルの指は何度も蜜嚢に触れてきた。形を確かめるように指を這わせ、そのままそこを手のひらで包むと、捏ねるように刺激を与えてくる。同時に、握りつぶされるのではないかという恐怖が啓介の全身に走った。
「っあ……っ、だ……やだ……っ」
「怯えることはない……おまえを疎かにすることは、しないよ」
そんな啓介の心を見抜いているかのように、グエンダルは優しい口調で言った。
「おまえは、私の餌だからな。死なれては困る」
「あ……」
グエンダルが魔王だろうがなんだろうが、とりあえず殺されることはないらしい。それに安堵していいものかはわからないけれど、本能的に感じた恐怖は払拭された。
「おまえが、もっと甘いものを出せば」
「ん、んっ、ん、んっ!」
「ますます、懸念することはないな。おまえは私の求めるがままに、応じればいい」
そう言って、グエンダルはきゅっと蜜嚢を包み込んだ。ゆっくりと、まるで壊れものに触れるかのように力を入れる。同時に張り詰めた竿もなぞられた。かりりと爪を立てられ、啓介はひくりと反応する。それを愉しむように、彼は何度も硬くなっている雄を引っ掻いてきた。
「あ、ん……ん、んっ……っ」
それはあまりに直接的な刺激で、啓介は大きく目を見開く。溢れる声は掠れて縺れて、ときおり甲高く響いている。まるで恋鳴きの猫のもののようで、とても自分のあげている声とは思えないが、しかしグエンダルは悦んでいるらしい。彼の低い笑い声が絡んでくる。その声が啓介の嬌声に混ざって、ますます淫靡な音色を奏でていた。
「だ、め……もう、だめ……!」
「出すか?」
どこか楽しげに、グエンダルは言った。
「いいぞ……出せ。すべて飲み干してやる」
「や……あ、あ……、ん、っ」
まさにそれを待っているのであろう、グエンダルの言葉を否定しようとした。
「や、っ……出、さ……な、い……っ……」
啓介は激しく首を振った。するときらきらしたしずくが目の前を飛ぶ。いつの間にか啓介は泣いていて、涙が散って宙を舞ったのだ。
「ふっ……まるで、処女のようだな」
「……は、っ……?」
グエンダルの言ったことが聞き取れなくて、啓介は思わず声をあげた。しかし彼は、少し口もとを歪めるだけの笑みを見せる。そのままゆっくりと艶めかしい唇を開くと、張り詰めきった啓介の欲望を挟み、咥えた。
「ん、ん……ん、んっ……!」
先ほどもこうされたけれど、グエンダルの言うとおり啓介は今にも爆発しそうな欲望を持て余している。彼の唇、触れる歯、舐めあげる舌。それらは不規則に啓介を刺激し、たちまち限界まで追いあげる。
「あ、あ……あ、ああっ……ん、ん……っ!」
「いい声だな」
はっ、とグエンダルは熱い息を吐いた。それにすら感じてしまう。伝わってくる声に、グエンダルも感じているのかもしれないと思った。
「は、あ……っ、ん、んっ……っあ、あ、ああっ」
どうしても抑えられない声に、グエンダルの浅い呼気が絡まった。彼は啓介の、血管の浮いた欲望を咥えている。彼は唇と歯を使って扱き、舌を絡ませてさらに追い立てた。
あまりにも容赦なく性感を揺さぶられて五感を失いかけている啓介は、それでも涙で潤んだ瞳に映る、グエンダルの相貌をぼんやりと捉えている。
「っ、は……は……っ……ん、んっ」
こうやって啓介を容赦なく攻め立てて、そのうえで余裕の言葉を吐くグエンダルは、さぞ冷静な顔をしているのだろうと思った。餌と呼ぶ啓介の精液にしか興味がないのだから、こうやって攻めるのも餌のため、だから性感など彼には無縁だと思っていたのに。
「……っ……ん、っ……」
掠れた声が、啓介の耳に届く。自分の嬌声ではないと、啓介は思わず目をみはった。啓介の陰茎に舌を絡ませ、先端を軽く咬んでは舐め、その間も繰り返し幹の部分を扱いている彼は、微かに頬を赤くしている。その金色の目は濡れて光って、頬の紅潮と相まってあまりにも淫靡だ。
「ん、あ……あ、あ……ん、んっ、あ!」
そうやってグエンダルは、啓介の体に夢中になっている様子を隠さない。クールで高圧的な男だと思っていたのに、その前に人間ではない彼は、啓介の想像など及ばない個性を持っているのかもしれない。
取り憑かれたように舌を使うグエンダルは、ちらりと視線をあげて啓介を見る。満足そうに目を細め、一瞬その表情はまるで子供のように見えた。
(こんな……あり得ないことするやつ、なのに……)
そんな彼の様子に、啓介の警戒心は少しばかり緩んでしまったのかもしれない。思わぬ姿に、性感を追いあげられてしまったのかもしれない。啓介は意図せず、大きな声をあげてしまった。しかもそれは、自分で想像したこともない色めいた声だ。
「あ……っ、ん、んっ……!」
「いい声だな」
嬉しそうに笑ったグエンダルは蛇のような舌を出して、その先端で雁の部分をくすぐった。さらに抉るようにする。もうこれ以上は感じられないと思ったのに、そこからは新たな痺れが生まれて、すでに限界を迎えている啓介を苛んだ。
「だめ……も、っ……で、る……!」
「出せ」
それでもその声は冷静に、まるでなにも感じていないかのように響いた。彼の言葉は、限界を迎える啓介の体の深い部分にまで沁み込む。
「何度でも……私が満足するまでな」
「あ、あ……っ……ん、んっ……!」
続けざまに、はっ、と大きな息が洩れた。啓介の体は大きく強張って、指先さえも自由にならない。自分の意思はどこに行ったのかもわからず、目の前が塗りつぶされて真っ白になった。
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