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第1話
『雨谷 ちゃん起きてる?』
そんなメッセージが夜中に届けば、それの意図することは一つ。
嘘をつこうかほんの少しだけ考えて、結局素直に「起きてる」とだけ返す。目の前の仕事はちょうど一区切りついたところで、急ぐ締め切りも今はない。
なにより近々またお世話になるだろう相手を邪険に扱うのはどうかと思うし、そういう約束でお互いうまいことをやっているのだから今回は誘いに乗ろう。
そんなことを考えている間に相手は行動を起こしていたらしく、インターホンが鳴った。だから俺はパソコン用の眼鏡を外し、そのまま直に玄関に向かう。
「や。夜分遅くに悪いね」
案の定ドアを開けたそこには階下の住人が片手を上げて立っていた。
およそ普通の会社員としてはやっていけなさそうな金髪は色が落ちかけで根元が黒い。元はいいはずなのにどこかチャラい、わかりやすいバンドマンな格好をしている安曇 さんは俺の一つ年上で下の階に住んでいる。
「どうせ起きてましたし」
「だよね。雨谷ちゃん夜型だから」
勝手知ったる様子で家に上がり、俺の手を取ってそのまま寝室へ向かう。鼻歌を歌っている辺りかなり上機嫌のようだ。
「で、今日は?」
「いやーそれがめちゃくちゃいい曲ができてさ! 興奮したら昂っちゃって、これは雨谷ちゃんと分かち合わなければ、と」
「……ま、この時間じゃ他に誰も起きてませんしね」
安曇さんは俺と違って社交的というか顔が広くて色んな知り合いがいるだろうから、探せば相手はいくらでもいるんだろう。だけどこのくらいの時間に、すぐに、という条件にあてはめるとさすがに誰でもいいというものでもない。いくらこの人が変わった人でも、だ。
「ってことでちょっと体貸してね。治めないと寝られない」
「まあ気持ちはわかりますけど」
甘ったるいあれこれが必要のない間柄ゆえに話は早い
服を脱ぐのも待たずに、安曇さんはローションを使って手早く慣らすと早々に中に入り込んできた。
ヒートの時とは違い勝手には濡れない体だから、早急な行為は少しきつい。それでも揺さぶるように奥に入り込まれれば、慣れてしまった体はそれを受け入れる。
「んっ……」
小さく洩れる声は、残念ながら喘ぐというほど色っぽいものではない。押し込まれ、揺さぶられる勢いで洩れるだけのただの反射だ。
そんな風に、無機物よりかはマシだろうという程度の反応しかできない俺相手に滾りをぶつける安曇さんは、いつも通りの俺の反応に軽く笑った。
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