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第29話 お留守番
「晶馬くん今凄い音がしたけど大丈夫?」
うわっ!
出掛ける準備をしていた先輩が音に気付いて顔を覗かせた。
「だ、大丈夫です」
「そう?」
そう言ったのにそのままやってきて僕の顔を覗き込んだ。近い近い、いろいろ思い出して赤くなってたのバレちゃうよ。僕はちょっとだけ及び腰になり上体を逸らした。それなのに更に近づかれて額の髪をそっと分けられ、おでこにキスを落とされた。
チュッ
「額赤くなってるよ」
クスッと笑われた。これはバレてるな……
「痛いの痛いの飛んでけー」
更にペロリと舐められた。先輩が舐めると傷の直りが早いらしいけど、たんこぶにも効くのかな?
そんなことを考えていたらぎゅっと抱きしめられ、抱え込まれた後頭部をよしよしと撫でられた。
「ああ、もう心配。一人にしたくない。行くの止めようかな」
「ダメですよ。教授とご一緒なんでしょ?行かないと怒られますよ」
先輩は大学で難病の遺伝子解析チームにも参加していたんだけど、少し前にそこで念願の特効薬が出来上がった。薬学会では世紀の発明らしく、京都で開かれる化学療法学会の総会にチームの責任者である教授と一緒に参加することになったんだって。
先輩の専門は世界経済なんだ。なのに専門外のそんなことまでやってたなんてほんとに頭いいなあ。凄い。
「そうなんだよね……はあ、仕方ない、行ってくるよ。お土産を買ってすぐに帰ってくるからね、待っててね」
「お土産はいいんです。気を付けて行ってきてください。……待ってます」
「晶馬くん……可愛い!」
「わわっ、もういいですって!ほんとに遅刻しますよ!」
僕だってもっと一緒にいたいけど待ち合わせに遅れちゃうよ、早く早く!
しぶしぶの体で出掛けた先輩を見送って、さて、と机に向かった。
先輩は明日まで帰ってこない。
京都に一泊の予定と聞いて、じゃあ今週の週末は会えませんねと言ったら嫌だ会いたい、帰ってきた時に部屋で出迎えてって言われたんだ。週明けに提出する僕の課題の事もご存知で、部屋には資料と特A評価だった当時の僕のノートもあるよ、僕んちに泊まって書きなよと言われて飛びついてしまった。苦手な科目だったんだ。
ご迷惑じゃないかなっていろんなことにすぐ僕が尻込みしちゃうから、先回りをしてくれたんだと思う。
僕だって少しでも一緒に居たかったんだ。お出迎えできるの嬉しい。
という訳で折角のご厚意だから先輩が帰られるまでに課題のレポートを書き上げとかなきゃ!
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