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第4話

「ふあ……っ……あ、ああっ……」  なおもグエンダルは啓介の口の粘膜を攻め立てた。彼の舌は、まるでそれ単独で生きているものであるかのように小刻みにうごめく。それを深くまで突き込まれ、咽喉に続く部分をも舐められて軽く嘔吐いたけれど、なぜかそれさえも快感になってしまう。 「や、あ……だ……、こ、んな……の……」  啓介は精いっぱい抵抗したが、グエンダルはなおも笑うばかりだ。口の端から、生温いしたたりが溢れる。啓介は何度もおぼつかない呼吸をして、そうしなければ息を止められていたかもしれない。グエンダルは、そういった人間の常識には少々疎いと見える。 「は、あ……あ……っ、ああっ!」  グエンダルに舌の表面を舐められると、つま先にまでに大きな痺れが走った。先ほどまでのような感覚ではない、あまりにも大きな衝動に啓介は瞠目し、同時に下半身がひくひくと震えた。 「……あ、あ……っ……」 「ふふ……」  熱い呼気が啓介の唇を濡らす。グエンダルが体を起こすと彼の体温が遠のいて、それを無性にさみしく思った。 「達ったか?」 「は、あ……?」  思わず頓狂な声をあげてしまった。グエンダルが眉根を寄せる。 「ここ……反応しただろう。ほら」 「あ、ああっ!」  グエンダルの大きな手が啓介の下肢にすべった。ジーンズ越しの欲望に触れられて、どきりと大きく胸が鳴る。今までグエンダルに執拗に触れられて、体を走る感覚に翻弄されるがままだった。それが性感であったこと、いつの間にか自身が反応していて、自らの体もコントロールできない子供のように射精していたなんて。 「っ……あ、や……だ……」 「なんだ?」  啓介は唇を震わせた。グエンダルを睨もうとして、しかし視界が濁っていることに気がつく。 「う、う……っ……」 「どうした。ものが言えなくなったのか」  グエンダルは、啓介の反応の意味がわからないようだ。それに改めて、彼が人間ではないことを理解した。 「まぁ……おまえを許しがたいのは、勘弁してやろう」 「は、あっ?」  見知らぬ男、しかも人外の彼に追いあげられて射精してしまった。性に初心な子供でもあるまいに、ジーンズを汚してしまった。せりあがる自己嫌悪に苛まれる啓介に、グエンダルは目を細めてみせた。 「このように、餌を無駄にするとは……」 「え、さ……?」  その言葉は先ほども聞いた。それでいてグエンダルがなにを言っているのかわからない啓介は、何度もまばたきをするくらいしかできない。 「そうだ、ほら……ここ」 「ん、んっ!」  グエンダルは遠慮なく啓介の股間に触れた。放ったばかりの自身がひくりと反応する。 「しかし……まだ、出せるだろう?」 「な……に、を……?」  彼の言うことはわからないことだらけだが、このたびだけははっきりとわかった。啓介は、ごくりと唾を呑む。 「なにを、と。わからせてほしいのか?」 「い、や! 結構です、いりません!」  啓介はそう言い放って、グエンダルの下から逃げようとする。しかし彼は見た目より重くて、同時にその逞しい腕が啓介の肩を押さえている。逃れることはできなかった。 「なにをもがいている」  呆れたように、グエンダルは言った。 「なにか、不都合でもあるのか」 「ふ、つごう、だらけだっ!」  せめてもと、大声をあげて抵抗した。しかしグエンダルにはまったくこたえていないらしく、彼は少しばかり不機嫌そうな顔をしただけだ。 「そうか……」  グエンダルが自分の唇を舐めた。その仕草が妙に艶めかしくて、啓介は思わず目をみはった。 「しかしおまえの都合など、私は知らぬ」 「な、ら、聞くな!」  裏切られたような気分で啓介は両腕を振りまわす。暴れる啓介にグエンダルは笑って、そのまま腰に手を伸ばしてきた。 「ひ、あ!」  直接肌に触れられて、意図せず妙な声があがってしまう。彼は何度か腰まわりを撫でて、そのたびに嬌声を立てる啓介など知らぬといったふうにジーンズの縁に指をかけた。 「や、だ……っ!」 「ふん」  抵抗する啓介をひとつ嘲笑っただけで、グエンダルは慣れた様子でジーンズを脱がせる。鮮やかな手つきで下着まで取り払われて、啓介は妙に感心してしまった。 (魔界にも、ジーンズとかあるのかな……?)  しかしそのようなことを考えられたのも、少しの間だけだった。裸にされた啓介の下半身は、みっともなく汚れている。自身は力なく半勃ちで、淫毛までもが精液に濡れていた。そんな自分の姿に啓介は眉を寄せたが、グエンダルはどこか嬉しそうに笑うのだ。 「甘い匂いがする」 「え、っ……?」  なにが、と啓介は目を見開く。グエンダルは唇に笑みを浮かべたまま、体をずらした。先ほどまで啓介の唇を貪っていた口を開いて赤い舌を出し、それを脱がされてしまった下半身に這わせてくる。 「う、あ……あ、ああっ!」 「しかし……この程度では足りんな」  啓介の下腹部を汚している白濁液を、グエンダルはぺろりと舐めた。その様子はまるで、飢えていた猫が与えられたミルクを舐めるかのようで、啓介は悲鳴をあげた。 「あの……言ってた、餌、って」  震える声で啓介がそう言うと、舌を出したままのグエンダルは、目だけをあげて啓介を見た。 「なんだ?」 「あ、の……餌って、言ってたでしょう?」  どうしても咽喉がわなないてしまうのを止められない。啓介は懸命に声を絞り出した。 「それって……あの」 「おまえの精液だ」  なんでもないことのように、グエンダルは言った。しかしそれを聞かされた啓介は、今まで記憶にないほどに驚いてしまった。 「な、な……なん、で……せっ、精液、が……?」 「なにを驚いている」  グエンダルは金色の目を細め、顔をしかめて啓介を見ている。 「餌だと言っただろうが。私は、魔界に帰らねばならぬ」 「そ、それは勝手にしてください!」  思わず啓介は声をあげた。自分の声が引きつっている。 「でっ、でも! せ、精液舐めるとか!」 「なにか、おかしいか?」  逆にグエンダルは、理解できないというように首を傾げた。そのまま彼は、啓介の雄を舐めあげる。それは、ひくっと反応した。同時に啓介の体内には官能的な痺れが走り、思わず妙な声が出る。 「あ、は……っ……っ」  グエンダルが、ごくりと咽喉を鳴らした。そのまま彼は長い指を啓介自身に絡ませて、ぺちゃぺちゃと音を立てながら扱く。半ば力を失いかけていた欲望は、その刺激を受けて自分でも驚くほどに力を得た。 「や、あ……っ、っ……う、ううっ」 「なかなかに、色っぽい声が出るではないか」  悦びをにじませた声で、グエンダルは言う。くすくすと咽喉を鳴らして笑いながら、なおも啓介を高め続けた。 「よい……もっと聞かせろ……私を、もっと悦ばせろ」 「そ、んなの……い、や……っ……」  それでも啓介は、グエンダルのもとから逃げるのを諦めたわけではない。四肢を暴れさせて、少しでも隙を突こうとしている。しかしだんだん力が抜けてきたのは確かだ。直接に欲望をいじられていては当然だが、それでもこの先を許すわけにはいかない。これ以上、どれほどひどい目に遭わされるかわかったものではない――今でも充分、ひどい目に遭っているけれど。 「あっ、あ……あ、ああっ」  根もとから先端まで、グエンダルは指で輪を作って啓介の自身を捉え、そのまま何度も上下させる。そこは最初に触れられたときよりも、敏感になっていた。 (こ、んなの……)  まるでグエンダルが、そこになにかおかしな薬でも塗り込んでいるかのようだ。それは啓介の、ただの想像だったけれど、しかし実際にそうなのかもしれない。なにしろグエンダルは、魔界からやってきた魔王なのだ。  実のところ、それはいったいなんであるのか。啓介は判断しかねている。それでも異様な存在であることは違いなく、そして啓介は不本意ながらもすっかり彼に翻弄されている。 「やっ、や……あ、あ……っ……!」  欲望の先端が、ぬるりとしたものに触れられた。ちゅくちゅくと色めいた音が立って、そこからぴりぴりと、全身に伝わる痛いほどの快楽がある。

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