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(IF END)第21.2話  純潔

晶馬くん、君の記憶も消すよ。ごめんね。 高村があっさり引けば何もしないつもりだったんだ。 でも彼は反省もせずに君に執着を見せたから、どうしても見過ごせなかった。奴には自分のしでかした過ちを自覚させたうえで、奴から君を完璧に取りあげたかった。 君を傷つけた報いを一生背負わせたい。 こんな怖い僕は嫌い? もし君の記憶を消さなかったなら、晶馬君、君は僕に何と言ったのかな…… 晶馬くんの部屋に戻り、彼をベッドに横たえた。上着をハンガーに掛けシャツを脱がせ、肌を(あら)わにした。そして彼の薄っすらと残った傷跡に舌を這わせる。 大抵の傷は、掻き毟る行為を止めたあの時に舐めておいたので残っていない。残っているのは、治癒能力を高めても未だ完治に時間を要する酷い傷や、跡が残りそうな深い傷だ。 あの時に舐めたのは、彼の心理的ストレスを消し去るためだけではなかった。 αの稀少種のDNAは他の者のDNAにも影響力を持つ。男女の産み分けだろうと新種の病気の治療だろうと、やろうと思えば容易く出来る。傷口周りの皮膚の細胞を唾液のDNAで活性化させるくらい造作ないことだった。 ――全く、大した魔法使いだ 自分の存在にいささか呆れる。しかしこれらの能力が全て彼を救うために活かされたのだ。 僕が稀少種に生まれてきたのは、君と結ばれるための運命だったのかもしれないね。 他人の〈運命の番〉を救うための力を持って生まれてくる。そしてその子と結ばれる。これを運命といわずに何を運命と言うんだい? 親猫が仔猫を舐めるように丁寧にしっかりと舌を這わす。 記憶と一緒に、彼の心の傷も消えるように。痛かったことも、怖かったことも憶えてなくていい。体の傷も心の傷も僕が治す。奴と出会う前の真っさらな君に戻れるように。 晶馬くん、新しく憶えてね。君の純潔は僕が貰ったんだよ―― 君は最初から全て、僕のものだったよ。

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