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(IF END)第21.1話 メメント モリ

ざわざわ…… (嘘だろ、運命の(つがい)が入れ替わるなんて) (どういう事よ、あの子高村さんの相手だったじゃない) ざわざわ…… カフェテリアに偶然居合わせ、二人のやり取りを固唾を飲んで見守っていた多くの学生達は(くずお)れた高村を見て思い思いの事を囁き合っていた。 (稀少種はそんなことも出来るのか) (ははっ、高村ざまぁ) (何あの子!運命の相手がいたのに藤代さまを誑し込んだ) ざわざわ……ざわざわ…… (でも……) (だから……) 「黙れ」 ――シーン…… 藤代のひと言で、テラス内は水を打ったかのように静まり返った。 「皆、そこを動くな。私の目を見なさい」 教師も学生も、そして支配階級のαでさえも君臨する王の声に逆らえず、皆の視線は一点に集中した。 「みな見ただろう?これが一連の真実だ。稀少種が望み、相手が応えたからこそ起こり得た奇跡。だが、本来なら起こりえないない現象だ。よって、この事実を抹消する。 ”初めから高村昇と日野晶馬は〈運命の相手〉ではなかった。日野晶馬は私の番であった” これが真実だ。この先高村と日野の事を口にする者に会ったらこう言いなさい。 ”そんな事実はなかった。日野は藤代の番であった。藤代がそう告げた” 私の名の言霊でその者の記憶も上書きされる。分かったね? 私、藤代李玖は地上からこの事実が抹消されることを望む」 「はい……藤代さん」 「分かりました藤代さん……」 「藤代さま……はい……」 皆は口々に返事をしていった。 「あんた……一体何を……」 「皆からこの子がお前の相手だったという記憶を消した。これでもうお前の相手は名実ともに消えた。最初から存在しなくなった」 「やめろ!やめてくれ、消さないでくれ、頼むから!いたんだよ、俺の番!俺だけの匂いをさせて何をしても俺を否定しなかった、俺をじっと待っててくれた存在が!いたんだよ!なあ頼むから!その過去さえも無かったことにしないでくれ……頼むよ……いたんだよ……晶馬が……」 「名前を口にするな!これは私のだ!!」 藤代の怒気に気圧されて高村の体が震えあがった。大きくよろめき、後ずさる。 「この子にお願いされて一度お前を許している。二度目はない。次に近づいたらもう許さない。お前の存在を消すよ。 お前の番は死んでしまい、過去からも消えてしまった。もはやお前の中だけにしかいない存在だ。お前は独りで空の棺の墓守り(メメントモリ)になるがいい」 「 ! うあ、うあああぁぁぁああああ!」 藤代は晶馬を抱きかかえ、カフェテリアを後にした。 あとに残されたものは、暗示の切れていない人々の茫洋とした瞳と、高村の唸り声だけだった。

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