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第8話 ふたりの未来

 興奮した司は、まるで動物が盛るように首を噛む。背後から挿入されたまま股間を握られこすり上げられた。 「んん。ふ……っ」 「今はまだ慣れていなから気持ち悪いだろうけど、毎日してるうちに、よくなってくるから。それに、前ではイケるよな?」  すっかり勃ちあがり充血したものの雁首を撫でるようにして、ゆるい刺激が加えられる。 「あ、出る……っ」  志郎が生温かいものを放出すると同時に、司が前後運動を開始した。  昨日まで探し続けていた兄の一部が、志郎と混ざっている。それは鉱石のように硬く秘所を掻き回し、振動が訪れる。そのたびに志郎は呻いた。 「う、んんっ」 (揺さぶられている。……体の中に、司がいる)  耳元で司が声を送り込む。 「志郎、好きだ。お前が大事だから苦労させたくなかったんだ。だけど、お前が俺といたいならずっと一緒だ」 「つ、かさ……」  ストロークがどんどん加速する。尻孔と司の性器がこすれ、気持ち悪いだけではないなにかを感じ始めた頃、司が避妊具越しに果てた。  ことが終わると、やはり全身がだるかった。それに、布団に飛び散った精液が腹について気持ち悪い。 「今日はどこで寝るんだ? あと、風呂とかあるのか?」 「風呂は共同だけど、一階にあるよ。敷き布団が汚れちゃったからなぁ。今から開いてる店もないし、掛け布団と座布団で雑魚寝(ざこね)だな」 「座布団あるんだ!」  パッと見た感じでは分からなかったが、この汚い部屋のどこかに隠されているのだろう。 「ほら」  ゴミの層を掘って出てきた座布団二つを受け取る。それらを並べると、なにか笑いを取りたくなり、二つ指を揃えてお辞儀をしてやった。 「ふつつかな弟ですが、よろしくお願いします」  正面にいた司がブッと噴き出したので、成功したと思えて笑顔になる。  司が羨ましくて、妬んだこともあった。置き去りにされて悲しくて、涙をこぼしそうになったこともあった。  だが、それも今日までだ。  やっとあの家から抜け出し、愛情という重荷に殺されることなく兄と二人きりで暮らせるのだ。 「さっきも言っただろ。幸せにするって」 「……だな。二人で幸せになろう」  もう兄を恨んだりしない。  これからは、たったひとりの家族になるのだから。 【了】

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