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ーその国は森の緑と芸術家が生み出す色彩が豊かな国であった。小国でありながらも貿易は盛んに行われており、我が国「ラミネス王国」の名産品である宝石は他国で高評価を受けていた。絶えず観光客が訪れる。 灯りのない部屋で一人。糸くずひとつも身につけていないオレの体は芯からの熱に汗を吹き出しているのに、毛布の中で頭のてっぺんまで被っていた。 「はぁ……っ、はぁ……!!」 身体の芯から燃え上がるような熱と欲望にうなされ、近くにあった大きな枕を手に取る。弾力のある柔らかい生地のそれに顔を埋め、思いっきり息を吸い込む。甘い花の香りと少し汗が混じった酸っぱい香り。 (あ、あぁ……っ!!マーシャ……!!) 心の中でその名を呼んでも来ない。というよりも、呼んではいけないのだ。出来るだけ枕に口を押し付け、左手を後方に回す。 ぐちゅん。人差し指の第一関節を入れただけで卑猥な音がする。熱い。熱い、熱い。肉壁は柔らかく、中は火傷するほど熱い。ローションも慣らすこともせず、あっという間に三本も咥えてしまった。 (マーシャ、マーシャ……っ!!) 「ふっ、ふうぅっ……!」 奥に進めても届いて欲しいところにそれは届かない。仕方なく右手を己の肉棒を包み、上下に擦る。それと同じタイミングで左手を入り口に向かって押したり引いたりを繰り返した。 「ふっ……!?お、ぅ……っぁ……!!」 気持ち良い。足りない。気持ちいい。もっと。 右手全体は先走りだけでベトベトになり、左手の三本を尻は離さない。中で何度も味わっていた。 快楽と不満の割合で聞かれたら、迷わず後者の方を答えるだろう。小さな頃よりも幾分か背も伸び、腕や足のサイズも成長したが、幸福を満たすものはきっとこれでは無い。 しかし、これは一時期的なものだ。一週間ほど寝て、指定された時間に薬を飲み、寝ればまた普通に戻れるのだから。 (今日はあと、一回だけ…!!) 「っ……ン、っぁああ!!!」 三回目。性器から透明な吐き出されると体に疲労感と達成感が混ざったもので占め、大の字になって肩で呼吸し続ける。かといい、これで発情期が治まった訳では無い。後孔はパクパクと口を開き、性器はさきほど欲を吐き出したばかりなのに透明な液を漏らし、また勃ち上がっている。 (寝よう……) こういう時こそ寝るの一番だということをオレは知っていた。人間の三大欲求のひとつが起こった時、別の欲求で満たせばいい。つまり性欲が強ければ食を取るか寝るのがいい。食欲が落ちた訳では無いが、今はお腹は減っていない。 熱かまた体全体に行き渡る前に目を閉じ、深く息を吸い、吐く。それを五回ほど繰り返せばゆめの中へ誘われていく。 それがいつものことだった。 ガチャン。ドアノブを回す音が聞こえ、そこから冷たい風が入ってきた。風と一緒に、 「っ、ふぅぁ……あっ…は、はぁ…!!」 甘い花の匂い。ラベンダー系の。その人物のフェロモンは俺には大きな毒だった。肌の産毛が立ち、口の端から涎が、火照った体はフル活動し、尻から淫らな液体が溢れて出た。 思考が、呼吸が上手く出来ない。頭はぼうっとし、焦るように呼吸が浅く短くなる。 「兄さん」 その声はもっと近くなっていた。わずか数センチ。毛布越しに聞こえる声はわざと低くしているんだろう。 端を掴んでいなかったせいか、勢いよく毛布が上がりその者の顔が顕になる。 顎より短い髪。キラリと光った右耳のエメラルドのピアスは控えめな大きさながらとても綺麗だった。長く細い顔に血色のよい薄い唇は僅かに上がっていて、髪色と同じピンク色の瞳に裸の自分が映る。 「兄さん、また服着てないの?」 僕のだったらあげるのに。そんな呟きが聞こえてベッドが軋む。頬の横に骨格の良い手が両方に置かれては逃げられなかった。 (ひんやりしていて、気持ちいい) 「汗、かいてるね」 影が降りてきて柔らかい肉が自分の頬を舐める。ちろっ、ちろちろ、ちゅぅ。 「や、やだ……っ!!離れ……」 「ダメだよ」 胸の前で密着を遮っていた手を頭上に纏められてしまう。 「兄さんの相手は僕だよ?」 相手。その言葉にずくんと後孔から粘着質な液が漏れる。咄嗟に手で隠すが弟の乾いた笑いが耳に入ってくる。 「兄さんのことは何でもお見通し」 オレの体に身を乗り出すとラベンダーの甘い香りが濃くなる。火照った彼は艶やかな唇を耳元に近付けた。 「僕の吐息にさえ興奮してるんでしょ?」 彼の手が右の内腿に触れた時、自分は無意識に股を擦り付けていることに気付いた。閉じていた脚を一本開かれ、細長いオレと瓜二つの男が頬ずりをする。腿に流れるのは汗か性的な液なのか。それを厚い赤い舌で舐め取られていた。くすぐったい。 「うん、甘い」 「甘く……ない……」 「そう?肌もつやもちでいいね。しかもほら……奥にいくほどいい匂いがする」 「!!や、やめ……っ!!」 筋の通った鼻が動き、腿から前に進み、ベッドの上で仰向けになったオレからは顔が見えなくなった。起き上がる力が出ないのは幾度重ねた吐精のせいか、はたまたΩの本能が期待しているのか。どちらにせよ、快楽の渦に飲み込まれるのは明確だった。 細長い息が熱気を零す尻に当たったのも束の間、閉じていた尻肉を憐れもなく横に開かれ、 「ひっ……ぁああ……っ!!?」 ちゅっ、じゅぅ、ちゅうぅう。壷の口から蜜を飲むようにキスをされる。薄い唇は柔らかい。 「やめ、っ……マー、んぁぁああ……♡♡!!」 まるで頭の中をぐちゃぐちゃにされたみたいに気持ち良い。でも、この快楽を与え続けられてしまったらどうなるか分からない。両腿で挟みながら彼をなんとか退かそうと試みるが、ただの悪あがきにしか過ぎなかった。 「んあっ……」 「……あっ…、あ♡ふぅ、あっ……♡!!!!」 快楽に舌が飛び出る。ナカを掻き乱す彼の舌使いは熱いナカをさらに熱くさせていた。柔らかな肉質、けれど唾液のついた舌使いで舐められたり、ナカを押されるのは気持ち悪くも気持ち良い。順番はなく、彼の良いようにされてこんなにも変になるなんて。思考回路がエラーを起こして何も考えられなくなりそうだった。 ふとマーシャの顔が離れたが、尻と彼の舌を結ぶ銀の脆い線が出来たのは見なくても分かった。わずか数分であったはずなのに運動後のような疲労があり、肩の上下が治まらなかった。そんなオレをよそに彼は余裕の笑みを浮かべる。おでこは汗で前髪がへばりついていたが。 「セーラ、ばてるの早いね」 「ふぁ……あ、っ……は…っ。おま、お前が……がっつくから……」 「でも、まだ僕はセーラにキスすらしてないよ?」 「……っ!!き、キス……した、い……」 「何回イッたの?」 ニコリと口角を上げた我が弟に性的事情を聞かれてしまう。 兄弟ーー双子であっても一般的にはいくらオメガ相手といえど聞かないだろう。プライバシーや人権に関わる。 けれど、オレたちにはそんな壁はない。あっても薄いすぐに破けるような皮のようなもの。 (壁じゃない。そういう関係性なんだから……) 「さん、……かい……」 「なら、ご褒美をあげないと」 酷く甘い声と共に唇が同じ部位に触れた。角度を変えて押し付けられ、時折、舌を使って舐められる。柔らかく気持ち良い。

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