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(IF END 完)第21.3話 新しいおとぎ話

大学の講義後、いつものように李玖先輩と構内のカフェテリアで合流した。 今日の最後の講義は安永君と田中君も受講しているので一緒に来て、4人掛けのテーブルで皆でひと息ついている。このあと二人はサークルとゼミに行くらしく、僕は先輩の家でお泊りデートだ。 先輩におねだりされて僕のプリンパフェをアーンで分けたら、田中君が 「く~っラブラブでいいなあ。俺も早く(つがい)が欲しい」 って言ったので僕はちょっと赤くなった。 「焦らない焦らない。そのうち〈運命の番〉と出逢えるかもしれないぞ」 「そんな偶然ないって。だから現代のおとぎ話だろ。ま、ネットか何かで必死に探したら、もしかしたら奇跡的に見つかるかもね」 「でもネットでこの人かも!って思っても相手がもう(つが)ってたらフェロモン出てないもんね。判別出来ないしそいつの相手に殺されるぞ」 「だよな。怖っわ。」 「俺、素直に恋人探そうっと」 「まず好きになれそうな子探せよ」 「道は果てしないな~」 ハハハハハ。 李玖先輩と付き合って、(すで)にうなじを噛んでもらってる僕は、安永君と田中君の話を笑いながら聞いていた。すると先輩が僕にこう聞いてきた。 「晶馬くんは〈運命の(つがい)〉に会ってみたかった?」 「えっ、うーん、どうだろう。……ううん、会わなくて良かったです。だって僕、その人と出逢えても李玖先輩以上に好きになれる自信がないよ。その人も僕が相手じゃ可哀想です。逢うことは出来なかったけど、きっと今頃はその人にも素敵な恋人がいて、幸せになってるって信じてる。もし近くにいても僕にはもう分からないし、その人の幸せを願うだけだよ」 「晶馬くん……いい子だね。僕の晶馬くんは世界一優しくて可愛くて、ほんと僕は世界一の幸せ者だ」 「うわっ出たよ藤代さんの晶馬ばか」 「藤代さん恰好いいのに、日野の事に関してだけデロンデロンに甘くなって見境なくなるよな」 穴があったら入りたい! 今に始まったことじゃないんだけど、先輩は大げさなんだよ!僕は恥ずかしくて堪らなくなった。真っ赤になった顔を俯いて隠し、黙々とプリンパフェを頬張る。 そんな僕の耳に少し離れた席の話が聞こえてきた。 「……でさ、……で、……え?お前、なに急に泣いちゃってんの?いきなり何?びっくりするわー。なんだよマジ泣きじゃん。彼女にでも振られたの?ハハハ、高村まじウケるww」 何気なくそっちの方を向こうとしたら、李玖先輩が僕の頬を挟み、顔を覗き込んだ。 「晶馬くん、よそ見?浮気しちゃ嫌だー!他の人見ないでっ」 「浮気って。先輩ときどき無茶苦茶言いますよね。もうっ、どこまで本気か分かんないんだから」 「はははっ」 また からかわれた。 「そうそう、おとぎ話といえば、最近新しいの流行ってるけど、知ってるか?」 新しいおとぎ話? 「ううん、知らない。どんなの?」 「えっとな、要約すると、こんなん」 “どうしても相手と相性の悪かった〈運命の(つがい)〉が、王子様と恋をして愛の力で鎖を切った” 「そんなことが可能なの?凄いね」 「どうやって切るんだろう。王子が切ったのかな。てか、王子って何。現代版おとぎ話にそこだけ中世?」 「俺は魔法使いって聞いたけど」 「訳わからん」 「噂の出どころは分からないけど、ロマンチックじゃん」 「魔法使いっていうなら李玖先輩みたいな人なのかな」 「何で藤代さんなんだよ」 「あれ?……ホントだ。何でそう思ったんだろ」 「何だよ結局日野もかよ、この先輩ばか」 「ふぅ~熱い熱い。お似合いですよバカップル」 「違っ、もう嫌だ~」 「ははははは……」 「あはははは……」 " 運命を愛の力で変えた " いつの頃からか、人々のあいだに静かに広がっていった新しいおとぎ話。 しかし、この話の出どころを知っている者は、誰もいなかったーーー 〈了〉

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