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第1話 ヴォルグの靴

小さな妖精は人懐っこい顔をして 何時も笑っていた 名もなき妖精は皇帝閻魔の家に住みついていた 遥か昔 魔界には妖精が沢山棲んでいた 木々に…… 花に…… 樹木の葉の雫に…… 妖精が住んでいた 七色に輝く妖精が楽しそうに何時も飛んで 魔界に色を着けて妖精達は棲んでいた 家に棲みつく妖精もいた 妖精と魔族は仲良く共存していた 天魔戦争が起こる日までは…… 天魔戦争が勃発すると…… 穏やかな魔界は一変となり戦場と化した 妖精の棲む木々は闘いの果てに折れ、枯れ果て‥‥妖精が棲める世界でなくなり 妖精は魔界から姿を消した 家は倒壊して…… 多くの妖精や魔族が死滅した そんな闘いの中の…… 出来事だった 名もなき妖精は閻魔の邸宅に棲み着いた 木々の重厚感が気に入り棲み着いた 閻魔の邸宅は皇帝閻魔自ら張った結界が張り巡らされていた その中はとても静寂で居心地良かった 閻魔の邸宅の誰もが…… 名もなき妖精の存在に気付かない だが、皇帝閻魔だけは…… 名もなき妖精の姿が見えていた 小さな体に由緒正しき妖精の服を身にまとった名もなき妖精は素足だった 立派な帽子に燕尾服に似た服を着てるのに…… その足は素足だった 「お前、名前は?」 皇帝閻魔は小さき者に尋ねた 「名前はない……親を知らぬからなオイラには名前がない」 「名前がないと不便だな 私はどうやって君の名を呼べば良いのだい?」 小さき妖精は困った顔をした 「では私が名前がやろう! ヴォルグ……と謂う名はどうだ? 気に入ってくれると嬉しいぞ!」 「ヴォルグ? それってオイラの名前か?」 「そうだ」 「気に入った…えんまありがとう…」 ヴォルグは泣いて喜んだ 皇帝閻魔はヴォルグに靴を作ってやりたかった 素足の足は…… 何時も寒そうだったから…… 「えんま、オイラえんまの事大好きだぞ」 足元に纏わり付きヴォルグが笑う 皇帝閻魔はヴォルグを持ち上げると掌に乗せた 「ヴォルグ、私も大好きですよ」 皇帝閻魔はそう言いヴォルグに暖かいシチューを差し出した 「食べなさい」 「オイラ 食べなくても大丈夫なんだぞ?」 「私の食事に付き合いなさい」 皇帝閻魔は笑っていた 「なら付き合ってやるよ」 偉そうな物言いだが憎めない そんな妖精だった 皇帝閻魔はヴォルグの八重歯を突っ突いた ヴォルグはスプーンを咥えて皇帝閻魔を見た 「あんだよ?えんま」 「いや……この八重歯……鋭そうなので……」 「………噛まないよ…… 血も吸わないよ……」 ヴォルグは哀しそうな顔をして訴えた 「誰もそんな事想わないよ」 ヴォルグは皇帝閻魔の手に抱き着いた 「えんま……オイラ……ずっとえんまといたい」 ヴォルグがそう言うと…… 皇帝閻魔は哀しそうな……困った顔をした 「………私は……近いうちに冥府に逝かねばならぬのだ……」 「………オイラも……オイラも連れてって……」 ヴォルグは泣きながら皇帝閻魔に訴えた 連れて逝ってやりたい気持ちは大きい 自分が去った後…… ヴォルグはまた誰にも気付かれずに過ごさねばならないのだから…… だけど……妖精が冥府に逝ける筈などない…… 皇帝閻魔は崑崙山の八仙に相談した 「ヴォルグと言う妖精です 一緒に連れて逝こうと想うのだが……」 八仙はヴォルグを見た 「………皇帝閻魔……無理に御座います 冥府に入った瞬間……消滅してしまいます」 皇帝閻魔はヴォルグを見た 「………ヴォルグ……ごめんな…… 私はお前を消滅させたくないのだ‥‥」 ごめんな 皇帝閻魔は謝った ヴォルグは泣いていた 「ヴォルグ……私は冥府に逝く事は決まっているのだ 私が冥府に逝けば‥‥この無益な闘いは終わりを告げると謂われた 私は‥‥この無益な闘いを終わらせたいのだ 私が冥府に逝ったとしても……この無益な争いは千年は続くが……必ず終わると謂われた お前達妖精は魔界から姿を消し…… 魔界は……逝く道を失うだろう…… だが……魔界は再建する 魔族はそんなに弱くはない…… 私はそう信じている…… 神の意志に従って私は冥府へと渡る…… ヴオルグ……そちは連れては逝けぬ……」 「嘘つき!……ずっと一緒だと約束したのに……」 「ヴォルグ……すまぬ……」 「………ずっと……ずっと………一人だった…… 誰も……見つけてくれなかった…… 妖精の仲間も……消えて……いなくなった…… 皇帝閻魔……オイラも連れて逝っておくれよ 消滅してもいい……」 「ヴォルグ……それでも生きて欲しいと想うのは…… 酷なのか?………」 「皇帝閻魔……もう一人は嫌だ……」 ヴォルグは泣いていた 皇帝閻魔も泣いていた 連れて逝きたい思いはある だが……冥府に入った瞬間…… ヴォルグは消滅してしまうと言うのなら…… 魔界で生きていて欲しいと想う…… 皇帝閻魔が冥府に渡る日まで…… ヴォルグは皇帝閻魔から離れなかった 何時も一緒だった 「ヴォルグ……その寒そうな足に靴を作ってやりたかった……」 「えんま……オイラ……靴なんか要らない……」 「ごめんな……ずっといてやれなくて……」 「………えんま……ずっと……ずっと……一緒にいたかった……」 「お前の魂が……消滅する時……私の元においで……」 「えんま……そしたら……ずっといる?」 「ええ……ずっといましょう」 「やくそく?」 「ええ、約束です」 ヴォルグは泣いて…泣いて……… 泣き疲れて……眠りに落ちた 皇帝閻魔はヴォルグに口吻けを落とすと…… その場を離れた 玄関には天照大神と健御雷神が待ち構えていた 「皇帝閻魔……」 健御雷神は泣いていた 「この屋敷の事は頼みますよ」 「はい!……皇帝閻魔……我も一緒に……逝きたかった」 「健御雷神…君が魔界を先導して逝きなさい」 「嫌です」 駄々をこねる亭主を天照大神は抱き締めた 「………貴方に心酔している者です お側にいたいと想うのは当たり前ではないか…」 天照大神が言うと素戔嗚尊が皇帝閻魔の足元に跪いた 「皇帝閻魔……貴方をなくして……この魔界は光を失います……」 「神が定めた事です…… 素戔嗚尊、天魔戦争を終結して下さい…… これ以上……無益な争いをしないで下さい」 「………皇帝閻魔……」 八仙が迎えに来て、皇帝閻魔は共に旅立った 心残りは…… 残して逝かねばならぬ魔界と…… 小さき者…ヴォルグの事だった だが…どちらも……どうにもならなかった 皇帝閻魔は冥府へと渡り…… 冥府の王 ハデスの血肉を継承して…… 事実上の冥府の王となった 青い地球(ほし)の誕生の瞬間 神々が集まり創造神に呼び出され配置された 神は皇帝閻魔のした事を総て理解して “愚かよな……我が愛しき子よ……” と嘆いた 「私は貴方の愛しき子にはなれませんでした‥ 私は‥‥‥貴方の逆鱗を買ったとしても‥‥ 愛する者を手放したくはなかった‥‥」 “傀儡は制御を知らねば暴走する…… その体躯に……魂が宿らぬ限り……  その者は……何も感じぬ傀儡にしかならぬ” 「傀儡では御座いません 我が子です……私の魂の半分を受け継いだ我が子で御座います!」 “ならば……我は何も言わぬ……  だが……この子は今は預かろう 何時かお前が冥府に渡る時 この子を返してやろう だが暴走して制御出来ぬ時は‥‥  その時は……お前が何を言おうと……  殲滅するしかない……覚えておくがよい” 創造神はそう言い我が愛する子を連れて行ってしまった‥‥ 声が消えても……皇帝閻魔は立ち尽くしていた 「………貴方は何も知らない…… 愛する者を亡くした…哀れな男の想いなど知らないじゃないですか… 愛する妻も我が子も‥‥‥我が弟も‥‥ 今の私にはなにもない‥‥‥ないじゃありませんか……」 創造神よ 貴方が望むなら、と、我は貴方の意のまま働いて来た 数々の星を誕生させ 消滅させ この青い地球(ほし)を誕生させた なのにあなたは‥‥‥‥ 私の愛する子を‥‥奪うのですか‥‥ 愛する子に逢えるのは魔界での仕事を終えた後‥‥ なれば精一杯 ‥‥あなたの意のまま役務を終えて見せましょう! そんな想いで生きて来た そしてやっと魔界での役務を終える 愛する我が子を返して貰えると謂うのに‥‥‥ 魔界を後にするって事は‥‥ ヴォルグと二度と逢えぬ場所に逝く事になるのだ 皇帝閻魔は胸を痛めていた 我が子に会いたい想いは強い 早世した皇帝閻魔の弟……皇帝炎帝の様な存在になって欲しいと‥‥ 皇帝閻魔は弟の亡骸を我が子に与えた 愛するモノを受け継がせたくて‥‥‥ 作り上げた傀儡 それが皇帝炎帝だった 皇帝炎帝は誕生して直ぐに発火して燃えた 幾日も幾日も燃えて…… 皇帝閻魔は皇帝炎帝を諦めた ………が、諦めた頃に……火は鎮火して…… 「我が名は皇帝炎帝!」と名乗った 皇帝閻魔は我が子を強く抱き締めた 「炎帝……」 炎帝の瞳には何も映し出されてはいなかった 血肉を分け与えて創った皇帝炎帝には魂がなかった 暴走するだけ暴走して…… 何時しか破壊神と呼ばれる様になった 皇帝閻魔は胸を痛めていた 愛する我が子よ…… お前を生み出したのは間違いだったのか? 誰よりも愛されて早世した我が弟……皇帝炎帝よ‥‥我が子を導いてやってくれ! お前をこの世に生み出したのは我だ お前が逝く時…… 我も逝こう…… お前と共に……逝こう 皇帝閻魔は家具を決めた 魔界と天界との闘いは続いていた 皇帝閻魔が予言した通り、皇帝閻魔が冥府に渡っても1000年は続いた 終わらない無益な闘い 傷つけ合って……何が残ると言うのか? そんな頃闘いは大詰めを迎えていた 堕天使ルシファーが神の審判が下された日 消滅する魂よりも早く 素戔嗚尊は自らの剣でルシファーの格を斬りつけて……飛ばした ルシファーは消滅した その亡骸を素戔嗚尊が手厚く葬った 「我が主と認めた人よ…… 貴方は誰よりも美しく凜と輝いていた…… どうか……安らかに……眠って下さい」 睡蓮の泉にルシファーの亡骸を沈めた 魔界は……堕天使ルシファーを失って…… 多くの同族を亡くした それでも……終結せぬ戦いに……疲れ果てていた 転輪聖王が「冥府の破壊神を呼ぼう……」と提案した 絶対的な存在を呼んで……天界に知らしめよう…… 魔界には冥府にいた絶対的な存在がいる…… そしたら天界も迂闊に手出しはしまい そんな思惑で……冥府から皇帝炎帝を呼ぶつもりだった 儀式が行われた日 冥府の皇帝炎帝は総てを把握していた 「親父殿……オレは魔界に呼び出されてやるつもりだ」 「………炎帝……」 「オレは……どっち道傀儡になるしかねぇからな…… 親父殿をこれ以上……苦しめるつもりはない」 空っぽの皇帝炎帝を誰よりも悲しく見てたのは… 皇帝閻魔だった 「オレは早世した親父殿の弟の様にはなれねぇ…」 「………我は誰よりも……お前を愛している…… 我の総てだ……皇帝炎帝…それでも逝くと言うのか?」 「逝く……呼び出されてやるつもりだ……」 息子の覚悟は固く、皇帝閻魔は諦めた 「炎帝……魔界に逝ったなら……閻魔の邸宅にヴォルグと言う妖精がいる筈だ ヴォルグに靴を……与えてやってくれないか?」 「ヴォルグ……魔界に妖精がいたのかよ?」 「最期の存在だ……もう魔界に妖精はおらぬ……」 「解った……親父殿の代わりに靴を作ってやるよ」 「……皇帝炎帝……我は誰よりもお前を愛している…… お前は我の総てだ……それだけは……忘れないでくれ…」 「………解ってる……解ってる親父殿 でもオレは……親父殿を苦しめるしかねぇ存在でいたくねぇんだよ……少し……距離を取るのも良いだろ?」 「………何時でもお前を視ている…… その瞳は皇帝閻魔の瞳…… 総てを見通せる皇帝閻魔の瞳… お前の脊髄は我の一部から出来ている…… そしてお前は……皇帝炎帝の骨格で出来ている…… 妻と我が子の血肉を浴び‥‥ 私の総てとなった我が息子……皇帝炎帝だ……」 「オレは多分……何処へ行っても嫌われ者の傀儡にしかならねぇ……」 「……そんな事を言うな……」 「親父殿……オレは‥‥あなたを悲しませたくはない だから逝く……オレを必要とする場所に…… オレは行こうと想う……」 そう言い皇帝炎帝は消えて逝った 魔界の神々に呼び出されて……生まれたのが炎帝だった 神々の血肉を分け与えられ……伊耶那岐 伊耶那美の骨を受け継ぎ創られし傀儡 炎帝の誕生だった 炎帝は生まれて直ぐに喋った 赤子の成長は早く、3日で赤子から幼児に成長して行った その後は……何年経っても子供の姿のままだった 炎帝は閻魔の邸宅を歩いた むやみやたらに歩いて探した ヴォルグと言う妖精を探した 中々見付からなくて……諦めかけた時 炎帝はやっとヴォルグを見つけた 「よぉ!お前、ヴォルグって言うんだろ?」 「……え?お前見えるのか?」 ヴォルグはそう言い炎帝に抱き着いた 「懐かしい匂いがする……えんま……えんまだ」 「親父殿がヴォルグを教えてくれた」 「………えんま……元気だった?」 「あぁ、元気だぞ」 「良かった……」 ヴォルグは胸をなで下ろした 「炎帝って言うんだ」 「えんてー?」 「えんてい……字は…こう書く…」 炎帝はヴォルグに字を教えてやった 暇があるとヴォルグと過ごした 物語を語り 魔界の話をしてやった 「魔界から妖精が消えた…… だが……再び妖精が住める魔界にしてやるからな」 「ほんと?オイラ……一人じゃなくなる?」 「あぁ……待ってろ…… 魔界は変わる 妖精が飛び交い、自然に恵まれ豊かな世界を創ってやる お前が泣かなくて良い世界を創ってやる」 一人で耐えて泣いて来た妖精に…… 炎帝は約束してやった 一人で…… 誰にも見えず過ごした 炎帝は八仙に頼んでヴォルグの靴を作ってもらった ヴォルグの足跡をペタッと押して足の形を取った 八仙は炎帝から託された足形を手掛かりに足の形を造った それを元に職人に靴を作らせた 出来上がった靴をヴォルグの前に差し出すとヴォルグは瞳を輝かせた 「これ……何?」 「お前の靴だ…… その足……寒そうだからな」 「寒くなんかないよ」 「それでもな……素足でいるのは見てる方が寒いんだ お前の靴だ……ヴォルグ、履いてみろ」 皇帝閻魔がずっと履かせてやりたいと想っていた靴だった 素足が寒くてね…… 私はヴォルグに靴を作ってやりたかった…… だが……あの頃の魔界には…… 靴一つ作る余裕なんてなかった…… だから……お前がヴォルグに逢ったなら…… 靴を作ってあげておくれ 皇帝閻魔が炎帝に託した思いだった ヴォルグは靴を履いた 少し胸を張って偉そうに履いて見せた 「炎帝……どうだ?」 寒そうな足に…… 立派な靴があった 炎帝は冥府にいる父を想った 親父殿……ヴォルグに靴…… ちゃんと履かせといたからな…… 閻魔の邸宅に棲み着いた妖精 ヴォルグとは炎帝が人の世に堕ちるまで共にいた 『ごめんな……ヴォルグ』 人の世に堕ちた炎帝が夢の中に出て来た 「炎帝……」 『お別れも言わず……ごめんな……』 青龍に抱かれて……その足で青龍の霊峰へ向かい天馬を眠らせて……女神の泉に向かった ヴォルグに…… 別れを言ってなかった 誰よりも…… 一人になるのが嫌だと泣いたのに…… また独りにせねばならなかった 『ヴォルグ……』 『ヴォルグ……』 炎帝の声がする 炎帝……オイラ…… ずっと待ってる 炎帝が魔界に戻る日を…… 自分の体躯が透けて逝くのを…… 日々感じていた ヴォルグは手を見た その手は透けて……床が見えた 妖精は最期が近付くと透けて逝く 透けて…… 何時か……消えてなくなる その日が近いのをヴォルグは感じていた 炎帝が魔界に戻るまで…… その想いだけで…… ヴォルグは消えずに……いたのかも知れない 「……炎帝……炎帝……逢いたいよぉ……」 口に出せば…… 涙が溢れて来る 「………えんま……えんま……逢いたいよぉ……」 大きな体躯に抱き着くと何時も 大きな手で抱き上げてくれた 「えんま…」 名前を呼ぶと…… 何時も撫でてくれた 優しく笑って『ヴォルグ』と名前を呼んでくれた えんま…… えんま…… オイラ……忘れてないよ えんまの事……忘れてないよ…… 逢いたいよぉ…… この魂が消える時…… 逢えるんだよね……えんま もうじき……消えるんだねオイラ…… えんま…… えんま…… オイラを連れに来てくれよ…… ヴォルグはそれしか望んでいなかった 閻魔の邸宅を歩く 使用人はヴォルグに気付かない 今の閻魔も…… 誰も…… ヴォルグは見えない…… 長い月日が流れた 炎帝が魔界から消えて…… 長い……長い……月日が流れた もう意識も朦朧としてきた 何時消えるのか……解らない ヴォルグは空気に消えて溶けそうな……気配を感じていた 皇帝閻魔と約束した この命が消えてなくなる時…… 迎えに来てくれるって…… だから消えてなくなるのも……怖くなんかない 消えそうな自分を……繋いでいた炎帝の魂と切れた 炎帝は自分の魂とヴォルグを繋いだ 自分が冥府に還る時、連れて逝ってやるからな そう約束してヴォルグの魂と繋いだ だが……炎帝の命が……消えかかって…… ヴォルグと繋いだ魂が消えた 炎帝は人の世で死んだのか…… 魔界に還って来るのかな? ヴォルグは人の優しさに焦がれていた‥‥ そんな想いをしているヴォルグの元に 炎帝が魔界に還って来た 炎帝…… 炎帝…… 逢いたかったよぉ…… ヴォルグは魔界に炎帝の気配が感じられて…… 物凄く嬉しかった 炎帝……逢いたいよぉ…… 耐えていた淋しさが堰を切って溢れ出す 逢いたい 炎帝に逢いたい…… そう想っていた だが中々炎帝には逢えなかった オイラの時間はそんなにないのに…… 炎帝は魔界の面倒ごとを片付ける為に、閻魔の邸宅の方には帰って来なかった その代わり…… 炎帝の匂いがする小さいのが目の前を歩いていた 慎一は子ども達と閻魔の邸宅の探検に出ていた 怖がる子に……屋敷は怖くないよと教えるために慎一が考え出した苦肉の策だった 流生が「ちんいち……でにゃい?」と尋ねる 「出ないよ!大丈夫だからね!」 そう言い歩く 翔が「にゃんか……いりゅ!」と叫んだ 「いないから大丈夫だよ」 言い聞かせて歩く 音弥が「……くりゅにゃ!」と叫んだ 「何も来てま………すね…… 誰ですか?君は……」 慎一は足を止めた 小さな子が……ヴォルグを見ていた 翔が指先でツンツン突っ突いた 流生が笑いながら頬ずりした 「りゅーちゃ」 流生は自己紹介した 「おとたん!」 音弥も小さき者に自己紹介した 遠巻きにしていた太陽と大空を近寄ってきて ヴォルグに話し掛けた その子たちから…… 炎帝の匂いがした ヴォルグは驚いた瞳で……子ども達を見た 「………みえるのか?」 「あい!にゃまえ!」 音弥は「あい!」と答えて名前を聞いた 「ヴォルグ……ぁ…しまった……真名を言っちまった!」 ヴォルグと言った奴は慌てた 「ぼーりゅ?」 翔は問い掛けた 「われ!誰がボールだ! ヴォルグと言ったやんけ!」 ヴォルグは怒った 流生は「ぼーりゅ!りゅーちゃ!」と手を握った 慎一は「危ない生き物かも知れません…… 触れてはいけません!」と取り成した それが腹が立って 「オイラはこの屋敷に住み着いてる妖精じゃ!」と叫んだ 慎一は「妖精?」とヴォルグを見た 「………嘘はいけません! 君はどう見ても悪魔でしょ?」 と言ってのけた 「腹立つ!どうして悪魔なんだよ! オイラは由緒正しき魔界最期の妖精だ!」 「……君の姿形は悪魔と呼ばれる類だと思ったので………悪気はありません容赦を!」 「お前……人だろ?何故俺が見える……」 「俺は人ですが炎帝に仕える者です」 「………炎帝……皇帝炎帝か?」 「そうです。」 「なれば……炎帝を血を交わしてるのか?」 「はい!」 「お前は炎帝の与し者なれば…… そこの人の子は……何故オイラが視える?」 「………君は……この屋敷の者には視えないのですか?」 「そうだ!オイラを視える奴なんか……もういない……」 ヴォルグは哀しそうに……言った 「この子達は炎帝の子です 血は繋がってはおりませんが…… 紛う事なき炎帝の子なのです」 「炎帝の子……そうか…… 炎帝は……元気であられるのか?」 「還られたら逢われると良い」 「………もう……忘れてるかもな……」 ヴォルグは哀しそうに言った 慎一はベシッとヴォルグを叩いた 「炎帝が傍に置いた者を忘れる訳がありません! 覚えてるに決まってるでしょ!」 と怒った ヴォルグは人間って………こぇーって想った いや……炎帝に仕えるから怖いのか…… ヴォルグは慎一を見上げていると、慎一は床にしゃがみ込んだ 目線を同じにして話し掛けてくれる…… そんな所は……炎帝と同じだな…… と想った 皇帝閻魔に着いて冥府に逝くつもりだった…… だが……冥府に渡るだけの力は……残っていなかった このまま朽ち果てて…… なくなると想っていた………その時 炎帝がヴォルグに話しかけて来た 『お前……親父殿に着いて冥府に逝く筈じゃなかったのかよ?』 小さな子供が話し掛けてきた 今の翔達の様に小さな炎帝だった 『………お前は?』 名前を聞こうとすると殴られた 死にかけの妖精を……殴り飛ばした 『人の名前を聞くなら、ますは自分が名乗れ!』 そう言い怒られた 『ヴォルグ!』 名乗ると炎帝はニカッと笑ってヴォルグを撫でてくれた 『オレの名は炎帝 冥府の皇帝閻魔の息子だ 今は……魔界に呼び出されてやったからな…… ただの炎帝だ』 『………冥府を捨てたのか?』 『………冥府でオレは……異端者なんたよ 親父殿はオレを苦しそうに見るんだ… オレの存在が親父殿を苦しめるなら…… オレは魔界に呼び出されてやろうと想った…… だからオレはお前を冥府には還してやれない……』 炎帝の瞳は……哀しそうだった 『炎帝……お前といて良いか?』 『良いぞ!オレが冥府に還る時に連れ帰ってやろう!』 そう言いニカッと笑った炎帝が…… 皇帝閻魔に似ていたから…… 閻魔の邸宅に居着いた あの日から……長い年月が経った ヴォルグの命の灯火も……消えかかっていた そんな時に炎帝の子に逢うなんて…… 皮肉な運命は何処まで逝っても皮肉だった 慎一はヴォルグが時々消えかかっているのに気付いた 「………お前……透けてる?」 「オイラの…命は……炎帝が繋げただけだ…… 人の世で炎帝は死にかかったろ? オイラに繋いだ……命は……消えかかってしまったんだ……」 「………ヴォルグ……お前……消えたらどうなる?」 「消えたら……何もなくなる…… オイラを覚えている奴もいないからな…… 元よりオイラはいない奴も同然だけどな…… それでも何もかも跡形もなく消えてなくなる……のは……哀しい…… オイラと同じ妖精は……魔界から総て消えた…… オイラは……誰にも知られる事なく消えてなくなる……」 慎一は泣きながら 「消えなくて良い方法はないのか!」 と叫んだ 「………寿命なんだよ…… 消えたら……えんまの傍に行きたいな……」 「生きていれば良いじゃないか!」 「………慎一………ありがとう…… 最後の日に……みんなに逢えて……よかった」 「そんな事……言うな!」 慎一が言うと子ども達もヴォルグに抱き着いた 「慎一……この子……魔界で力発動した?」 ヴォルグは音弥の頬を撫でていた 「………解るのか?」 「人の容姿で本来の力を発動してしまった人間は…… 膜に覆われて視える この子に……オイラの命をあげようか? そしたら……この子は……オイラを媒介してコントロール出来る様になる……」 「ヴォルグ……それはだめだ! そんな事したらお前が消えてしまう!」 「………元々消える命なんだよ 何故……この日まで生き延びてるか解らなかったけど…… オイラ……炎帝の役に立って逝ける為だったんだ……」 「ヴォルグ……そんな事を言うな! そんな事しても炎帝は喜ばない!」 「慎一、消滅して消えてしまうより…… 炎帝の為になって逝きたいんだよ 解るだろ?炎帝に仕えてる君ならば…」 「………ヴォルグ……ならもう少し…… 俺達の傍にいてよ……」 「あと少しだけだよ?」 ヴォルグはそう言い笑った 応接室に戻って……窓の外が暗くなるまで遊んだ 子ども達もいつの間にか……眠りに落ちた 「慎一……最後の日に逢ってくれてありがとう……」 「ヴォルグ……」 「オイラは最後の日に君達と出逢えて本当に楽しかった……」 「………ヴォルグ……俺は君を忘れない……」 ヴォルグは慎一に抱き着いた そして床に立つと靴を脱いだ 「オイラの靴 慎一に遺して逝っても良い?」 「良いですよ 炎帝に必ず渡します」 ヴォルグは頷いた 「もっと沢山……遊びたかったな……」 慎一はヴォルグを撫でた 「俺も……もっと沢山ヴォルグと遊びたかった」 「………炎帝の消えた日々は…… 誰もオイラに気付いてくれなかったから…… 消えるのが恐くなかった……」 「ヴォルグ……」 「最後の日に君達と出逢えて…… オイラは少しだけ……消えたくないと想った……おかしいよね? ずっと消えたくて……仕方なかったのにね」 ヴォルグはそう言い泣いた 何も望んじゃいなかった 望んでも……手に入らないから…… 仲間も魔界から消えた もう仲間さえいない 誰にも知られる事なく消えて逝くだけだと想っていた 「ヴォルグ……」 慎一はヴォルグを抱き締めた 「慎一 君の日々が光に満ちあふれています様に オイラは日々祈っているよ」 「ヴォルグ……俺も……君の日々が…… 幸せである様に……祈ってる」 「もっと早く逢いたかったな……」 「俺も……ヴォルグにもう少しだけ早く逢いたかった……」 「慎一 ありがとう」 ヴォルグは慎一から離れると、音弥の前に立った 「オイラの命は……消えるけど…… 炎帝の大切な子を還してやれて良かった」 ヴォルグはそう言い呪文を唱えた 少しずつヴォルグは消えてなくなると…… 音弥の中へと……入って行った そして総てを音弥の中へ吸収されると…… ヴォルグの靴だけが遺った 小さな体躯の割に立派な靴だった 慎一は…… ヴォルグの靴を抱き締めると…… 泣いた どれだけの時間を…… 誰にも気付かずに生きたんだろう…… 誰にも気付かれずに…… 何を見て来たんだろう…… ヴォルグ 俺はお前を忘れないよ…… 慎一は何時までも…… ヴォルグの靴を抱き締めていた 炎帝はヴォルグの魂が…… 魔界から消えた事を知っていた ヴォルグ…… 誰よりも皇帝閻魔の傍に逝きたかっていた 魔界最期の妖精 ヴォルグ…… 約束したよな? お前達妖精が住める魔界を作るって…… 人の世に堕ちてしまって…… 作れなかったけど…… 絶対に……妖精が飛び交う魔界を作るから…… 総てを終わって…… 炎帝は閻魔の邸宅に帰ってきた ヴォルグは音弥を助ける為に消えた 最期に一目……逢ってやれば良かった…… 炎帝は閻魔の邸宅にあるヴォルグの残像を掻き集めた ヴォルグに新しい靴をプレゼントしようとして…… プレゼント出来なかった その靴と共に…… 冥府に送る 八仙に託して冥府に送った 皇帝閻魔は…… 八仙からその靴を受け取ると…… 抱き締めて泣いた 「嘘つき!」 あの声が耳から離れなかった 一緒に連れて行ってやりたかった 神でも冥府に入れば消滅してしまう 妖精のヴォルグが冥府に入れば…… 瞬間に消滅するだろう…… 皇帝閻魔はヴォルグの残像の小さな玉を掌に出した 「お帰り…ヴォルグ……」 皇帝閻魔はそう言い…穴を掘り小さな玉を埋めた そして呪文を唱えると…… ヴォルグを埋めた所から芽が出た その芽はシュルシュル伸びて…… 大きな大木になるまで、然程の時間は要さなかった 「ヴォルグ、この中で眠っておいで……」 ヴォルグの大好きな木だった   『オイラ 皇帝閻魔 大好き     ただいま!えんま!』 キラキラと木々が光ってヴォルグの声が…… 聞こえた    「お帰りヴォルグ」 皇帝閻魔は瞳を閉じた            END

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