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第56話 not 7 but 10
通常ヒートは一週間で終わる。僕たちも七日間で終わったので、今日から日常生活に戻る。僕も大学に行かなくちゃ。
大学の休講届けはヒートになった時に先輩が電話で手続きをしてくれていた。今日はそれを正式な書類として紙の届出に印鑑を押して提出しなければならない。
そろそろベッドを出て準備をしよう。そう思って重い腰を上げて床に足を下ろしたら、カクリとひざから落ちてフカフカの絨毯にぺったりと座ってしまった。
あれ?足に力が入らない。
「大丈夫?」
先輩が脇の下に手を入れて立たせてくれた。支えてもらっても、膝がガニ股になってカクカクして自分で立てない。なんで?
「歩くのはしばらく無理そうだね」
確かに凄い違和感がある。足のあいだに何かが挟まってるみたい。閉じられず、ひざも外側を向いて力が入らない。
「骨盤が元の位置に戻ってないんだ。Ωとはいえ晶馬くんは男の子だから骨盤が小さくて、無理に広げたから戻るのに時間が掛かってるんだよ。初めてだったのに無茶してごめんね」
そりゃあ、あれだけ大きい息子さんにくったりと力の抜けてた胎内 を占領されて、奥までグリグリ押し込まれたんだから骨も広がるよ。そこには今も何かが挟まってるみたいな感覚がある。それって体が覚えてるってことかな。
僕はカーッと赤くなった。思い出すと奥がキュッと狭 まってまた何か垂れそうだ。考えるな!
「……その顔、僕いま誘われてる?」
「ちが、」
分かってるクセに。先輩がクスクス笑った。
「という訳だから、あと三日は僕が独り占めするね。何でもご奉仕しますよ、王子さま」
「でも講義が」
「大学には十日で届けてるから大丈夫」
えっ、いつのまに。
「最初に携帯で十日休むって伝えたじゃない」
えっ?
僕は朦朧としていた時の記憶をたどった。
『教授、藤代です。本日、僕の大事な人が発情期 に入りました。同伴休講を申請します。期間は十日間。……いえ、十日です。……ええ、そうです。では宜しくお願いします』
『田中くん?藤代です。晶馬くんがヒートに入ったからこのまま連れて帰るね。受ける予定だった講義の教授に欠席って伝えて。それと仮休講の手続きをして欲しい、期間は十日間。……ううん、十日。……うん、そう。大丈夫だよ、僕も十日取ったから。じゃあよろしくね』
言ってた!どっちにも十日って言ってた!すっかり忘れてた。というよりあの時は気にする余裕なんてなかった。え、待って、じゃあ最初からこうなるって分かってたの?
「ちゃんと発情期 で凄いのするって予告したでしょ」
確かに言われてた。でもそれも忘れてた。だからそれどころじゃなかったんだってば!
「ちなみに子宮で出すとほぼ百パー妊娠します」
「えっ赤ちゃん産まれちゃう」
「ううん、避妊薬飲んだから産まれないよ」
えっ飲んでない。
「ぶどうと一緒に口に入れたよ。初日に飲んだ分が切れる頃だったから、念の為」
ぶどうがおいしすぎて夢中で食べてたから気がつかなかった。
何という完全犯罪。最初から全て仕組まれていた。
「稀少種こわっ」
「ええー、そんなところで稀少種言っちゃうの?もっと褒めるところで言ってよ」
先輩が笑って僕を抱きしめた。
七日間ではなく十日間。二人ぼっちの世界は延長戦に突入した。
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