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第24話 魔法使い再び

「晶馬くん、まだ自分の事、人より劣ってると思ってる?」 「それは……はい」 「あらら。じゃあ僕のことはどう思ってるの?」 「先輩?凄い人です。頭も切れるし綺麗だし、αの中でも上位の稀少種で、本来なら全く接点がなかった、手の届かない雲の上の人」 「ふふ、そうなんだ。その僕が、君が欲しくて堪らなくて、運命から無理やり引き剥したんだよ?君にはそれだけの魅力があるんだ」 「僕の魅力?僕に魅力なんて……。先輩が僕のどこを気に入ってくれたのかも分からないのに」 「随分自信がないんだね。君に掛かってる呪いはそうとう頑丈みたいだ。分かった。じゃあ魔法使いがその呪いを解いてあげるよ」 魔法使い?先輩また魔法を使ってくれるの? 僕はびっくりして目を見開いた。 「何から話そうか。まず君を好きになった切っ掛けからいこうかな」 そう言って先輩は僕との出会いまで遡ってくれた。 「初めて君を見た時の第一印象はあまりΩらしくない子だな、だったんだ。Ωだとはすぐ分かったけど、ヒートはまだみたいで匂いは薄いし、顔もαの気を引く派手さがない。あ、媚るための洒落っ気がないって意味だよ、純朴で僕は好印象だったからね」 慌てて先輩がフォローを入れる。あれ?僕、何気にディスられた?やっぱり地味なんだ…… 「え、えーっとそれでね、」 そこから興味を持って僕を見ていたから、Ωとβに友達がいてクラスのαとも仲が良いこと、集団が苦手な事、ゼミが親交のある酒井ゼミの生徒であることが分かったらしい。 「君は、君自身の魅力にコンプレックスはあっても、自分がΩであるというコンプレックスじゃない。だから他の性種であるβやαとも仲良く出来るんだ。αやβ、Ωの垣根がとても低く、あまり意識していない。そんな君なら僕を "稀少種のα" としてではなく、別のカテゴリーで認識してくれるかなって思った。だから "先輩" として近づいてみたんだ。初めて喋った時のこと、憶えてる?」 「はい。先輩のゼミと合同の親睦会でしたね」 「あの時は二つのゼミで合同だったせいもあるけど、普段参加しない僕が行くって言ったから凄い人数になったね」 「えっ、そうだったんですか」 「ふふ、やっぱり気が付いてなかったね。その大混乱の親睦会で、きみは自分の食事もせず皆の世話ばかり焼いてた。優しい子だなって思ったけど、食べ損ねるんじゃないかとハラハラしたよ。だからそっと近づいてみた。あの時の晶馬くんのびっくり(まなこ)は可愛かったな」 うっ、鈍くさく食いっぱぐれかけてたのを見られていたなんて恥ずかしい。そういえばあの時先輩は食べなさいって鍋の〆の麺を取り分けてくれたんだった。 「それから先輩って呼んでもらうようにしたけど、普通のΩの子は、ぼくと親しくなったら皆に自慢したりぼくの権力を利用したりしようとした。けど晶馬くんはそんなそぶりは一切なかった。きみは本当に僕の事をただの先輩だと思ってたんだ。 こんな事、初めてだった。分かるかな、特別なαじゃない、ただの先輩 藤代李玖の喜びが。僕は君を知るごとにどんどん惹かれていった。優しくて素直で僕を先輩として慕ってくれる君と、もっともっと仲良くなりたかった。だから会うたびについお菓子を渡してたんだ。 食が細そうな君が心配だったのもあったけれど、家族にエサを運んでくるオスの行動と一緒だよ。僕があげたものを君が口にする。想像するだけで、野生の本能があたかも君が僕の庇護下に入ったような気にさせた。大事な家族になった気分にね。 だからぼくは君を見てると食べ物をあげたくて仕方がなくなるんだ」 「!」 会うたびにお菓子をくれた先輩。そんな風に思ってくれてたなんて。 「僕は君が思ってるよりもずっと前から君の事を見てたよ。君との関係も大事にゆっくりと進めていきたかった。晶馬くんともっと仲良くなって恋人になり、ゆくゆくは(つが)って僕の大切な家族になって欲しいと思ってた」 先輩は目を閉じて緩く微笑み、当時を思い出したのか噛み締めるように言った。 「なのにあの日突然運命に奪われた」 「!」 心臓がドクっと大きな音をたてた。 眉間に深い皺を寄せた先輩から、冷たいオーラが立ち昇るのが見えた気がした。畏怖の念で体が硬直する。知らず知らずのうちに手足が震えていた。 この感覚は知ってる。あの時と同じだ……

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