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第2話 LUST CHRISTMAS ①
令和に年号が変わって迎えるクリスマス
飛鳥井の子供達はワクワクしていた
‥‥‥‥‥が、そんな楽しいクリスマスを目前にしたある日、閉店の告知の紙が、井筒屋の店の扉に張り出された
漬物を買いに来ていた康太は目ざとくその紙を見付けて
「おばちゃん!閉店って何よ?コレ?」と尋ねた
おばちゃん達は康太の前に出て来ると
「限界なのよ康太ちゃん
店を存続させるにはあまりにも総てが足りないのよ」と告げた
「人手不足って事か?」
「そうね、それもあるけど一番の原因は‥‥
私達は皆、高齢者になってしまった‥‥って事ね
もうね、店を続けられるだけの体力はなくなっちゃったのよ」
「おばちゃん‥‥」
「店の従業員も皆、高齢者じゃない
本当なら‥‥60の定年の時に店を辞めるべきだったんだけどね
康太ちゃんが来てくれるからね‥‥体躯が動くうちは頑張ろうと想って来たのよ」
井筒屋は仲良しな五人が早くに亭主を亡くした店主(友)を助ける為に力を合わせて働き続けて来た店だった
井筒屋の漬物と羊羮の味は絶品で、クチコミで買いに来てくれるお客も増えて、何とか続けて来たけれど‥‥
よる年波には勝てない現実に直面していた
60を過ぎた頃から、仕込みに時間を取られる様になってきた
疲れは抜けず、些細な怪我が治らず響いていた
もう辞め時ね‥‥
店主が口にすると
『まだ頑張れるわ!
あの子達が買いに来てくれる‥‥辞めたくないわ』
と可愛いお客さんを想い存続させて来た
だがそれも限界だった
もう体躯が‥‥想う様には動かない
店を辞める決意をするしかなかった
「おばちゃん!
人手を確保すれば何とか続けられねぇか?」
「康太ちゃん‥‥今時、こんな小さな商店街の惣菜屋に誰も来てくれないわよ‥‥
お給料も‥‥沢山は払えないしね」
「でも井筒屋の沢庵の味は後継者に遺して貰いてぇとオレは想うんだ‥‥
伊織‥‥産まれた時から食って来た沢庵をもう食えねぇなんて‥‥」
康太はうるうるの瞳を榊原に向けた
下半身にズキューンと来る上目遣いに榊原は理性を総動員して耐えていた
「おばあちゃん、後継者を育ててくれませんか?
飛鳥井の僕らの子に‥‥‥井筒屋の味を途絶えさせたりしないで下さい
後継者は顔の広い一生や父や母にも声をかけて見ます
誰もが納得の解決策ってのは無理でしょうが、後継者に味を伝授して、井筒屋を遺す道も考えてみて下さい」
「伊織ちゃん‥‥」
「康太と我が子は井筒屋で出来てると謂っても過言ではないですからね
これが井筒屋を味わえるLUSTCHRISTMASだなんて‥僕も嫌です」
「ありがとうね
どんなカタチでも続けられるなら‥‥
あの人も喜ぶわ‥‥
この体躯が本当に口惜しい‥‥‥」
動けるならあの人が遺してくれた店を‥‥辞める日なんて考えもしなかったのに‥‥
未練なら‥‥‥たんまりとあった
だが日々老いが存続を断念させるしかなかった
榊原は飛鳥井の家に還ると一生に
「誰か井筒屋で働いても良いと謂う人いませんかね?」
と井筒屋の現状を伝えて人脈の広い一生に何とかしろと協力を迫っていた
一生も井筒屋が店を閉める現状に驚きを隠せなかった
「康太の食を支えてきた井筒屋をなくせねぇわな
桜林の寮の食堂の沢庵は井筒屋の沢庵なの知ってたかよ?旦那」
「それは知りませんでした
康太と付き合いだして井筒屋の沢庵以外は美味しくないとボヤいて食べてるので‥沢庵の違いの解る男なんだなって想ってました」
「生まれて直ぐに玲香さんが食べてた沢庵を手にして啜って以来、乳飲み子が沢庵を所望した話は飛鳥井では有名らしいぞ」
「乳飲み子が‥‥沢庵を啜っていたのですか?」
「らしいぜ!」
「ならば‥‥あの味の伝承は必死ではないですか!」
榊原は清四郎に電話を入れて訪問を伝えた
丁度家にいると謂うので榊原は実家へと向かった
榊原の家の応接間に通されてソファーに座る
榊原の表情は固く‥‥
なんの話があるんだ?と清四郎と真矢は畏まって座った
そう言えば‥‥康太は一緒ではない
榊原は一人で榊原の家にやって来ていた
真矢は「では話を聞きましょう!」と腹を括って切り出した
「母さん、康太が愛して止まない沢庵の‥‥存続危機なのです
乳飲み子の康太が玲香さんの手にする沢庵を啜って以来ミルクより沢庵を所望して食べる程の執着ぶりを見せた沢庵が‥‥‥なくなりそうなんです!」
清四郎と真矢は唖然として互いの顔を見た
沢庵?
真面目な顔して‥‥‥沢庵?
真矢は「沢庵なら他の店のでも‥‥」と言い掛けると榊原は
「他のではダメなんです!
康太は産まれた日から井筒屋の沢庵だけをこよなく愛して生きて来たのです
井筒屋の沢庵を総て買い占めても‥‥半年後には沢庵はなくなります!
康太は他の店の沢庵は美味しくないと言います
僕の康太は‥‥僕を愛していますが‥‥‥井筒屋の沢庵もこよなく愛しているのです!」
少し嫉妬の混じる言葉に清四郎は
「伊織‥‥沢庵に妬くのは‥‥」止めときなさい‥‥とは謂えなかった‥
目が怖かったから‥‥
真矢と清四郎は抱き合った
怖い‥‥
目、座ってる‥‥
抱き締め合って怖い息子に耐えていた
その時、榊原の胸ポケットの携帯が震えて
榊原は携帯を取り出して電話に出た
『伊織、何処にいるんだよ』
電話に出るなり愛しい妻の声がする
デレッとなる榊原の顔
「奥さん、僕は今、榊原の家にいます」
『実家に帰られたのか?オレは?』
「奥さん!直ぐに帰ります!
奥さんを置いて僕が実家に帰る訳ないじゃないですか!」
『伊織、愛してる』
「奥さん!僕も愛してます」
目の前でデレッとした榊原が愛の囁きの出血大サービス中だった
現金な奴だ
解っていたが、こんなにも現金な奴だなんて
清四郎と真矢は笑っていた
『伊織、親孝行はちゃんとして来いよ』
「奥さんは?」
『オレは子供達とファミレスにいるからな』
「僕も行きます!」
榊原は立ち上がり帰る算段をする
「それでは僕は帰ります」
清四郎は「伊織、話は着いてませんよ?」と息子を嗜めた
「‥‥‥父さんも母さんも人脈が広いので、井筒屋で働いても良いと謂う人を探す手伝いをして貰おうと想ったのです‥‥」
「解った、贔屓の店に声をかけてみるよ」
清四郎は約束してくれた
だが現実は厳しいだろう
井筒屋は小さな商店街にある店だ‥‥
「もう良いです!父さん、母さん忘れて下さい」
真矢が「伊織、聞いた以上は忘れたりはしませんよ?」と話せ!と迫った
「井筒屋は小さな店です
夫を亡くした友達を支えて存続させて来た店です
そんな小さな店ではお給金を支払うにしても‥‥限界もあります
このまま人を探したとしても、おばちゃん達の負担になりかねないので策を考えます」
真矢は妻を愛する榊原の想いが伝わって嬉しかった
「伊織、一人で背負わないで
お前には父も母もいます
榊原の両親だって一生達だっています」
「解ってます
父さんと母さんもファミレスに来ますか?
子供達もいますよ?」
榊原が謂うと真矢は嬉しそうに「行きたいわ!」と謂った
清四郎も「私も孫の顔がみたいですね」と喜んで口にした
榊原は笑顔で「なら帰りは飛鳥井で宴会ですね」と楽しい提案をした
清四郎と真矢は年末年始は仕事をセーブしていた
孫や家族と過ごすと決めて年末年始は仕事をしないようにしていたのだ
榊原は清四郎と真矢を後部座席に乗せて、何時も逝くファミレスに向かった
清四郎はベンツに乗り込むと
「良い乗り心地だね」とベンツの揺れのなさを口にした
榊原は「妻のプレゼントなので、そう言って貰えると嬉しいです」と妻からのプレゼントだと嬉しそうに答えた
榊原伊織の愛する愛する妻は‥‥
夫のためならばベンツを一つ贈ってしまえる人間だった
かなりグレードの高い車を愛する夫にプレゼントして、榊原はそれを受け取り大切に乗っていた
夫婦の愛の詰まった車だった
清四郎は20才そこそこの乗る車ではないと想っていた
それだけ肩書きも重責も在ると謂う事なのだろう
肩書きがある人間が乗るが相応しい車だと清四郎は想っていた
ファミレスに到着すると榊原は車から下りた
真矢と清四郎も車から下りると、榊原は店内に入って行った
案内を断り店内を探し、愛する妻を発見すると妻の元へと迷う事なく進んだ
その足取りの確実さに真矢と清四郎は苦笑した
真矢と清四郎を見付けると康太は
「義父さん、義母さん お久し振りです 」とご挨拶した
真矢と清四郎は慎一に奥へと座らせて貰い孫の近くへと座った
流生が「ばぁたん、じぃたん」と嬉しそうに呼び掛けた
真矢は「流生、久しぶりですね」と挨拶した
音弥が「おちごとおわったにょ?」と忙しかった真矢と清四郎に声を掛けた
清四郎は「ええ。もう今年の仕事は終わりましたから、ずっと一緒にいられます!」と音弥の頭を撫でた
流生と音弥は笑っていた
‥‥‥‥が、太陽と大空は黙って‥‥‥下を向いていた
清四郎は「何かありましたか?」と康太に尋ねた
康太は‥‥‥隠す様に抱き締めていた翔を清四郎と真矢に見せた
「「‥‥‥!!!!‥‥」」
真矢と清四郎は言葉もなかった
翔は怪我をしていた
しかもかなりの包帯が巻かれた怪我をしていた
真矢は「どうしたの?翔!」と尋ねた
清四郎も「翔‥‥大丈夫なのかい?」と心配していた
康太は何も謂わなかった
一生が変わって二人に説明をした
「今 飛鳥井の子は全員 修行に出ています
その中で一番キツい修行をしているのが翔です
康太は‥‥もっと酷い怪我をしていました
その頃の俺達は康太のそんな事情も知らずに、康太はやんちゃだから生傷が絶えないのだろうと想っていました」
「修行で‥‥怪我をしたの?」
真矢は尋ねた
「翔は今、それだけの修行をしていると謂う訳です」
真矢は黙った
清四郎も何も謂う事を辞めた
康太は翔の不自由な手の変わりにご飯を食べさせていた
榊原は「僕が食べさせますから、奥さんも食べなさい」と変わって翔に食べさせ始めた
太陽と大空はそんな翔が気になって‥‥仕方がなかった
俯いていると大空と太陽に真矢は「どうしたの?太陽、大空」と問い掛けた
太陽と大空は何も答えなかった
そんな太陽を流生はビシッと叩いた
太陽は「いたいにゃ!」と怒った
流生は「ひなはひきょーよ!」と黙んまりに怒って謂う
太陽は「りゅーちゃ きらい!」と吐き捨てた
流生は傷付いた瞳で耐えていた
康太が「流生、来い!」と謂うと流生はテーブルの下を潜って康太に飛び付いた
流生は泣いていた
康太が「ひな」と呼ぶと太陽はビクッっと体躯を震わせた
「翔は飛鳥井家 真贋だ!
お前達とは違う存在だと教えた筈だ!
顔見せをした今現在、次代の真贋は翔
その次代が源右衛門より劣るのは許されねぇんだよ!
お前が何を謂おうが‥‥‥翔の背負う荷物は軽くはならねぇんだよ!」
太陽は母を睨み付けた
「かけゆ‥‥ぎゃんばってる!
れも、かぁちゃはほめにゃいじゃん!」
「真贋の修行は誉められる事じゃねぇ!」
「らから‥‥かけゆはいちゅもたえてるんら‥‥」
理不尽だと太陽は怒っていた
「耐えているから何だって謂うんだよ?
真贋のする事に口を出すな!」
黙れ!と謂われたも同然の口調に太陽は泣き出した
康太は立ち上がるとファミレスを出て行った
榊原が後を追ってファミレスを出て行った
兵藤はそれを見ていて
「太陽、飛鳥井に生きるなら、真贋のする事に一切口は出すな!
それが飛鳥井家の仕来たりだ!」と伝えた
大空は悲しそうな顔をすると
「ひなは‥‥かけゆがいちゅもたえてるから‥‥」
可哀想だと想ったのだと伝えた
ましてや怪我して血を流した翔を目にして‥‥
ナーバスになっていたのだった
翔は立ち上がると
「ひょーろーきゅん かぁちゃのとこに‥‥つれてってくらさい!」と伝えた
兵藤は翔を抱き上げると「おし!連れて行ってやるよ!」と答えて翔を連れて行った
太陽は悔しくて泣いていた
流生は「ばぁたん、りゅーちゃね こまってるにょ!」とこの現状を何とかしたいと口にした
音弥も「かぁちゃね、なにも食べてにゃいにょ!」と母を心配していた
清四郎は「翔は何故怪我したのですか?」と尋ねた
それに答えたのは一生だった
「翔は今、小学校入学後に迎える三通夜の儀式に向けて修行を強化して行っているのです
その修行の一つで怪我をしました
腕の骨にヒビが入る程の怪我をしました」
清四郎と真矢は翔の背負うべき荷物の重さに‥‥何も謂う事は出来なかった
だけど敢えて謂わねばならない時なのだと口を開いた
真矢は翔を想って
「それだけ翔の修行は過酷だと謂う事なのね‥‥」と口にした
一生は「それが次代の真贋ですから!」と答えた
頭では翔は次代の真贋だと解っていた
解っていたが‥‥‥あまりにも辛い現実に兄弟想いな子達が翔の修行に苦言を呈したと謂う事なのだろう
清四郎は子供達に現実を口にして
「翔は飛鳥井家次代の真贋だと一族に御目見えしたのですから、次代の真贋が源右衛門より劣っていては一族に顔向けも出来ないのは当たり前です
兄弟ならば、母を責めるより翔を支えて逝かねばなりません
解っていますね?太陽‥‥」
と諭した
太陽は「わかってりゅ‥‥ひながじぇんぶわりゅい‥‥」と反省の言葉を口にした
真矢は「そうじゃないのよ太陽、貴方は翔が誉められる事なく厳しい修行を続けるのが可哀想だったのね
だったら翔よりも厳しい修行をして来た康太は‥‥可哀想じゃないの?
康太は誰よりも厳しい修行を翔よりも小さい頃からやっていたのよ?
親の愛も与えられず‥‥‥日々厳しい修行をして来た
源右衛門は不器用な男だった‥‥とても辛い修行だったと思うわ
だけど翔には貴方達がいる
翔を支えるのは良い
だけど翔は飛鳥井家の次代の真贋だと謂う事は忘れないで‥‥」と言葉にした
康太の辛さが解るから真矢は謂わねばならないと口にした
太陽は母に歯向かうつもりなんてなかった
だが‥‥怪我をした翔が可哀想で‥‥
堪えて来た翔を認めない康太に腹が立っていたのだ
太陽は「ひな‥‥あやまりゅ」と謂った
一生は「あぁ、謝れ‥‥‥でもな康太だからな‥‥謝れるか解らねぇぞ」と答えた
真矢は「え?何故?」と尋ねた
「康太は喧嘩する事を極端に嫌うんです
喧嘩する位なら顔を見せない‥‥‥
アイツは気配で察知するから、同じ家の中にいたとしても顔を会わせない事も可能なんですよ」
康太の想いが痛かった
一生は「まぁ何にしても次代の真贋が何とかするでしょう!
あぁ見えて翔は次代の真贋ですから」と楽観視して答えた
大空はずっと下を向いていた
聡一郎は大空に「顔をあげなよ?大空」と声を掛けた
大空は顔をあげて聡一郎を見た
「そーちゃ」
「かなはどう思ってるの?」
「かなね‥‥かぁちゃ きびしすぎらとおもうにょ‥‥かけゆ ずっとたえてがんばってりゅのに‥‥」
「それは仕方ないです
翔は次代の真贋ですからね」
「れも‥‥かけゆ‥‥ないてりゅ‥‥
いちゅもないて‥‥たえてりゅ‥‥
かぁちゃがほめてやれば、よろこぶのに‥‥っておもうにょね」
大空は思いの丈を話した
聡一郎は大空の頭を撫でて
「泣いても血反吐を吐いても立ち止まらずに逝かねばならない、それが飛鳥井家真贋なんですよ?
生半可な修行で真贋は名乗れないんです
今 翔を甘やかしたら修行に耐えれない子になるしかない
そしたら翔の生きる道はなくなる
飛鳥井家次代の真贋として道はなくなる
それは即ち、飛鳥井家の終焉となります
そうさせない為に稀代の真贋が命を懸けて明日へと繋げているんです
君達は母の努力を踏みにじる気ですか?」
聡一郎の言葉は解りやすく子供達の胸に響き渡った
大空は「ぎょめん‥‥かなもあやまりゅ‥」も反省の言葉を口にした
「謝らなくても良いんです
今後、翔を支えて行ってやれば、それだけで翔は救われるんですよ
君達には兄弟がいる
支え合って生きて逝って欲しいと願った子達なんですよ君達は‥‥‥
だから謝罪は要りません!
今後、翔の事で母を責めるのは止めなさい!
それは翔の存在も認めていないのと同じ行為なのですよ?」
大空は黙って聞いていた
他の子も黙って聞いていた
その時烈が笑いだした
聡一郎は「烈、どうかしましたか?」と問い掛けた
「みんにゃ かぁちゃ すきね!」
烈はニコッと笑ってメロンソーダーをグビッと飲んでいた
聡一郎はカクテルじゃないよね?と匂いを確かめた
烈は大空の背中をビシビシ叩いていた
「しゅなおになるにょ!にーに!」
「れちゅ‥‥かな、すなおじゃにゃい?」
「こわっぱ!」
そう言い烈は笑った
聡一郎は「小童って‥‥本当に君は場の空気をひっくり返すのが上手いね」とボヤいた
烈は兄達に「にーにーくえ!」と背中をビシビシ叩いていた
太陽は烈に抱き着いた
烈は「めっ!」と太陽を怒った
「れちゅ‥‥」
「にーにー」
烈は優しく太陽を抱き締めた
そして太陽のケーキをパクっと食べた
「あー!れちゅ」
「にーにー くわにゃい」
「たべりゅ!」
太陽はそう言い食べ始めた
烈は真矢と清四郎を見ると手を差し出した
抱っこをしろと謂う事なのかと、真矢は烈を抱き上げた
「重‥‥」
あまりの重さに真矢は思わず謂うと烈は
「しちゅれいにゃ!」と怒った
清四郎は爆笑した
真矢は烈を清四郎に渡した
清四郎は烈を受け取り、あまりの重さに‥‥苦笑した
「ばーばー じーじー れんわ!」
烈は清四郎の烏龍茶を手にしてグビッと飲んでいた
真矢は「誰にかけるの?」と問い掛けた
「ひょーろーきゅん」
「兵藤君?それ私しらなーずよ?」
真矢が謂うと烈は一生を見た
一生は烈の視線を感じて
「俺がかけるのか?」と問い掛けた
烈は顎で早くかけろ!とばかりに一生を急かした
あまりの貫禄に‥‥‥一生は兵藤に電話を入れた
『一生、どうしたよ?』
電話に出るなり兵藤は問い掛けた
「うちのお子様の烈が電話しろって謂うから掛けた」
『おっ!ジュース飲んでても酒飲んでる貫禄の烈かよ?』
兵藤は笑っていた
「で、烈がこの場を何とかしろとのお達しだ!」
『‥‥‥‥おい、それを俺にやれってか?』
「そーみたいだな
烏龍茶飲んでこっちをジーッと見てる
生半可な事では納得しねぇだろ?アイツは‥」
『あのお子様‥‥源右衛門ばりに怖い時あるよな?』
「大空の事小童扱いしてたぜアイツ」
『トレパンパンマンはいてる小僧が!』
「それより何とかしてくれ!
このままじゃ子供達が可哀想だ」
『それは翔が今、母と交渉中だ!』
「康太と合流したのか?」
『そう言う事だ
翔は母の覇道を追って居場所を突き止めた
まぁ康太は翔が来るのを解っていて解りやすい覇道を遺していたって事だろ?』
次代の真贋として生きる翔の日々はキツい修行に在る
その成果の一貫なのだろうが‥‥‥一生は何も謂えなかった
「翔が康太と交渉中なら電話を切った方が良いか?」
「ちょっと待て」
兵藤は翔と何やら話していた
そして話が纏まると
『居場所は烈が知ってるらしいからな、烈に連れて来て貰えってよ!』
そう言い電話を切ってしまった
一生は烈に「何処へ逝けば逢えるよ?」と尋ねた
「ぷるぷるぞーさん」
「????それは何処よ?」
「むじゅかしーにゃー」
烈は一生の携帯を取るとカメラを起動して額に押し当てた
何が始まったの?と一生は構えた
烈はうーんうーん唸っていた
「便秘か?トイレに行くか?」と烈を心配する程だった
烈は怒って一生の足をドスンッと踏みつけた
「痛てぇって!」
烈は一生に携帯を渡した
一生は携帯を受け取り‥‥‥固まった
慎一が「どうした?一生」と尋ねると一生は携帯を慎一に渡した
慎一は「烈って何者ですかね?」と想わず呟いた
流生は「れちゅね、いまねしゅぎょーしてるにょね」と説明した
一緒に菩提寺に送っているのは一生や慎一だから知っていたが‥‥
修行しているのは知らなかった
兄弟で行って烈は姫巫女に遊んで貰ってるとばかり想っていたからだ‥‥
太陽は「それね、ねんちゃっていうんらって」と烈の修行の成果を口にした
携帯には「ブルク13」と出ていた
良く逝く映画館の看板を念写したのだった
「烈、こんな事出来るんだな」
しみじみと謂うと烈は‥‥烏龍茶を飲み干し
「いくじょ!」
と言った
真矢は「一生お願いね」と烈を抱っこして逝けと頼んだ
「義母さん、烈はもうスタスタ歩けます
抱っこで連れられる方が嫌がります」
「あら、そうなの?」
烈は椅子から下りると太陽に手を出した
「にーにー」
太陽は烈の手を恐る恐る取った
烈は太陽の手をギュっと握り返した
「よるはおにく」
烈はそう言い歩き出した
すっかり烈のペースに巻き込まれていた
烈は大空にも手を出した
「れちゅ‥‥」
「にーにー いくにょ」
大空は頷いた
流生は笑っていた
音弥も笑っていた
頼もしい弟に兄弟はこうして救われ一歩踏み出した
ファミレスを後にして車に乗り込むと音弥と烈はずっと歌を歌っていた
何とも奇妙な歌だった
「じゅーじゅーやけたよ」
「おにく」
「もっとやけたよ」
「おにく」
‥‥‥‥肉の歌を歌っていたのだった
烈はガタイは良いがデブな訳ではなかった
骨格が太いからかなりの体重を叩き出すが、この幼児にして筋肉質だった
真矢は笑っていた
清四郎も二人の歌に笑っていた
もう険悪な雰囲気はなくなっていた
大空は「みんにゃ‥‥ごめんね」と謝った
太陽も「ひなもあやまりゅね、ごめん」と謝った
音弥は「かぁちゃ なにもたべてにゃいからね」とやはり母の心配をしていた
流生も「ばぁたん じぃたん かぁちゃにたべちゃせてね」と頼んだ
真矢は「解ってるわ、沢山食べさせるわね」と約束した
清四郎は「やはり井筒屋の存続は飛鳥井の死活問題ですよね」と呟いた
孫は無類の沢庵好きだった
井筒屋の沢庵を出すと喜んでくれるから、榊原の家も井筒屋の沢庵は欠かせずにいた
真矢も「そうね‥‥誰か見付けないとね」と井筒屋の存続を口にした
一生は「旦那は井筒屋の存続の為に実家に還ったのですか?」と真矢に尋ねた
「そうよ、康太の沢庵が危機だって来たのよ」
真矢が笑って謂うと清四郎も
「『僕の康太は‥‥僕を愛していますが‥‥‥井筒屋の沢庵もこよなく愛しているのです!』と惚気まくりで嫉妬さえ感じさせて言ってたのですよ」と笑って伝えた
慎一は「井筒屋は仲良しな仲間が店主の為に働いている、そんなお店ですからね
遺したい想いはありますが、寄る年波には勝てないわ‥‥と謂われたら何も謂えませんでした」と悔しそうに言葉にした
慎一が運転するベルファイアに真矢と清四郎と一生と子供達を半分乗せ
聡一郎の車に子供達を半分乗せてブルク13へと向かう
駐車場に車を停めるとブルク13へと向かった
ブルク13に到着すると烈はズンズン歩いて行った
真矢と清四郎や一生達はその後を追った
烈は母を見つけると「かーちゃ」と呼んだ
康太はお使いが出来た息子を抱き上げた
「偉いぞ烈、ちゃんとお使いが出来たな」
母に撫でられ烈は嬉しそうに笑っていた
榊原の横に座っていた翔は、父から離れて一生の方へ近寄ると、怪我をしてない手の方を一生に差し出した
「かじゅ」
その手には全員分の映画のチケットが握られていた
一生はそれを受けとると皆にチケットを配った
康太は「んじゃ、行くか!」と言い烈を下に下ろすと手を繋ぎ歩き出した
大空は母に近寄ると手を繋ぎ
「ぎょめん‥かぁちゃ」と謝った
康太は大空を抱き上げると「謝るな大空」とギュッと抱き締めた
「お前は兄弟の為に何かしようとした
オレは次代の真贋が劣っていると謂わせない為に鬼になる
だがお前達は‥‥翔の為に傍にいてやってくれ!
それが明日の飛鳥井の為になる‥‥
お前達は何があっても絶対に離れるな」
「はい」
「良い子だ」
康太は大空を下に下ろすと頭を撫でた
大空は嬉しそうに母の手にすり寄った
太陽も母の傍に寄ると「ぎょめん‥かぁちゃ」と謝った
「ひな、オレは家の為ならば我が子でも斬らねばならない‥‥
親でも兄弟でも‥‥‥我が子でも、それは変わらねぇ!
それが飛鳥井と謂う家に生きている真贋の務めだ!
だからお前が何かを謂ったって聞けねぇ時もある
それが許せねぇならば‥‥お前を家から出さねばならぬ
解るな太陽」
「わかっちぇましゅ」
「なら良い!」
康太は太陽の頭を撫でた
厳しい物言いをせねばならぬのは、総ては仕来たりに則り生きて逝く飛鳥井の家の為なのを太陽は解っていた
理解は出来たが‥‥翔が可哀想で‥‥黙っていられなかった
母に逆らえば痛いしっぺ返しが来るのを解っていて‥‥‥それでも謂った
翔は太陽の傍に逝くと
「ひな、かけゆはだいじょーびだ」と安心させた
「かけゆ‥‥」
「えいぎゃ、みりゅにょ!」
翔はそう言いチケットを見せた
兄弟で見たいと謂っていたアニメの映画のチケットだった
烈は母に「じゅーしゅ」と映画を観る時の必需品を口にした
康太は「席に座ったらな!絶対に溢すなよ!」と注意した
烈は親指を立てて解ってると答えた
康太は太陽に「ひな、烈が溢さない様に世話を頼むな!」と声を掛けた
太陽は嬉しそうに笑って手をあげて
「あい!」と答えた
流生はホッと胸を撫で下ろした
険悪な雰囲気はなくなっていたからだ
烈は流生に親指を立ててニカッと笑うと、流生は烈を抱き締めた
音弥が流生に抱き着くと太陽と大空も抱き着いた
こうして兄弟は何時も辛い日々を乗り越えて生きて来たのだ
これからも、こうして兄弟で力を合わせて生きて逝くのだ
翔も兄弟に抱き着いた
手は包帯だらけで痛々しかった
手の他にも顔や足にも擦り傷が沢山あった
康太も今だに生傷が絶えないのを垣間見る
真贋と謂うのは常に修行をして日々鍛練をくれ返して生きている事が解る‥‥
康太は兄弟の塊を抱き締めると
「映画が始まるぜ!」と謂った
兄弟は素早く離れるとチケットを手にして母の足元に並んだ
映画の入場のアナウンスが掛かると、上映シアターへと向かう
チケットをチェックすると上映特典のポストカードを受け取りシアターへと向かった
指定席に座り、上映を待つ
烈は榊原が見張って、他の兄弟は行儀良く座ってジュースを飲んでいた
映画が始まると榊原は烈のジュースを隠した
夢中になり溢すからだ
恨みがましく父を見ても‥‥‥父には勝てないのを烈は知っていた
子供達は夢中でスクリーンに釘付けになっていた
「がんばれ!」と応援して必死で見ていた
康太は「子供が観るにしてはクオリティ高けぇな」と感心していた
榊原は「ならば君と子供達が観て喜ぶ映画の脚本を書いてみたくなりました」と脚本家らしい台詞を口にした
「楽しみにしてるぞ伊織」
康太も子供夢中になるから妬けて口にただけなのに‥‥‥墓穴を掘ってしまった
それでも榊原は笑っていた
真矢と清四郎はそんな康太や榊原、子供達が幸せそうで安心していた
映画が終わると飛鳥井の家へと還った
家に還ると玲香や清隆、瑛太や京香も応接間で待ち構えていた
応接間には何故か笙も明日菜もいた
笙は「母さんと父さんだけズルいです」とボヤいた
笙も年末年始は休みを取って家族と過ごす時間を作っていたのに‥‥
気付けば榊原と共に家を出て逝ってしまったのだ
後を追ったが飛鳥井の家には還ってなくて、瑛太に還るのを待てば良いです!と謂われて待っていたのだった
応接間に入って来た康太は慎一に「翔の着替えを頼む、後‥‥消毒も‥‥」と頼むと、慎一は応接間を後にして子供部屋へと向かった
一生は子供達と共に子供部屋に向かう
着替えをさせて来る為だった
慎一は翔の着替えを手にすると救急箱を手にして応接間へと戻った
ソファーに座る翔に「翔、着替えましょう、着替えが終わったら消毒しますからね」と声を掛けた
笙は「翔、怪我してるのか?」と尋ねた
それに答えたのは清隆だった
「翔は一族の者に顔見せをしましたからね
小学校に上がったら真贋として三通夜の儀式をせねばなりません!
その為の修行がかなり過酷なのです」
瑛太も父に続いて話し出した
「康太は‥‥足の骨を折りました
それでも三通夜の儀式に合わせて修行して見事に完遂したのです
真贋ですからね、仕方ないのでしょうけど‥‥
見守る方は結構堪えます」
瑛太の言葉に清四郎は
「それでね、子供達も康太に談判してました
私達が行った時には太陽と大空が下を向いてたので何があったのか驚きました」と説明した
瑛太はそんな清四郎の心情を理解しつつも
「私は飛鳥井家 総代として真贋の言葉は絶対だと護っています
真贋に逆らうならば‥‥例え親でも兄弟でも斬らねばなりません!
総代として飛鳥井の規律を護るのは絶対ですからね‥‥‥
飛鳥井は特殊な家です‥‥今は少しはマトモになりましたが、その昔は暗躍部隊がいて闇から闇へ消し去られる者もいたのが現実です」
特殊な家なのだと伝えるしかなかった‥‥
真矢と清四郎は何も謂わずに座っていた
飛鳥井の事に口出す気は皆無だと‥‥伝える為に‥‥
笙はそんな両親の想いが解るから何も謂わなかった
瑛太は翔に「翔、叔父の所へおいでなさい!」と声を掛けた
翔は瑛太の前まで歩いて逝くと
「なんでしゅか?」と問い掛けた
「明日、検査をするそうです
ですから朝は何も食べられません」
「‥‥わかりまちた」
「大丈夫です、君は私が治してあげます
稀代の真贋に劣らぬ様に護ると誓いましたからね」
「あいがとごじゃいましゅ!」
「ですから今夜は好きなのを言いなさい
取り寄せてあげますから‥‥」
「かぁちゃがたべてにゃいので、ぷりんをおねぎゃいします」
「‥‥‥君は?何も要らないのですか?」
「かけゆはだいじょーびれす!」
「なら翔もプリンを食べなさい
慎一、スィーツのデリバリーをお願いします
それと貴史は何も要りませんか?」
瑛太は兵藤に声を掛けた
「俺は何でもあれば食べるので大丈夫です」
「慎一、貴史の食べれそうなのもお願いします
後、康太の大好物も!」
「解りました!」
慎一はそう言い応接間を出て行った
戻って来ると注文を適当にして来たと伝え、お酒の準備を始めた
一生も聡一郎も手伝い準備をする
康太は翔の手を掴むと、自分の方に引き寄せた
翔は母に抱き締められて甘える様に瞳を瞑っていた
烈は「おにくは?」とお肉が来るのを待っていた
榊原は「お肉は慎一が頼んでくれましたよ」と安心させてやった
真矢は「烈はお肉が好きなのですか?」と尋ねた
今日はずっとお肉と謂っていた
康太が「翔があんまし肉を食わねぇからな、烈は翔に食わせる為に肉を所望しているんだよ!」と答えた
音弥は烈とまたお肉の歌を歌い始めた
「じゅーじゅーやけるよ」
「おにく」
「やしゃいもたべりゅにょ!」
「ぴーみゃん」
「じゅーじゅーやけるよ」
「おにく」
清四郎はその歌を聞きながら笑い出した
「この歌は何なんですか?
何かの歌なんですか?」
家族は笑い出した
玲香が「それは音弥のオリジナルじゃ!」と答えた
清隆が「最近何時も烈と歌ってます」と顔を緩ませ謂った
「オリジナルですか?
才能ありますね」
音弥の歌好きは知っていた
オムツしてる頃にONE OK ROCKやAlexandriaを聞く子なのだから
デリバリが届くと子供達は慎一の所へ向かった
流生が兄弟を代表して謂う
「ちんいち、かぁちゃたべてにゃいの
らから、かぁちゃにあげてにぇ!」
慎一は子供達の頭を撫でて
「解ってます
康太、子供達が心配してるので食べて下さいね」
と主に伝えた
榊原は康太が好きなモノをお皿に取って食べさせた
太陽は母に「はしまりのあしゃひ、みにいくにょ!」と初日の出を行こうと誘った
「おっ!今年は皆で逝くか?
でも朝早いぞ起きれるのかよ?」
「ひな、あさはちゅよい!」
太陽が謂うと大空も「かなも、あさはちゅよい!」と答えた
音弥と流生は朝が弱かった
寝ても寝ても眠くて‥‥起きたくなかった
でも置いて逝かれたくない音弥と流生は
「りゅーちゃ たたきおこちて!
そちたら いっちょにいけるにょ!」
「おとたんも たたきおこちて!
みんにゃでいっちょにいくにょ!」と訴えた
翔が「みんにゃでいこう!おこちてあげゆよ!」と約束した
子供達は笑顔で父と母の傍にいた
とても幸せに時間だった
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